読売新聞編集長殿

同編集局社会部記者 古沢由紀子殿

 

 

 貴紙200347日づけ記事「存亡の危機に立つ大学」について、社会の公器として果たすべき公正な報道という点において極めて重大な疑義を覚えます。

 

本記事は、「大幅な定員割れが続いていた」立志館大学が「数億円の負債を抱え」休校が決まったことを報じ、あわせて横浜市立大学が同様の「存亡の危機」に立っているかのように描き出しています。本記事は、立志館大学に関する問題と横浜市立大学に関する「市立大学の今後のあり方懇談会」(以下、「あり方懇」)の答申問題を全く同列に扱っています。しかも、記事の分量の配し方も立志館大学関連に3分の2を与え、わずか3分の1で横浜市立大学を論じており、読者を「大幅な定員割れ」と「数億円の負債」を抱え込んだ立志館大学と同列の問題を横浜市立大学が抱え込んでいるかのような予断を与えるものとなっています。

 

 また、「累積債務」1140億円が「市財政の大きな負担となっている」と述べていますが、このような表現では、横浜市立大学が高額の赤字を抱え込んでいると誤解されてしまいます。「あり方懇」答申のこのような理解の問題点に関してはすでに各方面からの批判が出ています。その実態は正確には横浜市がおもに大学病院建設や医療関連設備の整備のために市債を発行した残高が1140億円となっていることをさしています。病院や関連諸施設は横浜市民の貴重な資産となっているものです。したがって、この資産の存在を考慮するならば、横浜市立大学が赤字を抱え込んでいるかのように単純には評価できない性格のものです。

 

 また、記事は「市の一般会計から約120億円が繰り入れられている」という答申の表現を無批判的に論じていますが、教育が営利的な営みではないことにわずかでも想到できたならばこのような安易な表現は避けられたものと思います。大学運営における「設置者義務主義」が法律上明記され、すべての国公立大学で国や地方公共団体の繰入金が計上されていることは言うまでもありません。

 

 私たちは、横浜市立大学当事者を排除して学外者のみで構成された「あり方懇」がその見解を大学に強要することは、「教育は不当な支配に服することなく」と定めた、教育基本法第10条に抵触する恐れがあると考えます。しかも、市大自体が作り出した高額の赤字という誤った認識を前提として論じていることは極めて恣意的かつ操作的であると言わなければなりません。市大をめぐるこうした現在の状況に鑑み、今回の上記報道は、世論形成において甚大な否定的影響を与えるものです。上記報道は、貴紙が社会の公器であるとの認識に確固として立ち、関係各方面への慎重な事前調査が行われれば回避しえた性格のものです。

 

しかも、読売新聞は、あまたある各種報道機関のなかでも、「あり方懇」答申と横浜市立大学をめぐる諸問題に関して最もよく知りうる立場にあります。そのことを考えるにつけ、極めて重大な疑義を覚えるとともにある種の不自然さをも感じます。貴紙編集局は、貴紙編集局社会部記者の古沢由紀子氏が、「あり方懇」の7名のメンバーの一人であったことを当然ご承知のことと思います。古沢氏は、委員として関連資料を誠実に検討すべき公的立場にあり、教員組合が「あり方懇」委員に送付しました上記「赤字問題」批判を含む書簡をも受け取り検討されているはずです。

 

その意味で古沢記者のお手元の諸資料や多方面の見解を踏まえて最も公平・公正な報道が可能な立場にある貴紙が、そうした公正さを欠いた一面的な記事を送信をされたことに驚きを禁じえません。さらに、答申は「横浜市立大学が存続する意義を、市民、納税者の視点から問い直そうとしたものだった」と述べていますが、私たちは、「あり方懇」では市民の見解それ自体を問う具体的な作業は1度もなされなかったと考えますが、この点は、「あり方懇」委員として古沢記者はどのように考えますか。

以上の申し入れに関して、編集局および古沢記者は横浜市立大学教員組合まで文書でご回答ください。回答期限は、416日とします。

(なお、7名の「あり方懇」委員の方に25日づけでお送りしてあります書簡を同封します)

 

200349

                       横浜市立大学教員組合