大学教育委員会委員各位

写し 横浜市長 中田宏殿

 

 日頃より横浜市と横浜市立大学の発展のためにご尽力いただき心より感謝申し上げます。

 さて、ご存知のように、1029日、横浜市立大学の小川学長は、横浜市大学改革推進本部会議において「横浜市立大学の新たな大学像について」(以下、「大学像」)を提出しました。

 

<「横浜市中期政策プラン」に反する内容となっています>

「横浜市中期政策プラン」では、「大学院の拡充・再編等により、社会の高度化・専門化に対応した人材の育成に取り組むなど、教育・研究の充実」をはかることを「事業内容」とする「事業」として「社会のニーズに応える大学院教育の充実」を掲げています。しかし、今回の「大学像」では、原則として現存の文系大学院博士後期過程を廃止するとされています。これは「中期プラン」に反する内容となっています。また、後期過程への進学を前提に学んできた前期課程に在学する大学院生は文字どおり途方にくれております。これは在籍する大学院生と大学との契約関係に違反するものとなります。

 また、「中期プラン」では「市立大学四年制看護学部の設置」を「事業」として掲げ、2006年度に設置することにしています。しかし、「大学像」においては「医学部」のなかに「看護学府」として位置づけられており、「看護学部」としての自立性が実現しえていません。

 

<「あり方懇」答申が最大の問題にしたいわゆる「累積負債」問題がこの案によって解消されるのか否かは全くふれられていません> 

 「あり方懇」答申は、横浜市立大学は「平均的な大学よりも多くの点で上回っている・・・公立大学としては標準かそれ以上の実績を上げてきたと評価できる」としつつ、「もしも横浜市の財政が健全であり、市民がこれまでのように横浜市立大学の経費を負担していけるなら、この大学が存続していくことはにおそらく大きな問題はない」と述べて、横浜市立大学を「改革」せねばならない最大の根拠を1140億円の「累積負債」に求めていました。

今回の「大学像」は、この改革案によってこの点がどうなるのかについては、言及が一切されておりません。のみならず、全教員に任期制を導入し年俸制を実施するとしていますが、それによって人件費がむしろ大幅に増大するという矛盾を含むものとなっています。

 

<市民アンケートや学生アンケートについては学内では一切公表されていません>

 私たちは、改革案の策定に当たって学生や市民の意見を聴くこと、そしてそれらを公表することを小川学長に強く求めてきました。事実、学生の中には大学側の説明が不十分であることに対する不満が渦巻いています。ところが、市民アンケートや学生アンケートの結果に関してはこれまで一切公表されずにきました。1029日の横浜市大学改革推進本部へ「大学像」を提出する最終段階でそれらが「付属資料」として添付されています。これらの資料は、改革案を作成している学内討議の過程において公表されて然るべきものでした。しかも、アンケート調査は、その公正さを精査する上で設計された調査票の全体と調査結果の全体的なデータが公表されるべきものです。しかし、今回の公表はあまりにも断片的に過ぎます。

 しかも、そのなかにはそのアンケート調査の非科学性、誘導的性格を教員組合から指摘されて、中上総務部長が、その非を認めた上で、このアンケートを「根拠としてリベラルアーツ化などという使い方はしないつもりだ」と明言した項目(「付属資料」10ページ)も含まれています(別添の教員組合の学生向け配布ビラ「この学生アンケートに記憶がありませんか?」、および、詳細については「教員組合ニュース」818日、教員組合HPに掲載をご参照下さい)。さらに、重大なことに、「付属資料」に記載されていますアンケート項目のワーディングは、実際実施した調査項目のワーディングを改竄されています(「この学生アンケートに記憶がありませんか」の「質問8」と対照してください)。このようなアンケートで市民や学生の意見を充分に聴いたなどといえるでしょうか。さらに、このような操作された資料をもとに議会審議がなされるとすれば、それは議会を甚だしく冒涜するものといわなければなりません。

 

<全学の総意を結集したものとなっていません>

本「大学像」とその伏線となってきた諸案(「あり方懇」答申、「大学改革案の大枠の整理について」、「大枠(追加)」、「横浜市立大学の新たな大学像について(案)」)に関して、それらの本質的な諸論点について学内で厳しい批判が相次いできました。各学部の教授会、臨時教授会、付置研究所の教授会、評議会、臨時評議会、プラン策定委員会などでそれらに対する極めて厳しい批判が続出してきました。事実、学部教授会、大学院研究科委員会において、本年のこの6ヶ月という短期間に都合10件の反対決議や教授会見解が表されています。教授会と多くの教員の意見表明にもかかわらず、「プラン策定委員会」幹事会の委員に対して厳しい緘口令を敷くなど小川学長の秘密主義と乱暴なトップダウンによって、それらはほとんど改革案に反映されずに来ました。今回の改革案は決して学内の総意を結集したものとは認めがたく、今後さらに検討を要する事項を数多く残しております。

 

<評議会の運営に関して重大な疑義があります>

「大学像」を検討した1022日の臨時評議会においては、多くの評議員からの反対意見や疑問の表明が行われ、採決を求める提案がなされました。にも関わらず、小川学長は、「慣例にない」として採決をしませんでした。さらに、この評議会において反対・疑問が集中して議論に多くの時間を費やした「人事委員会」問題と現職全教員への「任期制」導入問題に関して、これに反対に意思を示した評議員の氏名を議事録に残すべきであるとする評議員からの提案をも小川学長は合理的な理由もなく拒絶しました。本学の最高の意思決定機関・評議会の議長である小川学長は、評議会運営上の手続民主主義において重大な問題を犯しています。評議会の民主主義的な運営という点においてきわめて遺憾であるとしなければなりません。1028日の国際文化学部臨時教授会においても同趣旨の見解が表明されています。また、同様の商学部教授会見解が来週にも公表されることがすでに決定されております。

 

<評議会での合意文書が改竄され、評議会での議論を経ていない記述が挿入・改稿されています>

10月22日の臨時評議会で議論の対象となったのは、「横浜市立大学の新たな大学像について(案)」(以下、「案」)ですが、29日に横浜市大学改革推進本部に提出された「大学像」では、評議会に一切諮られることなく「案」に対して多くの加筆・削除・修正が施されています。

さらには、臨時評議会の場で時間をかけて確認された字句修正に意図的ともいえる重大な変更が加えられています。任期制に関する事項です。臨時評議会では、「案」の文章を次のように訂正し確認しました。「多様な知識や経験を有する教員などの交流の活性化をはかり、教育研究を進展させるため、任期を定めて任用する制度とする。原則として、全教員を対象に今後、関係法令を踏まえて具体的な制度設計をすることとする」。これが評議会で修正し確認された文言です。ところが、「大学像」では、次のように書き換えられています。「多様な知識や経験を有する教員等の交流の活性化を図り、教育研究を進展させるため、原則として全教員を対象に任期を定めて任用する制度とする。今後、関係法令を踏まえ、具体的な制度設計を行うこととする」。「大学像」の記述は明らかに評議会で確認された文言と異なり、「原則として全教員を対象に任期を定めて任用する制度とする」となっており、きわめて断定的な表現に改竄されております。評議会で確認した文言を一方的に修正することは許されません。これは横浜市立大学の最高意思決定機関としての評議会を愚弄するものであり現行法に違反します。この点に関して、11月6日の商学部教授会で抗議の意思を示すことが決定されています。

 

<現職の全教員への任期制の導入は違法です>

地方独立行政法人法は、教員身分の承継を明確にしており、私たちは、現職全教員への任期制の導入という有期雇用への教員身分の不利益変更は地方独立行政法人法の規定によって不可能である考えております。

また、「大学の教員等の任期に関する法律」(以下、「任期法」)は、「任期を定めることができる場合」を限定しているのであり、この法律によって任期制を無限定的に導入できるわけではありません。現行の「任期法」は限定的任期制であり、これを現職の全教員にまで拡大して無限定的任期制を採用することはこの法律に違反することになります。                     

さらに、この法律には、「任期制の導入によって、学問の自由及び大学の自治の尊重を担保している教員の身分保障の神が損なわれることがないよう充分配慮する」との附帯決議が付されており、その運用にあたって「身分保障」に関しての極めて厳しい条件が課されています。このことは、学問研究の特殊性に基づき「教員の身分は尊重され、その待遇の適正が、期せられなければならない」とする教育基本法第6条2項の規定に照らして厳密に履行されねばなりません。したがって、現職の全教員への任期制、年俸制の導入は法的に不可能といわねばなりません。

また、「任期法」によらない労働契約での導入という見解もありますが、「任期法」は特別法であり、規定が抵触する場合においては特別法が優先します。

 

<労働条件変更に関する労使協議はなされていません>

 「大学像」は、任期制はもとより、労働条件の変更に関わる重大事項を多々含んでいます。労働条件に関わる事項について独自に事前の労使交渉は行われていません。労使協議が不可欠の課題であることを付言しておきます。 

 

 

以上の諸点を充分にご勘案いただき、慎重審議をよろしくお願い申し上げます。ご参考までに、以下の資料を別添いたしました。

 

別添資料:大学の教員等の任期に関する法律案に対する付帯決議

     国立大学法人法案に対する付帯決議     

地方独立行政法人法案に対する付帯決議

教員組合の学生向け配布ビラ(「この学生アンケートに記憶がありませんか?」)

 

なお、横浜市立大学教員組合ホーム・ページもご参照ください。

http://homepage3.nifty.com/ycukumiai/index.htm

 

 

2003117

                          横浜市立大学教員組合

                          執行委員長 藤山嘉夫