第6回「あり方懇」傍聴記

国際文化学部 倉持和雄

 

1 はじめに

 213()、午後2時から第6回「あり方懇」が開催され、最終答申案をめぐって討議された。前回116()の第5回「あり方懇」では座長の橋爪氏の答申私案が提出された。その私案で「廃校も選択肢の一つ」として提起され、これが翌日の神奈川新聞で大きく報道されたため、学外においても市大の行方がいろいろと憶測されることになった。教員組合では神奈川新聞に対して抗議の意を込めた書簡を送付し、「あり方懇」委員に対しては事務局が提出した資料の間違いや恣意性を指摘し、かつ大学当事者の意見に耳を傾けるよう訴えた。橋爪私案の新聞報道で市大の行く末を心配した市大OBたちが中心になって28日(土)には、「市大の将来を考えるシンポジウム」が開催された。

こうした動きがある程度は功を奏したのかどうかは分からないが、第6回「あり方懇」で「廃校」の提案は優先順位を後退させた。つまり当初の橋爪私案は、「廃校」「売却」をまず打ち出し、それが無理な場合には「抜本的改革による存続」という提案の仕方であったが、今回の答申では明らかに「抜本的改革による存続」を前提として「存続の条件」「そのための具体的改革案」を提示するという形になっている。もう一つ、将来構想委員会のメンバー(島田委員長、小島副委員長、布施副委員長)に来てもらい、大学当事者の声を聞いたということである。とはいえ、正直言ってすでに時遅く、将来構想委員会の意見をあり方懇の議論に反映させるという余地はなかったと言わざるを得ない。事実、将来構想委員会中間答申については質疑応答がなされたが、一応、聞き置くといったものに過ぎなかった。実際、その後の答申案の討議はこれと無関係に進められた。

さて今回の「あり方懇」は要するに最終答申案を具体的にまとめる作業であった。提出された答申案は、橋爪私案を土台にして(といっても既述のごとく「存続」をむしろ基調にして)、他の委員の意見を採り入れ、これを事務局でとりまとめたものである。とりまとめの際には事務局側で多少の修正を施したようである。というのは、座長がこれは「わたし自身が書いた文そのものか」などと事務局側に質している場面があったからである。ともかく今回の討議は、提出された答申案をめぐって、字句の修正、表現の仕方といった細かな技術的な議論までなされた。このため会議は大幅な時間延長となり、6時過ぎまで行われた。

さてこの傍聴記では、そうした細かな字句訂正のことは煩瑣となるので省略し、たたき台として提出された最終答申案のなかで委員の間で論点となったものについてだけ紹介したい。議論の結果、修正が施される部分もあるので、その点も示したい。もちろん実際に字句までどう修正されるのかは不確実である。しかし、今回でほぼ最終答申案の方向性は確定したと言ってよいだろう。一応、答申案の順番で、また基本的に議論の順に従って紹介していくことにする。

 

2 「横浜市が公立大学を有する意義」について

p1の公立大学のあり方として論じている部分で、「横浜市の産業経済に、十分な貢献を行っている」の例示に「委託研究、産学共同など」となっていて、大学による学術成果が除かれている。橋爪座長によると公立大学に高度な学術成果を期待する必要はない、と考えてあえて入れなかったようだが、有馬委員の意見で「優れた学術成果」を例示に入れることになった。

あと表現の問題で、p2の選択肢を提起する前で「懇談会では、残念ながら、可能なあらゆる選択肢を検討せざるを得なかった」の「残念ながら」というのが、表現として強すぎるのではないかとか、いやそんなことはないと言ったやりとりがあったが、結局、削除することになった。この部分でそれ以外は、ほぼ細かな字句の問題であった。

 

3 「横浜市立大学が存続するための条件」について

ここはp23の「3年後に、大学の赤字を、現在の半分(  億円)に圧縮し、5年後に、収支均衡を達成する」という部分をめぐってかなりのやりとりがあった。

問題は大学の赤字をどうとらえるのか、収支均衡とはどういうことか、大学と病院を一緒にして議論するのか、別々にするのか、目標の年限は妥当か、といったことについて、かなりのやりとりがあった。橋爪座長は、ともかく具体的な数値目標をぜひ入れたいということであったが、それを具体的にどうするかという点で、自分はよくわからないということで、他の委員や池田理事の意見を求めていた。ここでかなり強硬派は森谷委員であった。「3年で半減、5年で収支均衡」が達成可能な目標かという座長の質問に、「可能でしょう」と答えると共に、彼は1140億円の市債残高の問題まで適切な返済計画を進めていくことも明示すべきだとまで主張した。市債残高については、市全体の問題として処理するという説明を受けても大学関連で発生したということは明示して欲しいと意見を述べるほど、市債残高の問題に固執していた。これに対して、塩谷委員は3年で半減というのは難しいのではないか、有馬委員は半減出来たとしても収支均衡というのは難しいのではないか、と疑問を呈した。川渕委員も医学部や病院に関して収支均衡をどういう基準でとらえるのか、大学と病院を一緒に論じることはできないのではないかと問題にした。そもそも何をもって赤字とするかについてもいろいろやりとりがあった。池田理事の受け答えなどをも踏まえ、結局、「3年後に大学については一般繰り入れ(現状でほぼ120億円)の半額、病院については医業収支均衡をめざす」というようにほぼまとまりがついた。具体的にどういう表現になるかは事務局と詰めることになった。

 

4 「横浜市立大学の改革の方針」について

ここではp3の「教育に重点をおいたプラクティカルなリベラル・アーツ・カレッジをめぐって議論があった。橋爪座長はこのリベラル・アーツ・カレッジ化により市大が日本でオンリーワンの大学になると期待したようだ。しかし、最近、早稲田大学で国際教養学部が設立されることを知り、それが自分の構想と似ているので、もはや市大がその最初の大学にはならないといった話を切り出し、そのことからひとしきり早稲田大学の国際教養学部の内容が話題となった。

リベラル・アーツ・カレッジ構想そのものにとくに反論はなく、枕詞である「プラクティカルな」というのが、リベラル・アーツと矛盾しないか(古沢委員)、いや矛盾しない(塩谷委員)、リベラル・アーツはプラクティカルでなくてもよいのではないか(有馬委員)、いやリベラル・アーツでもプラクティカルな中身があってもよい(塩谷委員)、といった議論がなされた。結局、プラクティカルな中身の実例、進路(例えば、座長は市大が他のよい大学院への進学率を高めるということを目指すべき方向ではないかいうのが持論で、そのようなことも示すべきだろうと述べた)などの説明を加えていくということになった。またカタカナ表現をできるだけ避けるか、カッコ内に日本語表記を入れた方がよいという意見があり、リベラル・アーツ・カレッジについては、国際教養大学という表現にほぼ固まった。

 

5 「改革の具体策」について

ここでは答申案がいろいろなことを盛り込んでいるために出された意見もいろいろであった。整理も難しいので羅列的に列挙することにする。

 

*教員身分

教員の身分について最初に問題になった。森谷委員が、一方で教員の任期制をうたっていて、他方で主任教授の終身身分、「生涯にわたって教育者、研究者としての待遇を与える」(p5)というのはどうかと切り出した。これに対して、橋爪座長は「終身身分とはいわゆるテニュアで、これは全員に与えるべきものでなく、中心になるべき者のみに与えるものだ。」、「生涯に渡る待遇というのは、研究会への参加とか、メールアドレスの利用といったことだ」と答弁した。

森谷委員はあくまで終身身分を与えることを疑問視する様子であった。一方、塩谷委員は実績によって終身身分を与えるというのは魅力になるとして肯定的にとらえ、しかし主任教授が人事権を持つと権限が強くなり過ぎ、人事権を持たない方がよいと意見を述べた。川渕委員も誰がテニュアを決めるのかということが問題だと同調した。橋爪座長は、主任教授は提案権を持つが、人事委員会で全学的にチェックすると答弁した。

 

*教育・研究の評価制度

「教育・研究の両面に評価制度を導入する。」については、●を付けてぜひ実現すべき事項として欲しいと池田理事から希望が出された。

 

*教学と経営の分離(経営責任者と学長の関係)

教学と経営の分離に関連した議論があった。経営責任者は市長が指名し、その経営者は市の公務員でないと池田理事は説明した。経営者と学長の関係について、やりとりがあったが、両者に緊張関係がありながらも信頼関係がなければ経営がうまくいかないということに話はまとまり、それを保障するような学長や各責任者の選び方について文言はともかく答申に書き込むということになった。

 

*三学部の統合

三学部を一学部に統合するということについて、有馬委員が、これでよいのだろうか、別の代案があるわけではないが、問題提起だけしておきたいと述べた。しかし、これはそれ以上、議論されることはなかった。

 

*修士課程と寄付講座

さらに有馬委員は修士課程についてもっと豊かな内容を盛り込めないだろうかとして、これまでにも提案してきた持論の公共政策をおくことはできないかと再度、提案した。それに寄付講座のようなかたちで実現できないかと述べたが、寄付講座について池田理事は目指す方向としてはよいとしても実力がなければ売り込めないと意見を述べた。

 

*エクステンションカレッジ

市民誰も入学できるエクステンションカレッジに関してもやりとりがあったが、エクステンションカレッジを大学と別に設置するよりは一緒の方が学生に対しての刺激もあり、よいだろうという意見が強かった。市民の利用については市債残高分をバウチャーとして配分してその分は利用できるというようなことを考えてもよいという意見が座長から出された。有料か、無料かについては大学の方で決めればよいだろうということになった。

 

*工学系研究体制の編成

川渕委員の持論で医工連携の重要性の提起を受け、「理系においては、工学系の研究体制を編成する」という一文があるが、池田理事からここは「工学系を含めて」という風に修正願いたいと申し入れがあった。

 

*研究費

橋爪氏は、研究費に関して、教育に重点をおくこと、財政上の観点から研究費の市費支出はしないということにしたが、外部資金を導入しておおいに研究を進めて欲しいし、また経営の責任者と教学の責任者である学長が戦略としてどの分野を伸ばしていくか議論をしてもらい、市と交渉してもらえばよいとの座長見解を述べた。これに対し川渕委員は、生命科学の分野は市のバックアップがあってよいのではないかと意見を述べた。

 

*法人の単位

医学部と病院を他と切り離した一法人にするというのも一つの考え方ではないかと川渕委員が意見を述べたが、池田理事は市としては大学と病院を含めた一法人が適切だと考えている、あえて切り離すとすれば、病院だけしかないと述べた。

 

*会計制度

川渕委員が部局別会計を導入すべきだという提案をし、これについては橋爪座長、森谷委員も同調し、収支構造を改善していく上で部門内ごとの会計制を樹立することをうたうとした。

 

*大学の目標

リベラル・アーツ・カレッジのところで、進路をかなり自由で柔軟に選ぶことができるという説明をぜひ入れるべきであると古沢委員から希望が出された。

 

*入試制度

OA入試をどの程度、実施するのかということで、多様のやり取りがあり、入学システムとしてはOA入学制度をむしろ主体とすべきだろうということでまとまった。座長は、それによって夏休み前によい学生を確保できるだろうと述べた。

 

*病院経営の評価

「第三者の評価」(p7)についてどういうものかということで、いろいろ議論が出されたが、現時点でそのような第三者機関はないので、法整備をみながらそれに従っていくとした。

 

*病院と医学部の分離

川渕委員から病院と医学部を切り離すことでどんなことが変わるのかという疑問が出されたが、これに対して池田理事は切り離さないと医学部の講座がそのまま病院に入り込んでしまい患者中心の医療を進めていくことにならない、医学部と病院の前近代的関係が整理されないと回答した。

 

6 おわりに

今後についてであるが、今回出された意見を事務局側で整理し、次回最終のあり方懇までに二度ほど見てもらい、次回は字句修正程度にしたいということであった。次回あり方懇は227日(木)午後1時から市庁舎2階の会議室でおこない、2時半に市長へ答申提出をすることになる。

さて一時「廃校」も心配されたが、最終的に「存続」を前提に事が進められて行くであろう。しかし、そのために「大胆な改革で生まれ変わる」ことが要請されている。「廃校」を脅しで使っておいて、この「大胆な改革」を押しつけるということこそが、当初からの目的であったのだと思う。その改革では、何よりも財政面=経営面のことが第一義的に取り上げられている。まさにこれを実現するための組織、人事をまず実現し、大学の目標や教育内容などはその次の問題というスタンスが見受けられた。

いよいよ市長へ答申され、今度は市の手によって具体的な「改革案」が作られていくが、基本的に上記のようなスタンスは変わらないであろう。そもそも実は、中田市長自身がこれをねらっていたという情報がある。新自由主義者で民営化論者の中田市長は、横浜市政において民営化できるものは民営化し、できないものも企業会計基準を持ち込んで評価しようと、ねらっているというのだ。そして病院(港湾病院と市民病院)と大学が最初の標的になっているというのである。そうだとするとこれはたんに大学改革にとどまる問題でなく、横浜市政の問題として取り上げなくてはならなくなる。今後、組合としては、広範囲な市民への訴えかけと理解を得なければ、こうした市長側の攻撃に抗することはできないのではないかという思いを深くしている。

2月20日に委員長を交代する。次期の執行委員会では、より正確な情報をよりどころにし、新委員長を先頭に一層の健闘をお願いしたいと思う。