“言論弾圧事件”:トカゲの尻尾切りか?
小川学長「全学委員会で検討指示」を否定
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“言論弾圧事件”:トカゲの尻尾切りか?
小川学長「全学委員会で検討指示」を否定
2003年2月26日
総合理学研究科 佐藤真彦
【解説】
下記に,平 智之氏による小川恵一学長宛の返信(2003-2-22)を掲載する.
平氏の返信は,“言論弾圧事件”(注:私(佐藤真彦)が“部外秘資料”をホームページに掲載(2003-1-28)したことに対して,総合理学研究科長 榊原 徹氏が部局長会議で提訴したことに基いて,学長が“全学委員会で検討を指示”した事件(2003-2-5))に抗議して,平氏が学長へ通告(2003-2-7)し,これに対して学長から回答(2003-2-20)があり,さらにこれに対して平氏が返信(2003-2-22)したものである.
学長の回答では,(1)私の事実申し立て(“言論弾圧事件”の経過報告2003-2-6),および,永岑三千輝氏の学長宛の公開質問状(2003-2-11)に何ら誠意ある回答が示されていないこと,および,(2)総合理学研究科長の発言「本問題(注:“部外秘資料”ホームページ掲載問題2003-1-28)を含めて,今後このような問題が生じたらどうするか,また,生じないようにするにはどうするかを検討する全学的な委員会を立ち上げることを学長が指示した(部局長会議2003-2-5)」を明確に否定し,「全学委員会で検討を指示したことなどなく,単に,下相談させてくださいと発言した」だけであると主張していることが分かる.
かりにこの主張が真実だとすれば,研究科長は@「サーバー管理者に対しアクセス不能化の要請」(2003-1-29)を行ったばかりでなく,A研究科委員会(2003-2-6)において出席した全教員の前で“偽証”したことにもなる.
この間の学長の態度は,客観的には,「私が問題を提起(2003-2-6)し,平氏が公然化(2003-2-7)してから2週間にわたって放置し,日和見をきめこんでいた」ところ,言論弾圧事件の意外な広がりを見てそれまで忠誠を尽くしてきた研究科長を,トカゲの尻尾切りよろしく切り捨てることで,「みずからの安泰を図る」というリーダーとしての学長にあるまじき態度に映る.
また,私が『“部外秘資料”が語る,横浜市立大学“独裁官僚”と似非民主制2003-1-28』中で「なぜ“部外秘”なのか?,情報公開徹底の方針と矛盾」と問題提起し,また,ある教員も「そもそも大学改革をめぐる議論・諸案をどうして機密にしなければならないのでしょうか.市長自身が情報公開を公然と掲げて当選し,自ら実行しているではありませんか.学内世論を喚起するためにも,また世の人々の理解を得て意見を求めるためにも起案段階で公開したほうがよろしい.大学改革の動向について今ほど世の関心を集めているときはありません.」と疑問を提起している点に何ら回答していない.
さらに,先日の「横浜市立大学の将来を考える市民集会2003-2-8」においても,「ところで,本日,学長の姿が見えないのはどうしたことか?(横浜市大OBの発言)」,「学長には開催を,そして参席を申し入れたが,都合があるということで断られ,開催予定日を改めもう一度申し入れたが,今度は返事をもらえなかった.市大が過去二度ほど存立危機に晒されたときを思うと隔世の観があるといわざるをえない.(主催者
松井道昭氏の基調報告)」と,「池田(注:横浜市大“改革”を陰で牛耳る“独裁官僚”池田輝政氏(理事・総務部長))路線に尻尾を振る学長のイメージはシンポジウムに出た人々の間では浮き彫りにされつつある(ある教員の見解)」という状況がある.
また,「前2回の廃校の危機時と,今回のばあいが著しく違うのは,校長および学長を中心軸として大学首脳部が一丸となって防戦につとめたこと,教員がそれによく応え,学生を巻き込んで,抗議集会,座り込み,市役所への陳情を盛んに行った点である.前2回の危機(昭和18〜19年および昭和32〜34年)に直面したときの校長(学長)は奇しくも同じ人物=前田幸太郎氏であった.彼は,文部省,市役所に陳情のために日参.あまりの心労がたたったのか,前田学長は騒動が一段落してすぐに他界してしまった.」のである(主催者
松井道昭氏の基調報告).
このように,学長の態度に「隔世の観」があることに加えて,さらに,前2回の時と異なり今回の危機は,横浜市大当局が「独立行政法人化の潮流」を口実に,思想の自由・表現の自由に直結する「学問の自由」を保障した「大学の自治」を根こそぎ破壊しようとしている点,いわば,戦後民主主義の歴史的な転換点となるような重大な危機である点である.すなわち,2,3年じっと我慢していれば,元の状態に復帰できるというような問題ではなく,批判や懐疑の精神が大学から失われてしまうという,いわば,民主主義の空前の危機であるという点である.
ここで注意すべき点として,「学問の自由」自体も,それが国民の人権規定の一つ,すなわち,国民一人ひとりの「探求の自由」であり,「精神の自由」であり,「知る権利」であって,決して「大学人の特権的自由」などではなく,国民の「真理・真実を学び知る権利」と一体のものである点がある(堀尾輝久,『いま,教育基本法を読む』(岩波書店,2002,p.131参照).
小川学長をはじめとする大学首脳部は,この点をまったく理解していないばかりか,“独裁官僚”の池田氏に積極的にすり寄ることで,学内の民主的な動きを抑圧しようとしているのであり,今回の“言論弾圧事件”もその一環として理解されるべきことなのである.
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【商学部教授 平 智之氏による小川恵一学長および川内克忠商学部長
宛の返信】
小川恵一学長 殿
川内克忠商学部長 殿
前略 さる2月20日に相次いで、私としては佐藤真彦教授に対する「言論弾圧」と認識している事件に対する、それぞれのご見解のメールを頂戴しました。
ただ、拝読する限り、さる2月5日の部局長会議での、ご両人の職務上の対応のご説明にとどまると理解いたし、私が問題の重大性を感じている本質的な点には、どちらも答えられていない、と申し上げざるをえません。
なぜなら、すでにインターネットを通じて公表されお読みと思いますが、佐藤教授が翌2月6日の総合理学研究科の八景キャンパス会議で、榊原徹同研究科長が実際に試みた行為を聴取してまとめた申立書http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/page041.htmlには、部局長会議での榊原科長の報告に対して「その結果、本問題を含めて、今後このような問題が生じたらどうするか、また、生じないようにするにはどうするかを検討する全学的な委員会を立ち上げることを学長が指示した」と記述されています。取り急ぎ、佐藤教授に確認いたしましたところ、この点は同教授自身が研究科会議に「出席した全教員の目前で念を押して複数回確認した」と明言されました。
ところが、小川学長は、その榊原報告に対し「私は調査委員会などを設定する前に、情報公開やその関連法規について詳しい人とも相談して今回の件をどのように扱うのがいいかまず下相談させてくださいと発言しました。公序良俗に著しく反していない限りホームページ掲載削除などはできないとも発言しました。部外秘資料の扱いに関する罰則規定などもないと発言しました」と主張されています。これは、明確に榊原科長と小川学長の各言明が齟齬し、当事者でなくどちらの会議にも出席していない私は真偽を判断しかねます。いずれが真実であるのかを、情報公開条例に基づき「議事録」の開示を請求して、学内外の公開の場で吟味し議論することも、今後検討する必要があると存じます。
しかし、当面より重要なことは、小川学長の上記のご言明がもし事実とすれば、今後、評議会において市大LAN上での教職員・学生の「言論の自由」を脅かす違憲の疑いが濃厚な規定などを制定するがごとき危惧は「杞憂」に近くなったと理解いたします。万が一、それが再び発生する事態に至れば、私は前信でもご通告いたしましたように、新年度以降の教員の職務・労働問題も含め、学生時代の活動仲間の弁護士と協議の上で法的対抗手段を講ずることも準備しながら、事態の推移を注意深く見守っていきます、ということをもちまして、小川学長のご主張に対する取りあえずのご返信といたします。
さらに、私が看過しがたいのは、上記の佐藤教授の申立書に記述されている以下の事実関係です。すなわち、榊原科長がサーバー管理者に対しアクセス不能化の要請を行なった行為、および、その規定がないことを理由に管理者に拒否されたという経緯、こちらこそ「日本国憲法第38条第1項−自己負罪拒否特権あるいは黙秘権」にもかかわらず、同科長本人が公式の研究科会議であえて言明したことに鑑みても、佐藤教授はじめ多数の教員の証言も得られる、すでに疑いの余地のない客観的事実です。
上記の行為は、もし現実に実行された場合、近年コンピュータ犯罪に即して改正された刑法上は「第234条第2項−電子計算機損壊等業務妨害、第259条−私用文章等毀棄」、あるいは従来規定でも「刑法193条−公務員職権濫用」に該当するのではないか、と専門外ながら一研究者の法的感覚から考察します。上記の部局長会議で事務局が、佐藤教授に対し「公務員の守秘義務」云々を言い立てる以前に、榊原科長の行為こそが実行に至ったならば重大な犯罪として刑事告発されることを、関係者は十分肝に銘ずるべきでしょう。
以上、取り急ぎ私見をご返信いたしますが、当事者の佐藤教授、および同様の危惧を抱いて2月11日付でご両人に「公開質問状」を発せられた永岑三千輝教授にも、部局長会議を代表して小川学長は、責任あるご説明をなされるべきだろうと、最後に申し添えます。
2003年2月22日
商学部教授 平 智之
【付記:本文で言及した法文類】
@日本国憲法
(自己負罪拒否特権あるいは黙秘権)
第三十八条 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
A刑 法
(電子計算機損壊等業務妨害)
第二百三十四条の二 人の業務に使用する電子計算機若しくはその用に供する電磁的記録を損壊し、若しくは人の業務に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与え、又はその他の方法により、電子計算機に使用目的に沿うべき動作をさせず、又は使用目的に反する動作をさせて、人の業務を妨害した者は、五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
(私用文書等毀棄)
第二百五十九条 権利又は義務に関する他人の文書又は電磁的記録を毀棄した者は、五年以下の懲役に処する。
(公務員職権濫用)
第百九十三条 公務員がその職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害したときは、二年以下の懲役又は禁錮に処する。