教員組合書記長が大学改革推進本部を傍聴し、記録をとった。

その学長説明部分の記録を今日頂戴した。

 

この学長説明にも、大学の自治の原則の無視、大学の最高意思決定機関としての評議会審議規則の無視など、重大問題が含まれている。

 

各方面から学長は辞任すべきだとの声が上がって久しいが、今回のこの説明を読んでも、その根拠が一つ打ち固められたという感じがする。

コメントと言う形で、脚注に問題点を指摘しておきたい。

 

 

 

 

------------------------8月21日大学改革推進本部における学長説明------------------------------

 

8月21日の第2回横浜市立大学改革推進本部における提出資料に関する学長の説明部分に関して追加して報告します(記録者:横浜市立大学教員組合浮田書記長)

2003年9月2日

 

-------------

                            横浜市立大学教員組合

 

 <学長の説明>

 

大学改革案の大枠の整理について貴重なご意見を賜れればと宜しくお願いいたします。前田本部長よりとても良い挨拶、ありがとうございます。プロジェクトRで、鋭意検討し、それを親委員会で検討していただきまして、更に評議会にも[1]出しまして全学に周知してゆく[2]というプロセスを踏んでおります。大学改革案の整理についてひととおりまとまりました[3]ので、報告させていただきます。時間の関係もありますのでU,X,Zを中心に紹介したいので宜しくお願いいたします。

 

I 大学改革の背景

 急速に進む高齢化、少子化、産業構造の変化やグローバル化など、我が国の杜会・経済情勢は大きく変貌している。(このあとの文章の読み上げは省略)

 また、現在、市内には横浜市立大学を含め14の大学があり、横浜市が公立大学を有する意義を明らかにする必要がある。

・独立法人化の話が副市長からありましたが、、これは大学審議会の長期にわたる審議の結果、「個性輝く大学」というのがひとつのきっかけになって独立法人化がすすんでいます。他の大学とどこが違うのか[4]をきちっと示さなければいけないということです(学長コメント

 

U 横浜市が有する意義ある新たな大学像

 市立大学は「発展する国際都市・横浜とともに歩み、教育に重点を置き、幅広い実践的教養と高い専門能カを身に付けるプラクティカルなリベラルアーツを目指した実践的な国際教養大学[5]」を明確な目標とする。

 さらに、本学の教育・研究・運営が、市民・横浜市・市内産業界及び医療の分野をはじめとする多様な市民杜会の要請に迅速に応えるものでなければならない。

 これらの使命を全うするとともに、本学の個性が最大限に発揮できるよう従来の教育研究組織を改め、教育組織として学府・学部、大学院を置き、教員の所属組織として研究院を置く[6]。この教育組織と教員の所属組織を分離するという新たなシステムにより、教育カリキュラムに応じて必要な教員を研究院から確保できるようになるなど、時代の変化に対応した柔軟な教育体制の編成とフレキシブルな組織運営が可能となる。

・学府とか研究院という考えは2年間にわたって将来構想委員会で検討してきた成果であります(学長コメント

 従来の3学部(商学部・国際文化学部・理学部)を1学部に統合し、新たな学部の名称は『国際総合科学部(仮称)』とする。この学部のもとに学府を置く。学府は、総合経営学府(仮称)、理工学府(仮称)、国際教養学府(仮称)などとする。なお、必要に応じて課題別教育コース、学府横断的リベラルアーツ教育コースなどを上記3学府の他に設けることができる。

 医学部の講座制を廃止し、附属病院を医学部附属から、大学の附属機関とする。

 看護短期大学部の4年制化の準備を進め、組織体制等のあり方について検討する。

 各学府は個性輝く大学の一翼を担うよう最大限にその個性を発揮させうるものとする。また、各学府は相協力するとともに相互に切瑳琢磨するものとする。

・当然,各学府間の壁は低くし、リベラルアーツの精神を最大限発揮できるシステムにします。(学長コメント

 大学院については、原則としては、文系は博士前期課程に限り、理系、医系は博士前期課程と精選された分野に限り博士後期課程を設ける。

・図の説明。文系は博士後期課程はない。理系は後期課程を置く。医系はCOEに指定されたので、こういう方面の研究も重要である[7]。大事なのは、国際教養学府を中心に網掛がありますが、これはリベラルアーツを中心とした教養教育をおこなうということを意味している。全学部にわたってそういう教養教育を行う。それだけでなくて国際教養学府を中心として高度なリベラルアーツの教育を行うことをあらわしている。そして3学府については全体を国際総合学部と称する。医学部、看護については今後の検討とする。研究院に教員は所属する。研究の最小単位を構成するもの。病院の方は医学部を離れて病院があるのをご注意いただきたい。学生のための教育システムが真ん中に座っている。(学長による図の説明とコメント

 

V 地域貢献と産学連携(一部省略して読み上げ)

 市立大学は、市民に理解され、市民の二一ズに応えられる事業を展開する。

(1)大学の持っ知的資源・財産などを提供し、市民の生涯学習を積極的に支援

(2)地域が必要とする人材の養成・供給や市民医療の充実・強化

(3)技術支援、研究成果の提供などによる産学連携の推進

 

IV 市民の信頼を得るための諸制度の導入(一部省略しながら読み上げ)

 教職員は、それぞれの立場で専門性を高めるとともに、柔軟で効率的な執行体制を整える。

(1)中期目標や中期計画など目標による管理

(2)適正な業績評価の仕組みの導入

(3)大学独自の工夫が生かせる弾力的な財務運営システムの導入

(4)情報公開による説明責任の遂行と杜会的信頼性の確保

 

V 教育・研究の活性化に向けた組織体制と人事システムの構築

(1)研究の拠点であり教員が所属する組織(研究院等)と教育組織(学府等)を設置し、従来の学部の縦割の弊害を廃した、時代の二一ズに柔軟に対応できる教育・研究組織を構築する。

(2)カリキュラムの編成と執行責任を明確にするために、カリキュラムの管理システムを確立する。

・あり方懇の主任教授制を導入し、副学長制を導入し、カリキュラムを管理するということで検討している(学長コメント

(3)能カ・実績主義に基づき透明性の高い人事システムを構築し、大学の目標が効果的・効率的に達成できる人事制度とする。

@教員の人事については、公募制を原則とするとともに、全学的な視点にたって、大学に新たに設置する(仮称)人事委員会において選考する。

A教育・研究の活性化を図るため、適正な評価制度のもと、教員の任期の設定や、年俸制などインセンティブの高い給与制度を導入する。

・適正な評価制度とセットとなっています(学長コメント

 

Y 大学の自立を支える経営改善(ごく一部省略しながら読み上げ)

 持続可能な大学経営の実現を目指し、大学としての期限を明示した数値目標を設定するとともに、横浜市からの繰入基準について大学としての考え方を整理する。

 また、大学の経営状況を正確に把握するための財務会計制度を取り入れる。

・これはこれからの検討課題です(学長コメント

 

Z 社会の変化に対応する運営の革新

(1)大学改革を実施する上で、独立行政法人化は、有効な手段であるとの認識に立つ。

 また、新たな制度であることから、引き続き独立行政法人化の導入にあたっての課題などについて検討していく。

(2)教育研究組織と経営組織との役割を区分することによって、教育研究組織としての自主性・自律性や専門性がより一層発揮できるようにする[8]とともに、それぞれが連携・補完しながら機能する組織運営体制を構築する。このため教育研究の責任者である学長と経営の責任者である理事長を分離する。

 

・図の説明。国立大学法人と公立大学の独立法人は違う。左側の理事長というのは公立大学法人の特例[9]に即している。左が経営組織。右が教育研究組織で、学長は右側の上。経営と教育研究を分けるが、経営審議機関に副理事長として学長、我々の場合はそれだけでなく副学長と病院長を理事として加え、経営と研究の意思疎通をなめらかにすることを意図している。主な審議事項は図に書いてあるとおり。右側の教育研究審議機関は学部長や、他の部局長が参加し、主な審議事項は図のように教育研究に関する重要事項、・教育研究に関する中期目標への意見、中期計画、年度計画・教育研究に関する規程・学生の身分や生活指導・部局等間の連携調整などを審議する。下の2つは重要で、独立法人化した場合の組織体制である。○教育研究組織と経営組織との役割を区分することによって、教育研究組織としての自主性・自律性や専門性がより一層発揮できるようにするとともに、それぞれが連携・補完しながら機能する組織体制を構築する。このため、教育研究の責任者である学長と、経営の責任者である理事長を分離する。

○なお、経営組織側に、副理事長となる学長をはじめ、副学長や病院長などが理事として加わることにより、教育研究組織側の意向が十分に反映されるような組織とする。

以上、学長コメント

 

[ 教育・研究体制の見直し等

 時代の二一ズ、地域貢献、経営改善等の観点から、教育研究体制の見直し・検討を進める。例えば、

@生命科学の重点的・効率的な教育・研究体制構築に向け、総合理学研究科生体超分子システム科学専攻、医学研究科、木原生物学研究所を再編する。

A経済研究所について、そのあり方を検討する

B地震研究センターや環境ホルモン研究施設については、それぞれの位置付けや市への貢献などを整理する。

Cキャリア開発など学生の就職支援を強化・充実する。

D横浜にある国際機関との連携を深め、インターンシップや人材交流など、市立大学ならではの教育・研究活動の充実を図る。

・[は議論を進めていませんが議論をする必要があるもの。@は大学の売り、ABは地域貢献で大学の顔になって欲しい。CDは学生の自覚を促すもので、最近新聞その他、身近な学生の態度からうすうす察していると思いますが、勉学に対する態度、就業観が希薄、フリーターなどという言葉で表されますが、こういう問題は好ましくないので、こういうことについてきちんと学生に自覚を促してゆくシステムを作りたい。(学長コメント

                                                               



[1] 大学改革推進本部での説明(821日)に先だって、818(月曜日)臨時評議会を開催したことは事実である。

 だが、商学部教授会で学部長が説明していたが、その召集は815(金曜日)だったか、いずれにしろ数日前であった。私の聞き間違いでなければ、学部長は、「突然召集して有無を言わさず結論を押しつけるつもりかと驚いた」と教授会で発言した。

 

評議会という大学の最高意思決定機関(現行法規上)の召集期間(しかも問題の重要性からすればなおさらきちんと召集期間を設定しなければならない)としての正当性を欠くものであった。したがって,当然にも、非常に欠席者が多かったと言う報告だった。問題の重要性からすれば、出席者は過半数ぎりぎりというのでは正当性を欠くであろう。いったい何人出席だったのか、誰が出席し誰が欠席していたのか、こうしたことが今後問題になりうるだろう。

そもそも大学の憲法的問題を検討する評議会がそのような拙速・無原則な形で召集されたこと自体、学長(事務局長)の大学の自治に関する認識に深刻な問題性があることを露呈している。形式さえ整えればいいではないかという官僚主義がある。

 

[2] 「全学に周知していく」というが、評議会においてすら多数の欠席者がいた。「あまねく知らせる」ということが,実質として,いかなる程度達成されたのか? 21日までに「あまねく知らせる」という事態ではなかっただろう。

 なぜか?

 反論・異論を聞きたくないからである。徹頭徹尾,非民主的姿勢であり、官僚的な上意下達の姿勢なのである。

「あり方懇」の傲慢不遜な座長私案や答申には頭を下げながら、大学内の意見については十分に耳を傾ける姿勢がないのである。また,大学内にある異論をきちんと踏まえて構想を練り上げ発展的に総合する精神と力量がないのである。だから、有無をいわせない形で、異論などあることが顕在化しないうちに、大学改革推進本部で説明してしまおう,という態度になる。

 そして、大学内のきちんとしたバックアップを踏まえていないから、またまたアドヴァイザーなどの「ご意向に添って」などといった卑屈な態度、外部の意見に不当に頭を下げることになってしまう。そうした精神構造だから、大学の主体的態度を毅然として示すような発言にならないのである。

 

[3] 「ひととおり」というのは表面的な意味でそうであって、あくまでも5月から818日まで完全黙秘・緘口令でいっさいの大学内の自由な議論を封じた上での「幹事会」の「まとめ」にしかすぎない。

 評議会でも、正当性を欠くかたちで臨時評議会を開いて、一方的に伝達しただけのものである。十分な検討の時間を前もって評議員に与えたものではない。

 

[4] 現在のプロジェクトRの案だと、「個性輝く」どころか、画一的(=無教養)な「教養主義」大学改革を「あり方懇」によって押しつけられた面目失墜の大学ということになってしまう危険性がある。こんなことをすれば、横浜市は、それこそ「大学を持つ資格なし」と全国から嘲笑されることになろう。

 

[5] この「明確な目標」は、まったく明確ではない。「あり方懇」答申の丸写し(=無教養)として、各方面から批判が出ている。

大学のきちんとした議論を踏まえたものではなく、「あり方懇」座長私案(「辣腕」事務局案)に押しきられたものにすぎない(cf. 欺瞞の塊り:「プロジェクトR」[総合理学研究科・佐藤真彦]。概念や論理の矛盾は,広く深く大学内外で指摘されている。

 

[6] 今回のプロジェクトR幹事会案(その前提となる将来構想委員会中間報告案)で,唯一考慮に値するかと評価している点は、「教員の所属組織として研究院を置く」という部分である。これは、全学部の教授会の上部組織として、すなわち全学教授会として位置付けられるものであろう。

 

この研究院=全学教授会が大学自治の担い手としての重要な機能を発揮すること、その大学自治の担い手としての研究院=全学教授会の下に、各学部教授会を配置すること、その権限関係を有機的で効率的なものにしていくこと、こうしたことはありうる発想ではないか、検討してみる価値はあるのではないか、と思われる。

 

全学教授会=研究院にどのような権限を与え、どのように編成するかに関しては、いろいろのことが考えられよう。科学文化の研究教育という本務にふさわしい現代的あり方が創造されなければならないだろう。

 

その場合、日本の科学者コミュニティの代表(会員210名が、登録学術研究団体(学・協会)1356から選ばれた180の研究連絡委員会で2370人の委員の活動により支えられて、全国の研究者約73万人を代表する)としての日本学術会議の改革のあり方は、参考になろう。

 

「日本学術会議の改革の具体化について」20037月、日本学術会議運営信議会付置・日本学術会議改革推進員会)(p4)によれば、「科学の進歩発展による台頭してきた新分野、融合分野を取りこむための柔軟性」を考慮し、適切に対応するべきだとの総合科学技術会議意見具申(政府決定)を踏まえて、下記のような提案をしている。 

いずれ(来年度中にも)学術会議法の改正で法案化されるであろう基本方向で、現在、研究研連などからの意見を集約している段階のものである。従来の7部制を大胆に3部制に編成替えしようというのである。

 

3部制

 次のような理由・趣旨で、「人文社会系」、「生物生命系」、「理工系」(いずれも仮称)3部制とする。

@    新しい「部」は、活動上の緩やかな括りにすぎず、もとより数の論理が機能すべき場ではないが、コミュニケーションのための言語の共通性は考慮して設定する必要がある。

A    複合領域・新領域の集合を「部」として設定することは、言語の共通性の点で適切でないばかりか、かえって、広範な既成領域を巻き込んだ革新や融合にむけての取り組みが抑制されるおそれもある。

B    「生物生命系」は、「人文社会系」とも「理工系」とも境界面を有し親和性を持って交流でき、また科学研究費補助金の配分額と件数で5割の比重を占めていることなどから、「部」として設定することが適切であり、これにより、「部」の間の交流・共同が促進されて一体性が強化される。

C     いずれの「部」に所属しようと、総合的・俯瞰的視点に立った学際的・超域的活動を推進することが基本的な責務とされる。

 

()現行の法律用語上、「人文(科学)」、「社会(科学)」、「生物()、「生命(科学)」、「理()」、「工()」はあるが、「人文社会」、「生物生命」、「理工」はない。

 なお、日本学術会議法(8条第3項、第10)、科学技術基本法(1条、第2条第2)をはじめ、人文科学と社会科学を合わせて「人文科学」とするのが通例である。

 

[7] 一体医学部にどれだけの資金を投じてきたのか?

 文科系学部にどれだけ手厚い財政的支援をしてきたのか?

 医学部系が今回COEが取れなければ、それこそ学部長その他辞職ものだっただろう。

 逆に、これまでの商学部,国際文化のこと,そして今後の発展を考えれば、文科系の博士課程も原則として維持する、ということでなければならないだろう。

 今回,文科系博士後期課程を廃止するという案を出したこと一つ取ってみても、いかに学長など大学幹部が日本全国の動向,科学研究の動向、大学基準協会などが示している評価を真摯に受けとめていないか、「あり方懇」の不当な答申に屈しているかを全国に示したものとなっている。

 

[8] 国立大学法人は学長=理事長であり、この本学学長の論理でいくと、「教育研究組織としての自主性・自律性や専門性」は発揮されないことになる。全国の国立大学法人から集中砲火を浴びてもよさそうなひどい論理ではないか?

 

[9] 公立大学法人法(条項)も,本則は国立大学法人法と同じく,学長=理事長である。その公立大学法人法のなかの特例・例外規定をあたかも公立大学の一般的規定であるかのごとく説明している。

 これにたいして,大学改革推進本部が一切発言しなかったとすれば、大学改革推進本部もなにも勉強していないことになる。