夏休み課題・読書感想文

 

学籍番号021003     青木真志

 

題材

『こころ』 夏目漱石 

 

 

 

 自分がこの本を選んだ理由は、自分が読んだ事がある数少ない本の中で最も感動したとともに、最も難しく理解するのに時間がかかる本だと思ったからです。高校の授業で一冊すべてを新鮮な気持ちで結末を知らずに読みましたが、夏休みの長い時間の中でそのときとは別の見方が出来ると思いこの本を選びました。

 内容は三章から構成されています。『先生』という主人公の不思議な魅力に取り付かれた『私』という学生の目から間接的に主人公が描かれています。『先生』と『私』の交流で物語は始まり、後半では主人公が昔、親友を裏切って恋人を得たが親友が自殺したため罪悪感に苦しみ、自らも死を選ぶまでのいきさつを『私』に宛てた手紙という形で描いてあります。

『私』と『先生』は鎌倉の海岸で出会います。『私』の眼に『先生』が最初に映ったときから特別な感じをうけた『私』は『先生』の不思議な魅力と知識・思想を求め、また、近付きたいという気持ちとは別に、近付かなければならないというように感じていたところが印象に強く残っています。『先生』はそんな『私』に対して興味を持ちながらも『私』を近づけないような態度をとります。それでも『先生』に引かれていく『私』の様子は恋をしているようにもみえます。『人間を愛し得る人、愛せずに入られない人、それでいて自分の懐に入ろうとするものを、手を広げて抱きしめる事が出来ない人。それが『先生』であった。』という表現が切なく、悲しく、苦しく伝わってきました。一度読んで結果を知っているから見えてくる『先生』の一言一言がいろんなところに出てきて再発見がたくさんありました。『先生』と奥さんのやり取りの中でなぜ子供が出来ないのかという会話があり、その答えに『先生』は『天罰だからさ』といって自嘲的に笑う場面や、『私』との会話の中での『恋は罪悪ですよ』と言う台詞など過去の悲惨な経験にとらわれ自分を軽蔑し、人間全体を信用することができない『先生』の重たい心を、結末から逆算して、前に読んだときとは違う見方ができました。

 第二章・第三章では『私』と『先生』が直接会うことはありません。二人が最後に交わした会話は『先生』がもし死んだときのことについて、いつかはわからない未来のこととして、淡々と話している場面がとても静かできれいな印象を受けました。その場面のあと『私』は父親が重い病気にかかったため帰郷します。そこでも『私』は常に『先生』の事を考え、実の父親より『先生』に親しみを感じています。そんな中、明治天皇が亡くなり、明治天皇から死ぬことを三十五年の間禁じられていた乃木大将があとを追うように自殺します。この実際にあった場面を取り巻く明治の人々の感じ方には根本的な思想のあり方が違うことを再認識させられました。現代人は経済中心、自分中心の物質主義だと思います。それに対して明治の人々は天皇中心のある種の信仰を持っていたと思います。物質主義と対照的な明治の精神主義が豊かな発想と心を生み出すのかな、と思います。

 『先生』は、明治天皇の死、乃木大将が死んだつもりで生きてきた、という自分と似たような境遇の人の自殺に自分の生きてきた時代の終わりを感じます。そして『私』から手紙を受け取り、その返信として自分の過去を心の内面もすべて書いた遺書を『私』に出します。『私』と『先生』はある日散歩をしているときの会話で、『先生』の思想を生み出した過去を『私』に教えるという約束をしていました。『先生』が思想は話してもその過去を話したがらないのに対し、『私』は『先生』の過去を知りたがっていました。この会話の場面は物語の重要な場面のひとつだと思います。静かで重たい空気が二人の間に流れ、『先生』が遺書を書く前で最もその過去に近づいています。『先生』の様子には鬼気迫るものがあります。遺書にもその場面の、『私』が『先生』の過去を真面目に生きた教訓として知りたい、と言った態度を尊敬すると書いてあります。常に人間すべてを軽蔑し、物事に対し冷めた目をしていた『先生』が、初めて他人への敬意を口にした場面だと思います。『私』の純粋でまっすぐな心に、心を閉ざそうと努めてきた『先生』の心が動いたのだと思います。『先生』は書生時代に両親を亡くし、叔父に世話になり過ごしていると思っていました。しかしその叔父は『先生』の両親の遺産をごまかし、金のためにいろいろな策略をしかけ、『先生』は人間不信に陥り彼らと絶縁します。その後『先生』は下宿生活に入り、そこの奥さんとそのお嬢さんに出会い、『先生』はお嬢さんに恋をします。そんな中、『先生』は親友のKと下宿で同居を始めます。生活をする中でKもお嬢さんに恋をし、Kはそのことを『先生』に告白します。このときの『先生』がもがき苦しむ姿は読んでいる側まで苦しく、選択に困らされます。『先生』はKを出し抜き、お嬢さんとの結婚を取り付け、『先生』との会話、駆け引きの中で『恋を止める覚悟なら無いこともない。』と言っていたKはのどを切って死んでしまいました。Kが血を流して倒れている描写がおぞましく、生々しく感じました。また初めて読んだときにあまりに突然、サラリと『Kは死んでしまったのです。』と出てきて驚いた事を覚えています。

 第三章は『先生』が過去を告白した手紙であり、実際には汽車の中で『私』があの文を読んでいることになります。登場人物には名前が無く、私(青木真志)も前編の物語の中で『先生』の不思議で悲しい人格に魅せられた『私』の一人なので、『私』になったつもりでゆっくり読み返してみて、『先生』の悲しくどうすることも出来ない恋愛と苦しんだ末の悲惨な結果に胸が締め付けられました。しかし父親の死に目をすっぽかしてまでも『先生』に会いに走った『私』が何をどう思っていたのかは考えても想像がつきませんでした。

最後に、一番印象に残っている文章は最初の一段落です。『決して余所余所しい頭文字など使う気にはなれない。』とあります。最初に読んだときには気に止まるはずもありませんが、二度目にはKとの対比にすぐ気づきました。自分のせいで死んでしまった親友でさえ頭文字で表す『先生』と、『先生』を想ってやまない純粋な『私』との決定的な違いを表していると思います。人間のもっとも深く暗い部分を透明な文章で描いたこの作品をこれからも何度でも読み返したいと思いました。難しいけど。

 

 

この授業を通して本を読むことのおもしろさがわかりました。また僕は自分の思ったことを表現することがこの感想文を読んでいただいてもわかるように非常にヘタクソです。良い本、良い作家とたくさんふれあい自分を向上させたいです。ありがとうございました。

 

九月四日に親戚に不幸がありまして昨日まで帰省していたため提出が遅れてしまいました。すみませんでした。