2003年9月10日(3) 明日の臨時教授会においては、何をなすべきか? 都立大学の恐怖支配のような現状を見ると、横浜市の態度は、まだ、平穏に見える。恐るべきことだ。このわが大学と横浜市の現状は、積極的に活かす必要がある。現在までのところ、あまり異論が出ていないポイントは、教員組織としての研究院(全学教授会)と教育・研究指導の場である学府(「学部・大学院」)を区別することであり、「研究院」として教員組織の総合性や融合性、学部の狭い垣根を越えた柔軟な協力の可能性を切り開くことなどについては、ある種の前進面として、猛烈な反対は出ていないように思われる。
しかも、この「学府―院」の分離構想は、学内で全国の動向などを睨みながら時間をかけて模索してきた中で生み出されてきた独自のものであり、他方では、あの外在的高圧的な「あり方懇」座長も先日(8月21日)の「大学改革推進本部」でアドバイザーとしての資格から評価しているものである。「学府―院」の相互分離という構想は、その意味で、全体的に理解がえられているといえるのではないか。
問題は、「学府―院」の内容である。
本学の歴史を考え、8年前に国際文化学部と理学部をやっと専門学部として独立させた苦労と社会的承認(市当局・学生・市民の承認・年年応募者が増え、社会的認知度が高まってきている現状・・・ワンデー・オープンスクールの盛況ぶりを見よ!)を考えれば、決して一つの学部に統合してしまうことは許されないだろう。学生・市民に対する各種のアンケート調査は、圧倒的に3学部統合に反対である。また、8月21日からの全学部・研究科の意見書においても、統合には共通に深刻な危惧が表明されている。
3学部統合論者が主張しているところ、すなわち学部間・学科間の垣根を低くすることは、研究院という教員組織が出きれば十分に対応可能であろう。
これまでの大学内部の発展と議論から出てくるところは、3学部を維持しながら相互流動性を高め、学生・院生・教員の相互交流・相互協力を柔軟に行える画期的システムとしての「学府―院」の構想を練り上げることではなかろうか。
プロジェクトR(幹事会)案の3学部統合(3学部解体、学府という名称はつけたが学科に毛の生えたような代物としての「学府」)には、明確に反対である。
学府の中に商学部、国際文化学部、理学部、医学部を置くべきである。それぞれの大学院研究科を維持しながら、高齢化社会・社会人の大学院教育などを考慮して、大学院組織の柔軟性・総合性を模索すべきである。
研究院は全学一体のアカデミーとして編成し、教員の研究教育の相互交流・協力を柔軟に行えるようにすべきである。
研究院の内部組織は、たとえば人文社会部会、生物生命部会、理工部会といった3部制を考えることもできよう。この3部制は、73万人余の日本の科学者を結集するボトムアップ型科学者コミュニティである日本学術会議が21世紀の新しい世界の科学研究に対応する変革のあり方として構想しているものであり、教員組織の編成原理・研究院の編成(部組織)のあり方において、十分に検討に値するものと思われる[1]。
[1] すでに、書いたことだが再録しておけば、
今回のプロジェクトR幹事会案(その前提となる将来構想委員会中間報告案)で,唯一考慮に値するかと評価している点は、「教員の所属組織として研究院を置く」という部分である。これは、全学部の教授会の上部組織として、すなわち全学教授会として位置付けられるものであろう。
この研究院=全学教授会が大学自治の担い手としての重要な機能を発揮すること、その大学自治の担い手としての研究院=全学教授会の下に、各学部教授会を配置すること、その権限関係を有機的で効率的なものにしていくこと、こうしたことはありうる発想ではないか、検討してみる価値はあるのではないか、と思われる。
全学教授会=研究院にどのような権限を与え、どのように編成するかに関しては、いろいろのことが考えられよう。科学文化の研究教育という本務にふさわしい現代的あり方が創造されなければならないだろう。
その場合、日本の科学者コミュニティの代表(会員210名が、登録学術研究団体(学・協会)1356から選ばれた180の研究連絡委員会で2370人の委員の活動により支えられて、全国の研究者約73万人を代表する)としての日本学術会議の改革のあり方は、参考になろう。
「日本学術会議の改革の具体化について」(2003年7月、日本学術会議運営信議会付置・日本学術会議改革推進員会)(p.4)によれば、「科学の進歩発展による台頭してきた新分野、融合分野を取りこむための柔軟性」を考慮し、適切に対応するべきだとの総合科学技術会議意見具申(政府決定)を踏まえて、下記のような提案をしている。
いずれ(来年度中にも)学術会議法の改正で法案化されるであろう基本方向で、現在、研究研連などからの意見を集約している段階のものである。従来の7部制を大胆に3部制に編成替えしようというのである。
3部制
次のような理由・趣旨で、「人文社会系」、「生物生命系」、「理工系」(いずれも仮称)の3部制とする。
@
新しい「部」は、活動上の緩やかな括りにすぎず、もとより数の論理が機能すべき場ではないが、コミュニケーションのための言語の共通性は考慮して設定する必要がある。
A
複合領域・新領域の集合を「部」として設定することは、言語の共通性の点で適切でないばかりか、かえって、広範な既成領域を巻き込んだ革新や融合にむけての取り組みが抑制されるおそれもある。
B
「生物生命系」は、「人文社会系」とも「理工系」とも境界面を有し親和性を持って交流でき、また科学研究費補助金の配分額と件数で5割の比重を占めていることなどから、「部」として設定することが適切であり、これにより、「部」の間の交流・共同が促進されて一体性が強化される。
C いずれの「部」に所属しようと、総合的・俯瞰的視点に立った学際的・超域的活動を推進することが基本的な責務とされる。
(注)現行の法律用語上、「人文(科学)」、「社会(科学)」、「生物(学)、「生命(科学)」、「理(学)」、「工(学)」はあるが、「人文社会」、「生物生命」、「理工」はない。
なお、日本学術会議法(第8条第3項、第10条)、科学技術基本法(第1条、第2条第2項)をはじめ、人文科学と社会科学を合わせて「人文科学」とするのが通例である。