都立4大学の統廃合をめぐる危機の現状
9月9日 東京都立大学・短期大学教職員組合中央執行委員会
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組合員の皆様
都立大学・短期大学教職員組合から事態が急変している都立の状況に関する訴えが届きましたので、ワードで添付致します。どうか熟読の上充分に吟味して下さい。市大の今後を考え、今何をすべきかをよく語ってくれると思います。
市大では、幹事会の案が外部に対しては、「大枠」が決まったとして基本的な方向が固められたという形で進んでいます。あるところでは、大学当局は、幹事会案が教授会、評議会の議を経ているとまで説明しています。しかし、学内に向けては、「大枠」なのだから意見を述べて欲しいとして、個人意見を聴取する形をとりつつ、しかし、「教授会で決定する性格のものではない」(学長)と言って教授会などが組織としての意思表示をすることに否定的な態度を示しています。学長の教授会自治への不当な介入です。明らかに2枚の舌を使い分けています。
この文書にありますように、都立で「新たな検討体制」に参加する学長、部長は個人の資格で参加するのであって、学部を代表するものでなく、そこでの情報を外に流すことも禁じられています。教授会としての意思表明を完全に不可能な形にしています。
市大で、今、教授会としての何らかの意思表示をしないならば、幹事会案に教員組織としての反対や疑義が表明されていないのだから学内の議を経た、支持を得たとしてこれが進行します。教員組織の意志を表明するルートを断つことは都立と同じです。また、幹事会には完全に箝口令を敷いています。これも都立同様です。
今決定的に、大事なことは教授会としての何らかの意思表示をできるだけ早くしておくことではないでしょうか?10日には医学部、11日には、理学部、国際文化学部、商学部の教授会が開かれます。都立大学の教訓のひとつは現行法規の下での教授会の権限と機能が充分に発揮されることではないでしょうか?
もう一つ注意したいことは、都立では8月29日に、「新大学への移行」ではなく、新大学の設置であることが、示された点です。つまり、そこには分限免職の可能性が出てきていることです。
教員組織が毅然として明確な現行法上の確固たる権限を行使しなければ、将来にわたって足下を見られることにもなりかねないと思います。もちろん、教員組合は最悪の事態は回避するために断固として闘います。教授会においても是非とも必要な力を発揮していただきますようお願い致します。
現在の事態に関しては、様々なご意見がおありのことと思います。どうかメールや執行委員にご意見をおよせ下さい。皆さんの総意を結集して可能な手だてを打っていかなければならないと思います。どのようなことでも健康です。よろしくお願い致します。
横浜市立大学教員組合執行委員長
藤山嘉夫
教員組合ホームページ
http://homepage3.nifty.com/ycukumiai/index.htm
都立4大学の統廃合をめぐる危機の現状
9月9日 東京都立大学・短期大学教職員組合中央執行委員会
1.急変した事態
都立4大学(東京都立大学・科学技術大学・保健科学大学・都立短期大学)は現在、統廃合をめぐって重大な危機に直面しています。石原知事のもとで東京都は、現存する都立4大学を一つにして、2005年4月、新大学を独立行政法人のもとで発足させるとして、去る7月まで4大学と協議しながら、その構想を準備してきました。しかし、8月1日の記者会見の場で石原知事が、これまで検討・準備されてきたものとは学部構成・キャンパス配置など全く異なる構想を発表するとともに、都大学管理本部は現大学総長・学長に、これまでの大学側も加わった検討組織は前日をもって廃止されたこと、大学管理本部側により大学代表者を加えない新たな検討組織を立ち上げることを通告しました。その後、管理本部は、現在進めようとしていることは「大学の統合」や「新大学への移行」ではなく、4大学の廃止と新大学の設立であるとして、事実上現大学を排除する形で、新大学の設立準備を進めようとしています。
このような事態は、私たち都立4大学で教育・研究に携わる教職員にとって深刻であるばかりでなく、都立4大学がこれまでに多くの教職員や卒業生らとともに築き上げてきた教育・研究の歴史と有形無形の財産を台無しにし、さらにこのような大学改変が許されれば、大学の自治と民主主義の乱暴な破壊として日本の大学全体にとっても重大な影響を与えると考えられます。
以下に、都立4大学の改革をめぐるこれまでの簡単な経過と、現在起きている問題についてお知らせし、現在の事態への皆さんのご理解とご支援をお願いいたします。
2.都立4大学の改革・統合をめぐるこれまでの経過
@ 国立大学の独立行政法人化や大学再編の動向が全国的に広がる中、都立4大学の改革・統合問題は、石原知事の誕生した1999年春以降、急速に浮上してきました。2000年1月以降知事は、夜間部を廃止し私学に売却もあり得る、4つの大学を束ねスタンフォードのような大学をつくり、大学から東京の教育を変えるなどと大学改革について発言しはじめました。そこでの主な内容は産業活性化のための産学協同、財政効率化、「入学しやすく卒業しにくい大学」などでした。
大学側はこうした動きに対し、知事からの圧力を感じつつ、大学側による主体的な改革構想の策定に向けての努力を行いました。2000年1月には都立大学が改革案策定のための新たな体制をつくり「東京都立大学改革計画2000」を策定するとともに4大学が連携して主体的に構想をつくることを意図しました。
しかし知事は、大学側のこうした構想を受け入れず、都庁内に大学等改革担当室を設置するとともに、大学に対して、2000年秋に発表する「東京構想2000」に盛り込む計画案を作成するように求めました。さらに同年夏には知事は都立の大学の外部監査を行わせました。発表された外部監査報告は、大学の総経費から授業料収入などを除いた額を「赤字」とし、4大学の統合と教職員の削減などを提言しました。
そうした中、都立大学では知事の意向も受け入れる形で、同年7月、社会との連携を担う機関の新設・拡充、学生が「出口」で評価されるような学部教育改革、初等教育から高等教育までの改革を促す入試改革などを柱とした「新・東京都立大学改革計画2000」を策定するとともに、「効率化」の要請に応えるためB類廃止を決定しました。
東京都は同年12月、「東京構想2000」を発表しましたが、そこではそれまでの大学側の検討は十分反映されず、「都立の大学を改革し新しい大学のモデルをつくる」ことを目的に、入試改革や独立行政法人化などが提言され、2001年夏に「東京都大学改革大綱」を策定するとされました。
A これ以降、都側の主導のもと、大学側と都側とが協議しながら改革案を検討していく体制がつくられていきます。2001年2月に都大学等改革担当室から「東京都大学基本方針」が出されるとともに、3月には都教育長、総務局長、4大学総長・学長などからなる大学改革推進会議が設置され、大学改革大綱の検討が進められました。
7月には都庁内に大学管理本部が設置されるとともに、東京都大学運営諮問会議が設置され、知事から「都立の大学のありかた」について諮問が行われました。
11月、「東京都大学改革大綱」が発表されました。これには4大学を統合し短大を廃止した上で2005年4月に新しい大学を発足させることが示されました。基本的な考え方として、「教育機能の強化」「都民生活・都政への貢献」「設置形態及び管理運営体制の見直し」をおこなうことがうたわれ、具体的には入試方法の改善や高校との連携強化、教養教育を重視した学部教育、多様な履修システム、ロースクール・ビジネススクールなどプロフェッショナルスクールの設置、産学公連携センターの設置や都政との連携、独立行政法人化、非公務員化、法人の長と学長との分離、評議会・教授会権限の限定、任期制の検討などが盛り込まれました。
これを受けて2002年5月には、都立新大学設立準備委員会が、教育長・大学管理本部長・4大学総長学長をメンバーとして設置され、この7月までこの体制のもとで、新大学の設置準備が行われてきました。その基本的骨格は、人文・法・経済・理・工・保健科学の6学部、人文科学研究科・社会科学研究科・理学研究科・工学研究科・都市科学研究科・保健科学研究科などの大学院に加え法科大学院・ビジネススクール・先端技術研究科などの設置、学部教育については保健科学研究科の2年生以上を除き南大沢キャンパス、教員定数515名(現4大学867名)、学生数1500名などとされていました(注1)。
この間、4大学の教職員は、理事長・学長の分離や経営部門の権限の強さなどをはじめ、様ざまな問題点を批判しつつも、現在在籍する学生・院生への教育責任や将来入学してくる学生・院生にとって少しでもよい大学にしていくために、準備作業に労を惜しまず協力してきました。統合に伴う人員の再配置計画から教育課程編成、新しい学部教育体制に必要な時間割の検討から教室等の確保計画、研究室の再配置計画など、2005年4月発足に向けての作業は大変なものでした。
(なお、昨年末までの経緯詳細は、大串隆吉「〈緊急報告〉東京都立の大学の統廃合・法人化に至る道」『教育学研究』70巻2号(日本教育学会)をご参照ください。コピーがご入用の方は、都立大学教育学研究室乾または大串(fax0426-77-2083)または東京都立大学・短期大学教職員組合(tel0426-77-0213)まで。なお、知事会見の直前までいかに、新大学計画が具体的に進み、最終段階になっていたかは別記(注2)参照)
3.8月1日以降の事態
このような準備作業が設立準備委員会のもとで進行しているさなかに、8月1日にこれまでの構想を一切覆す知事の記者会見が行われました。記者会見にあわせて大学管理本部から発表された「都立の新しい大学の構想について」は、「大都市を活かした教育の実現」などがうたわれ、南大沢キャンパスに都市教養学部と都市環境学部、日野キャンパス(現科学技術大)にシステムデザイン学部、荒川キャンパス(現保健科学大)に保健科学部を配置するとともに全寮制(50人)の「東京塾」を設置するなど、これまで設立準備委員会で検討・準備されてきたものとは全く異なる内容になっています(詳しくは、東京都ホームページ・報道発表2003年8月1日付を参照)。
これらのことは知事の記者会見の直前に、大学管理本部長より4大学の総長学長に一方的に伝えられました。その際、大学管理本部長からは、従来の検討体制は7月31日をもって廃止されたこと、新たな検討体制を立ち上げ速やかに動かしていくこと、この構想は知事の公約の実現であること、今後はこれに責任をとれる者が計画を担うことなどが告げられたといいます。
8月29日には、科学技術大学学長・保健科学大学学長・都立大学人文学部長。法学部長・経済学部長・理学研究科長・工学研究科長の7名が大学管理本部に呼ばれ、新たな検討体制への参加を要請されました。そこで大学管理本部長からは、新大学設立本部のもとに教学準備委員会と経営準備室を設置し、教学準備委員会は西澤潤一座長(岩手県立大学学長)のもとに外部有識者と学内教員を任命すること、学内教員については基本構想に積極的に賛同しかつ旧大学の資源に精通した者を任命したくその意志を確かめるため7人に集まってもらったことなどが告げられました。
その際、新「構想」を発表した背景として、a「大学改革大綱」発表以降に工業等制限法の廃止等の社会状況の変化があること、b「新大学の教育研究に関する検討会」の専門委員から東京全体の都市計画や研究所資源が視野に入っていない、都心部が計画に組み入れられていない、経営的視点が欠けている、学生や卒業生の受け入れ先の視点がない、国際性が貧弱などの問題点が指摘されたこと、c都議会自民党から大綱への厳しい意見があることなどが、あげられました。なお「新大学の教育研究に関する検討会」とは、知事の指示でこの5月に急遽設置されたもので非公開で議事録も公開されておらず、そのメンバーすら8月まで明らかにされていませんでした。したがって上記の「問題点の指摘」が果たして正式に答申されたものなのかすら不明で、ましてや自民党の「厳しい意見」は伝聞に過ぎません。
さらにこの席で大学管理本部長は、あくまで「大学の統合」や「新大学への移行」ではなく、4大学の廃止と新大学の設置であることを強調し、さらに大学の廃止・設置は設置者権限であり、旧4大学は新大学設計の上での資源の一つであると述べました。
この大学管理本部長の説明と参加要請にたいし、人文学部長は保留、2学長と4学部・研究科長は参加を受諾しました。教職員組合が都立大学5学部・研究科長に会見を求めたところ、所用で会見に参加できなかった法学部長、保留した人文学部長を除き、経済学部長・理学研究科長・工学研究科長は、構想に賛同したわけではなく教育・研究を守りよりよくする立場から、学部・研究科に責任を負う立場で参加したとのことでした。また人文学部長もその後、他の学部長と同じ立場から積極的に意見を述べるためという理由で、人文学部臨時教授会の了承のもと参加することになりました。
しかし大学管理本部側は、学長や学部長・研究科長など大学・学部・研究科を代表するのではなくあくまで個人として(したがって学部などからの意見を反映させることはおろか、準備委員会での検討の様子についても学内に公表しないことを求めるなど)、さらに一方的に示された基本構想に賛同することが前提ということを強権的に押しつけてきています。
4.問 題 点
以上からもわかるように、ここに至る経過と現在都立4大学が直面する事態には、多くのきわめて重大な問題があります。
第一にその進め方です。知事がその権限を持って(あるいは権限を越えて)大学に対して圧力を加え、さらには言うことを聞かなければいまある大学を一方的に廃止し、一方的に新しい大学をつくるとしています。これは大学の自治と学問の自由を完全に踏みにじるものです。またそればかりでなく、知事のもとで東京都が決定した「大学改革大綱」(2001年)について、それを何ら正当な根拠なく覆していることです。「大綱」を変更する根拠としてあげられている「新大学の教育研究に関する検討会」はすでに述べたように密室のもとでおこなわれたものですし、また「都議会自民党との日常的な折衝」のなかで出された批判などは密室政治そのものです。行政レベルの公開と民主主義・アカウンタビリティすら踏まえていません。
さらに変更を必要とする根拠の内容についてみれば、社会状況の変化としてあげられる工業等制限法の廃止・都市再生特別措置法の制定・知的財産基本法の制定などはそれまでに検討されてきた構造を根本から覆す根拠とは、とうていなり得ません。また、専門委員や自民党都議からの意見として伝聞的に伝えられたもののほとんどは2年前に出された「大学改革大綱」へのものであり、その後の検討・準備の中で豊かにされたものは全く無視されています。その結果、例えば「国際性の視点が貧弱」としながら、7月までの構想に含まれていた日本語教育学コースなどは、新「構想」では失われています。
第二にその内容です。都市教養学部や都市環境学部など、学問的な裏付けもあやふやなものが並べられている一方、例えば現人文学部については、日本文学・中国文学・英文学独文学・仏文学など文学系の学科・専攻がなくなり、さらに哲学・史学・教育学なども失われる可能性があります。また、法科大学院を準備しているにもかかわらず基礎となる法学部は構想にはありません。また学部構想は示されましたが、大学院については未だその構成や設置時期すら不明です。こうした中で、将来入学する学生・院生への教育はおろか、現在在籍する学生・院生の教育に卒業まで責任の持てる体制が確保できるのかどうかも全く不明です。
第三に4大学の教職員の雇用・身分が全く不明確な状態です。これまでも分限免職は行わないとしながらも、大幅な教員定数減により多くの教員が過員状態になることが見込まれていました。しかし、今回の新「構想」発表では任期制・年俸制などがうたわれる一方で雇用の継続については一言も触れられていません。とくに「旧大学の廃止」などの言葉からは、事実上の選別がおこなわれる危険すら感じさせる状況にあります。しかも、選別の基準として強圧的トップダウンを受け入れるか否か、という明らかに思想信条の自由を侵す基準が使われようとしているのです。
以上、9月6日現在の都立4大学の状況です。現在の状況について、より多くの方々にご理解頂き、関心と支援を寄せられるよう、お願いします。
(注1)
東京都公式HP、「これまでの報道発表」調査・報告、2002年5月17日、「都立の新大学の基本構想及び設立準備委員会の設置」
(http://www.metro.tokyo.jp/INET/CHOUSA/2002/05/60C5G500.HTM)
(注2)
第13回 都立新大学設立準備委員会企画調整委員会 会議次第
平成15年6月23日 午前9時30分から
都庁第一本庁舎25階 115会議室
1 大学管理本部転入幹部職員の紹介
2 前回議事要録の確認
3 大学管理本部職員異動に伴う設立準備委員会の各委員会・部会等の委員の変更について【報告】
4 公務員養成課程WGの検討状況について【報告・審議】
5 学生支援WGの検討状況について【報告・審議】
6 「東京未来塾(仮称)」の検討状況について【報告・審議】
7 教育課程・教務分科会の検討状況について【報告・審議】
8 入学者選抜分科会の検討状況について【報告・部会依頼事項】
9 産学公連携について【報告】
10 新大学の施設整備について【報告】
11 そ の 他
配付資料
1 大学管理本部幹部職員名簿
2-1 第12回都立新大学設立準備委員会企画調整委員会議事要録(案)
2-2 各分科会・部会の開催状況・予定(平成15年4月以降)
3 都立新大学設立準備委員会 各委員会等委員名簿
4-1 公務員養成課程(仮称)の検討について(まとめ)
4-2 公務員養成課程(仮称)履修モデルイメージ
4-3 公務員養成課程WGメンバー名簿
4-4 学部教育における公務員養成の検討について
5-1 学生支援WGメンバー名簿
5-2 新大学での就職支援について
5-3 新大学での留学生受入れについて
5-4 大学改革での留学生受入れについて