「横浜市立大学の新たな大学像について」に関する声明

 

20031030

横浜市立大学教員組合

 

 1029日、横浜市立大学の小川学長は、横浜市大学改革推進本部会議において「横浜市立大学の新たな大学像について」(以下、「大学像」)を提出した。

 

1)「大学像」を検討した1022日の臨時評議会においては多くの評議員からの反対意見や疑問の表明が行われ、採決を求める提案がなされた。にも関わらず、「慣例にない」として採決がなされなかった。さらに、この評議会において反対・疑問が集中して議論に多くの時間を費やした人事委員会問題と全教員への任期制導入問題に関して、これに反対した者の氏名を議事録に残すべきであるとする評議員からの提案をも小川学長は合理的な理由もなく拒絶した。本学の最高の意思決定機関としての評議会の議長たる小川学長は、評議会運営上の手続民主主義において重大な問題を犯している。評議会の民主主義的な運営と言う点においてきわめて遺憾である。1028日の国際文化学部臨時教授会においても同趣旨の見解が表明されている。

 

21022日の臨時評議会のみならず、本学代表、評議会議長、プラン策定委員会委員長としての小川学長のこの間の学内世論形成における非民主主義的な運営手法は看過し難い。大学改革推進・プラン策定委員会の幹事会委員には厳しい緘口令を敷き、教授会での決議を行うことを牽制するなど、その秘密主義、非民主主義、乱暴なトップ・ダウンは目に余るものがある。

 本「大学像」とその伏線となってきた諸案(「あり方懇」答申、「大学改革案の大枠の整理について」、「大枠(追加)」)に関して、それらの本質的な諸論点について学内で厳しい批判が相次いできた。本年のこの6ヶ月においてさえ、各学部の教授会、臨時教授会、付置研究所の教授会、評議会、臨時評議会、プラン策定委員会などにおいてそれらに対する極めて厳しい批判が続出した。事実、学部教授会、大学院研究科委員会においては都合9件の反対決議や教授会見解が表されてきているのである。教授会と多くの教員の意見表明にもかかわらず、小川学長の秘密主義と乱暴なトップダウンによってそれらはほとんど改革案に反映されずに来た。今回の改革案は決して学内の総意を結集したものとは認めがたく、今後さらに検討を要する事項を数多く残していると考える。

 

 

 

3)かつまた、横浜市へ提出された本「大学像」は、10月17日の臨時評議会で初めて公表され、22日の臨時評議会においても検討の対象とした「横浜市立大学の新たな大学像について(案)」(以下、「案」)に対して、この臨時評議会終了後に看過し得ない加筆や修正、削除などが施されたものとなっている(教員組合作成の「『横浜市立大学の大学像について(案)』と『横浜市立大学の大学像について』の異動」を参照のこと)。随所に変更が施されているが、とりわけ、「第5章 地域貢献」はほぼ3ページにわたって大幅なリライトがなされている。また、次の記述は看過しがたい。「案」では「国立大学法人法」と「地方独立行政法人法」の「特徴」として次のように記述している。「各大学が自ら定める中期目標、中期計画に沿ってその達成度が認証評価機関によって評価される」。然るに、市へ提出された「大学像」において、この部分は次のように変更されている。「設立団体が定める中期目標、及び各大学が自ら定める中期計画に沿ってその達成度が認証評価機関によって評価される」。

 国立大学法人法と地方独立行政法人法が、国や自治体が中期目標を定めるとしていることは、大学と教育研究の自立性を大きく侵害するものであり、これは、全国の大学人がこれらの法案を批判してきた本質的な問題点である。然るに、「案」ではこれを「各大学が自ら定める」と記述し、「大学像」では「設立団体が定める」と変更している。法人化の要諦をなすものであるので、「案」におけるこの記述の導入と「大学像」における変更は、意図的であると断じざるをえない。

評議会で確認された字句修正に意図的と言えるさらなる重大な変更が加えられている。任期制に関する事項である。評議会では、「案」の文章を次のように訂正し確認した。「多様な知識や経験を有する教員などの交流の活性化をはかり、教育研究を進展させるため、任期を定めて任用する制度とする。原則として、全教員を対象に今後、関係法令を踏まえて具体的な制度設計をすることとする」。これが評議会で修正し確認された文言である。然るに、「大学像」では、次のように書き換えられている。「多様な知識や経験を有する教員等の交流の活性化を図り、教育研究を進展させるため、原則として全教員を対象に任期を定めて任用する制度とする。今後、関係法令を踏まえ、具体的な制度設計を行うこととする」。「大学像」の記述は明らかに評議会で確認された文言と異なり、「原則として全教員を対象に任期を定めて任用する制度とする」となっており、きわめて断定的である。評議会で確認した文言を一方的に修正することは許されない。

 

4)地方独立行政法人法は、教員身分の承継を明確にしているのであり、現職全教員への任期制の導入という有期雇用への不利益変更は断じて容認し得ないものである。

「大学の教員等の任期に関する法律」(以下、「任期法」)は、「任期を定めることができる場合」を限定しているのであり、この法律によって任期制を無限定的に導入できるわけではない。現行「任期法」は限定的任期制であり、これを現職の全教員にまで拡大して無限定的任期制を採用することはこの法律に違反することになる。                     

さらに、この法律には、「任期制の導入によって、学問の自由及び大学の自治の尊重を担保している教員の身分保障の神が損なわれることがないよう充分配慮する」との附帯決議が付されており、その運用にあたって「身分保障」に関しての極めて厳しい条件が課されている。このことは、学問研究の特殊性に基づき「教員の身分は尊重され、その待遇の適正が、期せられなければならない」とする教育基本法第6条2項の規定に照らして厳密に履行されねばならない。したがって、現職の全教員への任期制、年俸制の導入は法的に不可能である。

 

5)「大学像」は、任期制はもとより、労働条件の変更に関わる重大事項を含んでいる。然るに、労働条件に関する事項にかんして独自に事前の労使交渉を行っていない。今後は、これらの諸課題の検討について教員組合との誠意ある協議に当たることを要求する。

 

以上、22日の臨時評議会の経緯、従来の学内の手続き民主主義の不徹底、「案」から「大学像」へ看過できない修正、法律上根拠を持たない現職全教員への任期制の導入、労使協議の必要性、これらに鑑み「大学像」は教授会、評議会などの全学の討議に付すべきものである。