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横浜市立大学の未来を考える

『カメリア通信』第16

  200433(不定期刊メールマガジン)

Camellia News No. 16, by the Committee for Concerned YCU Scholars

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中田市長の

 “東京新聞報道は 『完全に誤報』 発言

 を検証する

 

200433日 総合理学研究科 佐藤真彦

 

 

はじめに

 

【中田市長の『誤報発言』(要旨)】:

『あそこに書いてあることは、完全に誤報のたぐいである。もしも誰かが言ったことをそのまま書くのが新聞であるというならば、それは、泥棒の理屈も全部載せてあげるべきである。私は、横浜市大の負債ということを理由に改革を持ち出したことはない。密室で決めたことは一度もない。すべて皆さんも見ていたはずである。全部、議論は一字一句、私は出している。それに、トップダウンでやっていない。市大自身がこういう改革をやりたいという報告をこちらに出してきた。・・・あれは誤報である。・・・事実関係が異なっていることを誤報というのである。・・・負債というバランスシート上の話を持ち出したことは、私は一度もない。』

 

以上が,中田 宏横浜市長『定例記者会見04-2-19』[i][i]における『誤報発言』[ii][ii]のエッセンスである.このほかに,中田市長は誤った数値(注:市大への繰入金が120億円とすべきところを240億円と2倍に誇張)に基づいて財政を論ずるという初歩的なミスも犯している(下記参照).市長は,「密室で決定 いきなり公表 トップダウン “石原・都立大”と手法同様」と報じた2月16日付『東京新聞』記事[iii][iii]“完全に誤報”と腹立ちまぎれに断定しているが,本当だろうか.

中田市長の『誤報発言』は,「横浜市大問題」について多少なりともご存知の方にとっては,いちいち反論するのもバカらしいまったくの“虚偽”(もしくは“ペテン”)発言なのだが,黙って見過ごす訳にもいかない.なお,「横浜市大問題」の概要に関しては,『自作自演の茶番劇』[iv][iv]および『自作自演の茶番劇・2』[v][v]を参照されたい.

この『誤報発言』に対して,翌2月20日付『朝日新聞(横浜版)』が“市立大学改革案 逆風の中、怒りの矛先メディアに!? 中田市長 批判記事に「誤報を何とかして」”の見出しで,直ちに批判報道を行った[vi][vi].「横浜市立大学を考える市民の会」も『中田宏横浜市長の「誤報」発言に対する見解04-2-25』[vii][vii]を発表して,市長発言の欺瞞性を指摘した.また,一楽重雄教授(理学部)は『カメリア通信第15号04-2-27』[viii][viii]で,中田市長のやり方を“民主主義の衣をまとった独裁政治”と糾弾し,永岑三千輝教授(商学部)も『大学改革日誌』[ix][ix]において,2月26日以来くり返し批判を行っている.『東京新聞04-2-16』に情報を提供した「大学人の会」も,反論を準備中であるという.

 

 

『誤報』発言の検証

 

中田市長は“事実関係が異なっていることを誤報というのである”と述べている.それでは,以下順番に“事実関係が異なっているかどうか”徹底的に検証してみよう.

 

(1)【市長発言:私は、横浜市大の負債ということを理由に改革を持ち出したことはない。・・・負債というバランスシート上の話を持ち出したことは、私は一度もない。】

 

【検証】

 この発言が“真っ赤なウソ”(もしくは“汚いペテン”)であることは,直ちに検証できる.少々長くなるが,証拠として,新聞各紙がこの問題をどのように報道したのかふり返ってみよう.

➀『神奈川新聞03-1-17』、「横浜市大の累積赤字1141億円 廃校も選択肢」:横浜市立大学(大学、付属病院、センター病院)の累積赤字(二〇〇一年度末現在)が約千百四十一億円に上がることが一七日までに分かった。・・・座長の橋爪大三郎東工大教授はこうした現状を踏まえ、「存続への改革案」とともに「廃校も選択肢のひとつとすべきだ」とする私案(たたき台)をまとめた。

(注:この『神奈川新聞03-1-17』の記事にある「累積赤字」は「累積負債」の誤りで,しかも,負債の大部分が病院等の市民の資産になっていることに注意.「橋爪私案03-1-16」や「あり方懇答申03-2-27」では,累積負債が巨額なことを強調する一方で,負債の大部分が病院等の資産になっている点に意図的に触れなかった.このため,『1140億円の巨額累積赤字/負債』のインパクトが誤ったイメージを市民に与え,その結果,中田市長らによる悪質な“情報操作”を可能にした.)

➁『読売新聞(神奈川版)03-1-17』、「横浜市大の累積負債1140億 『廃校も選択肢の一つとして検討すべきだ』 あり方懇座長が私案」:横浜市立大の改革のために設置された「あり方懇談会」(中田宏市長の諮問機関)の第五回会合が十六日、横浜市西区のパシフィコ横浜で開かれ、市大の累積負債が二〇〇一年度までに約千百四十億円に膨れ上がっていることが明らかにされた。これを受けて、橋爪大三郎座長(東京工業大教授)は「廃校も選択肢の一つとして検討すべきだ」などと答申のたたき台となる私案を発表した。・・・

➂『神奈川新聞03-2-14』、「横浜市大あり方懇談会 存続には大胆改革を 答申案まとめる 財政、人事面で提言」:横浜市大の将来を検討する中田宏市長の私的機関「市立大学の今後のあり方懇談会」、(座長・橋爪大三郎東工大教授)は十三日、巨額の累積負債を抱える同大の今後の選択肢として「大胆な改革で生まれ変わり存続する」「有力私大に売却する」などとする答申案をまとめた。存続条件として財政や人事面の改革などで「実現すべき事項」などを具体的に提言。答申案は二十七日に正式にまとめられ、中田市長に答申される。・・・

➃『毎日新聞(かながわ版)03-2-14』、「『廃校も選択肢に』横浜市立大 累積負債1140億円 諮問機関答申案」:横浜市の中田宏市長の諮問機関「市立大学の今後のあり方懇談会」(座長・橋爪大三郎東工大教授)が13日、横浜市内で開かれた。議題に上った答申案で、市大の01年度までの累積負債は約1140億円に上ると指摘。生き残りには抜本的な改革が必要で、「廃校の選択肢も残すべきだ」とされた。・・・

➄『神奈川新聞03-2-28』、「横浜市大あり方懇答申 経営改善に数値目標 研究より教育を重点」:・・・橋爪座長は「市の財政状況を踏まえれば現状のままで市大が存続する道はまったく考えられない」と指摘し抜本的な改革を提言。市長は「私も認識は同じ。答申を基に改革に着手したい」と答えた。答申では市大の累積負債が二〇〇一年度時点で約千百四十億円に上ると指摘。加えて大学運営にあたり、学部などの運営費として年間約百二十億円、二付属病院にも約百二十億円が市一般会計から繰り入れられていると説明。その上で➀大胆な改革で生まれ変わり存続➁有力私大に売却➂私大に転換➃廃校―のこれまで検討してきた四選択肢すべてを挙げた。ただ、教職員らから指摘のある病院などの資産評価が含まれていないなどの点は、答申でも言及がなかった。・・・学部などの運営に関して一般会計からの繰入金を三年後に約六十億円に圧縮し、五年後には収支均衡を達成すると明記。病院は収支構造を改善し、地方公営企業法で定めた基準内繰入金(〇一年度で附属病院三十一億円、センター病院三十八億円)の範囲内に抑えていくなどとした。・・・

 ➅『朝日新聞03-5-2』、「市、年度内に市大改革策」:多額の累積負債を抱える横浜市立大学について、市は今年度中に「大学改革中期プラン」をまとめる方針を決めた。中田宏市長の諮問機関「市立大学の今後のあり方懇談会」が2月に示した検討結果を踏まえ、改革策を盛り込む。5月定例市議会に、関係費用として約1500万円を計上する方向だという。

 

以上,ざっと,昨年はじめの主な新聞各紙の報道を列挙したが,一般市民の素直な感覚では,これら一連のセンセーショナルな報道からは,「あり方懇答申」が指摘した1140億円という巨額の累積負債のために「“廃校”も選択肢とする“大胆な改革”は当然」というメッセージを読み取るだろう.

だが,中田市長は「私は、横浜市大の負債ということを理由に改革を持ち出したことはない。・・・負債というバランスシート上の話を持ち出したことは、私は一度もない。」と主張しているのである.したがって中田市長は,『1140億円の巨額負債』と騒ぎ立てて“情報操作”を行ったのは「あり方懇」の橋爪座長と森谷伊三男氏(財務分析担当・公認会計士)であって,自分には責任がないと言いたいらしい.この点に関して『東京新聞04-2-16』は,「中田市長の諮問委員会『横浜市立大学のあり方懇談会』は昨年二月、『千百四十億円の累積負債を抱えた市大が現状のまま存続する道は考えられない』との答申を出した。これに対し、『そのほとんどは病院建設など市民ニーズを満たすための市の投資で、横浜国際競技場と同じ資産』と反論したところ、市長は負債のことを口に出さなくなった。最初から『市大改革ありき』で、負債は口実に使われただけだ」と,中田市長が『巨額の負債』を改革の理由に持ち出さなくなった経緯を分析している.中田市長の言い分は,“汚いペテン”と言われても仕方がないだろう[x][x]

 

(2)【市長発言:密室で決めたことは一度もない。すべて皆さんも見ていたはずである。全部、議論は一字一句、私は出している。】

 

【検証】

中田市長が記者たちを前にして強調した“すべて皆さんも見ていたはずである”とは,市長の私的諮問機関である「あり方懇」を“公開”で行ったことを指して自画自賛しているのだろう.しかしながら,「あり方懇」における議論を公開したために,市長の意を受けて「あり方懇」を牛耳っていた横浜市大“独裁官僚”池田輝政氏(前総務部長・理事,現泉区長)と橋爪座長のコンビによる議事引回しの実態が赤裸々に暴露されて,反対運動が一挙に燃え上がるという(市長・事務局にとっての)大失敗に終わったことは記憶に生々しい.これに関しては,平 智之教授(商学部)による迫真のレポート『第3回あり方懇傍聴記−池田理事・橋爪座長の議事引回しを許さず、民主的・公正な運営と討論を求める−02-12-9』[xi][xi]をはじめとする,教員組合による一連の『あり方懇傍聴記シリーズNo.3-6 02-11-25〜03-2-13』(横浜市大教員組合ホームページ「組合ニュース」)[xii][xii]を参照されたい.

おそらく,これに懲りたためであろう,“大学側”改革案を実質的に審議した委員会(「プロジェクトR幹事会」)は,一般教員からの強い要望を無視して非公開で行われ,しかも,委員には厳しい緘口令が敷かれた.そのため,議論の途中経過や内容をまったくうかがい知ることができなくなった.また,形式的に公表された「議事概要」[xiii][xiii]は,その主たる内容である「検討事項」の記述が,「〜について議論を行った」という無意味なものが大部分で,“透明性”を形式的に装う“えせ民主的”な手法の典型となった.

また,おそらく,中田市長が“情報公開の徹底”(下記参照)をたてまえとしている関係から,途中で『大枠の整理03-8-18』[xiv][xiv]および『大枠の整理(追加)03-9-26』[xv][xv]なる文書を公表して,“大学側”改革案の“大枠”を示し,一般教員からの意見を求めたところ抗議の声が全学的にわきおこったが,これも予定のことだとばかりに,“たった15分のヒアリング”で反対意見をほとんど取り入れることなく“強行突破”してしまった[xvi][xvi]

以上から,市長発言(2)の「密室で決めたことは一度もない。すべて皆さんも見ていたはずである。全部、議論は一字一句、私は出している」も,まったくの虚偽であることが分かる.

なお,現在,教学の内容までをも横浜市自身が検討し決定する目的で(横浜市が)設置した『コース案等検討プロジェクト部会』において議論されている内容も,厳しい緘口令が敷かれているために,例によって形式的に公表されている「議事概要」からは議論の具体的な内容を,またもやほとんどうかがい知ることができない状況にある[xvii][xvii]

 ところで,中田市長は,「情報公開の徹底」を“公約の第一”に掲げて当選し,職員向けダイレクトメッセージ(『情報をオープンにすることから始めよう02-6-17』)の中で『「情報の公開と提供」は,一歩進んで行政の側から積極的に情報を提供することまで含んで,政策の意思形成過程についてもできる限りお見せしましょうということです』と述べたことを忘れてもらっては困る.中田市長が“公約の第一”を自ら踏みにじったことは,明白な事実である.

 

(3)【市長発言:それに、トップダウンでやっていない。】

 

【検証】

中田市長の私的懇談会(「あり方懇」)は座長の『私案(橋爪私案)03-1-16』を突然記者発表し,これを受けて『神奈川新聞03-1-17』が第一面トップで“横浜市大 累積赤字1141億円 廃校も選択肢”と報じ[xviii][xviii],『読売新聞(神奈川版)03-1-17』も“横浜市大の累積負債1140億 「廃校も選択肢の一つとして検討すべきだ」 あり方懇座長が私案”などとセンセーショナルに報道したことはすでに述べた.2月末(03-2-27)には,ほぼ同じ内様の最終答申を発表して,市大改革の方向の既成事実化を図った.『神奈川新聞03-5-3』は,この状況を“あり方懇ショック”と評している.

中田市長はその後,5月7日に『市長改学宣言03-5-7』[xix][xix]を突然記者発表して,『あり方懇答申』および『市大改革の方向性03-1-8』(“部外秘資料1”)の枠組みの中で,“大学側”委員会(「プロジェクトR幹事会」)で改革案を検討するように指示した.なお,“部外秘資料1”,すなわち,『市大改革の方向性03-1-8』とは,“独裁官僚”池田輝政氏のナマ発言集(暴言集)である“部外秘資料2”(注:こちらは,そのナマ発言の余りの下品さのためか,未だに部外秘指定のままとなっている)を一般公開用にマイルドな表現に改めたものであるが,(2003年)1月8日に作成し長い間部外秘指定となっていたところを,ようやく,(2003年)5月7日に『市長改学宣言』と同時にさりげなく公開されたという,“市大改革の方向性を決める”重要文書としては甚だふさわしくない経歴を持つ“イワクツキ”の文書である[xx][xx]

昨年の12月17日には,理事長予定者(孫福 弘氏)を突如記者発表すると同時に,学部のコースなどの教学に関する事項についても,横浜市当局自身が検討後“意思決定”することを伝え,さらに,この方針に協力する意志があるかどうかの“踏み絵”を全教員に問うた[xxi][xxi]

このような“いきなり公表−トップダウンで決定”する非民主的な方式は,「市大問題」だけでなく「市立保育園民営化問題」・「港湾病院民営化問題」[xxii][xxii]・「市営交通民営化問題」等でも好んで採用され,中田市長の常套手段となっている[xxiii][xxiii].にもかかわらず,中田市長の横暴に屈することなく,柿の木台保育園をはじめとする4つの市立保育園の保護者たちは,民営化中止を求めて横浜地裁に取り消しを求めて提訴し(『朝日新聞04-2-13』[xxiv][xxiv]),“私たち保護者は、中田市長以下横浜市に保護者と誠意をもって対話する意思も子供への配慮も期待できない今、このままでは子供たちに重大な影響があると考え、抗告訴訟を決断するに至りました。”とプレスリリースで訴えている[xxv][xxv]

このように,中田市長のやり方に対していずれの現場からも怒りの声が噴出しているが,市長が松下政経塾で学んだという「現地現場主義」のモットーとは何なのだろうか?

 

 以上,(2)(3)から,『東京新聞04-2-16』の「密室で決定 いきなり公表 トップダウン “石原・都立大”と同様手法」という報道が“完全に誤報”どころか,“完全に正確”であることは明らかであろう.

 

(4)【市長発言:市大自身がこういう改革をやりたいという報告をこちらに出してきた。】

 

【検証】

「市大問題」に詳しくない一般市民にとって,表面的には,この発言は正しいように見えるかもしれない.これは,小川恵一学長をはじめとする大学首脳部が,一般教員の反対を無視して中田市長(と市大事務局)に取り込まれてしまっているためである.あるいは,中田市長の巧妙なやり方とそれに呼応する小川学長の迎合的な姿勢によって,まんまと“ゴマカサレテ”しまった結果と言ってもよい.

実際,小川学長は,「あり方懇答申03-2-27」に際して,独断で,すなわち,大学に持ち帰って教授会・評議会に諮るという当然の手続きを経ることなく,“参上”した市庁舎において,その場で直ちに「答申を真摯に受け止め,今後市立大学が策定する『中期目標・中期計画』に答申に掲げられた改革の具体的内容を反映させてまいります」とのコメントを記者発表した(『神奈川新聞03-2-28』).また,『市長改学宣言03-5-07』に際しても,当日の朝,市庁舎で市長と“懇談”した小川学長は“「あり方懇」の答申に示された内容を踏まえて改革案を検討し,改革を断行する”という“決意表明”を行い,これを受けて中田市長が『改学宣言』を行った(第1回プロジェクトR『小川委員長挨拶要旨03-5-14』[xxvi][xxvi]).この様子を『神奈川新聞03-5-8』は,「小川・横浜市大学長が中田市長訪問 先頭に立ち改革推進」の見出しのもとに写真入りで報道した.

小川学長の甚だしく思慮を欠いた,これら2つの迎合的行為により,「市大自身がこういう改革をやりたいという報告をこちらに出す」ように仕向けた「中田市長のシナリオ」が,首尾よく運ぶ目途が立ったことになる.その結果,市長の走狗役を懸命に努める小川学長の姿が浮き彫りになった.

 さらに,“改革案”を実質的に作成した“大学側”委員会(プロジェクトR幹事会)は,小川学長と高井禄郎事務局長が“共に合意”した(注:小川学長の迎合的姿勢から,これはつまり,事務局が厳選したことを意味する)教員7名と事務局7名で構成されており,事務局主導の運営が貫かれたことは容易に想像できる.実際,プロジェクトR幹事会は,全学の教授会等からの反対意見[xxvii][xxvii]をほとんどまったく取り入れることなく評議会を強行突破して,報告書(『横浜市立大学の新たな大学像について03-10-29』)を“大学側”改革案として中田市長に提出した[xxviii][xxviii]

 これをもって中田市長は,「市大自身がこういう改革をやりたいという報告をこちらに出してきた」と主張しているのだが,またもや“えせ民主的”手法の典型と言えるだろう.中田市長のやり方は「“石原・都立大”と手法同様」と指摘されたが,“ヒトラーのそれを連想させる”石原知事(高橋哲哉教授・東京大学の言;『読売新聞04-2-15』「意見広告」)[xxix][xxix]の手法が,甚だしく“乱暴”かつ“強権的”なのに比べて,“えせ市民派”市長のそれは,(本質は同様だが)うわべは“民主的”に見えるだけに,より“狡猾”かつ“悪質”ですらある.

 

(5)その他の市長発言1:

【横浜市大には、年間で確か240億円くらい入れている。・・・ちなみに、病院に対する繰り入れは、また別途、240億くらいある。】

 

【検証】

 一楽教授(理学部)がすでに指摘しているので,それを引用しておく.「これは誤りで,120億(大学)+120億(病院)が正しいのです.誤報でもないものを誤報と言い,市大への繰り入れを2倍に言うことは,許されないことです.しかも,こういう議論のときには,決して国からの地方交付税に言及しません.70億円弱は,大学があることによって国から交付されているのですから市民の負担とは言えないものです.」(一楽重雄:『カメリア通信』第15号「民主主義の衣をまとった独裁政治---東京新聞2004.2.16誤報問題の真相」04-2-27)

 

(6)その他の市長発言2:

【同じ横浜にあって、同じような立地条件の関東学院大学は、運営費の8割を授業料で行っている。運営費の8割は授業料で賄っている大学に対して、運営費の7割から8割を税金で行っている大学として、税金を使うことの意義というものをより明確にする必要がある。そのことがないと、これから先、市民に対して横浜市が大学を有するということの説明はなかなか難しいと、このような言い方をしてきた。】

 

【検証】

この発言は『橋爪私案03-1-16』の受け売りだが,これについてもすでに,柳沢 悠教授(東京大学)がその問題点を指摘している.以下に,引用しておく.

『この「あり方懇談会」はたぶん国立・公立大学と比べると市大の財政効率がいいと知っていたので、横浜市大を他の国公立でなくて私立の大学と比較したのじゃないかと、私は推測しています。私立大学の中でも、財政状態の最良のトップ10校のうちの4校と比較して「市大は経営効率が悪い」という。公立と私立では、設置・運営の趣旨や目的が違うから、差があるのは当たり前です。いわば、マラソン選手と100メートル走の選手を並べて100メートル競走をさせて、マラソン選手に「君は足が遅い」と言うようなものです。「横浜市大は経営効率が悪い」という印象をどうやったら作れるか、ひたすらそのための比較じゃないでしょうか。』(柳沢 悠:「答申と大学人03-7-14」[xxx][xxx]

 

 

おわりに

 

以上の中田市長『誤報発言』の“検証”から,『東京新聞04-2-16』報道が“誤報”であるというのは悪質な“言いがかり”で,それどころか,すべての点で“真実報道”であることが明らかになった.

このほか,『東京新聞04-2-16』報道には,“えせ市民派”市長の“素顔”を白日の下に暴露した「大学人の会」からの厳しい指摘の数々がある.おそらく,中田市長の“怒り”と“言いがかり的”『誤報発言』の真のきっかけになったのは,これらの指摘だったと思われる.以下に,引用しておく.

「市大、都立大の改革内容はほぼ同じで、手法も密室審議でいきなり公表するトップダウン方式だ。中田市長と石原知事の類似性を示している」・「大衆受けするパフォーマンス的政策を打ち出す点で両者は似ている。反権威主義で、エリートや学歴に対して強い反発を持っている。両者とも自己を礼賛する者しか評価しないポピュリズムの権化で、不採算部門の学問・芸術の存在が邪魔になる。その延長線上に大学改革がある」(宮崎伸光教授・法政大学)」.

あるいは,「中田市長は市民派を看板に掲げるが、改革案で会見を申し入れても、会ってくれない。煙たい市民には会わない“えせ市民派”だ。十人十色の意見があってまとまらず、業界団体のない大学が一番、経費削減の標的にしやすかっただけだ」・「小泉首相、石原知事、中田市長はともに“ネオコン”で、本流エリートになれなかったコンプレックスを政策にぶつける“現代の新選組”といえる。新選組は新しい時代の先兵にはなれず、消えていく運命だ」(久保新一教授・関東学院大学).

中田市長は,逆に“真実”であることが検証されてしまった“密室審議でトップダウン”発言を除いて,これらの指摘を“誤報”であると反論しなかったが,余りにもそのものズバリの指摘で何も反論できなかったというのが真相だろう.しかも,「大学人の会」の指摘を,言うに事欠いて“泥棒の理屈”になぞらえて“ナンクセ”をつけている.中田市長は,自分の誤りを素直に認めて,「大学人の会」およびメディアの使命である“真実報道”を行った東京新聞の藤原正樹記者に謝罪すべきであろう.

 

 



[i][i] 平成16年2月19日 - 市長定例記者会見(横浜市公式ホームページより)

記者会見全文 http://www.city.yokohama.jp/se/mayor/interview/2004/040223.html 

 

[ii][ii]  『誤報』発言全文

 

記者:

 住基ネットに関して、横浜市が認められているように、住民選択制を認めてほしいということで杉並区が国を提訴するということであるが、それについてどう思われるか。

 

市長:

 (住基ネットの質問に答える前に)今質問した東京新聞の記者さんに恨みはないのでお答するが、東京新聞には誤報を何とかしてもらいたい、という思いがある。しかし、同じ新聞社とはいえ、セクションが違う人に八つ当たりしてもしようがない。それは、どんな組織でもそうだと思うのでお答え申し上げる。

 住基ネットに関する杉並区の対応については理解はできる。全員参加を前提として、環境が整えば、そういう中での段階的参加については、杉並区に対しても認めれば良いのにと、国に対して思う。国からすれば、むしろその方が不参加という状態を解消できるはずであって、なぜそうしないのかと不思議である。国にとってみたら一歩前進であるのにと思うが。

 

記者:

 今の東京新聞の関連だが、市長の論理でいうと、批判を受けた時には、もう会見では答えないと聞こえかねないが。

 

市長:

 まず、批判を受けたという時の批判を検証してみて欲しい。あそこに書いてあることは、完全に誤報のたぐいである。もしも誰かが言ったことをそのまま書くのが新聞であるというならば、それは、泥棒の理屈も全部載せてあげるべきである。私は、横浜市大の負債ということを理由に改革を持ち出したことはない。密室で決めたことは一度もない。すべて皆さんも見ていたはずでである。全部、議論は一字一句、私は出している。それに、トップダウンでやっていない。市大自身がこういう改革をやりたいという報告をこちらに出してきた。ましてや市大は平成の早い段階からいままで改革を議論してきている。そうしたことを棚上げして、こちらが反論する機会すら与えない。批判をされたから言っているのではない。人間社会なのだから、その中身について見識が異なるとか価値判断が異なるということは大いにあって良い。良いけれども、事実関係と違うこと、そのことについて私は言っている。そして、そのことをとやかく言うつもりはないから、同じ新聞社の記者に対してここでお答えをしている。

 

記者:

 あれは誤報だということか。まったくこちらに取材を受けていないじゃないかということか。

 

市長:

 あれは誤報である。取材を受けていないということではなく、伝えている内容が違う。事実か事実でないかについて、一つ一つ記者の皆さんは綿密に取材していると思う。例えば、あたり前だが、AさんとBさんが替わるだけで誤報になってしまうので、事実関係が異なっていることを誤報というのである。何も自分が気分の悪いことを言われたから腹を立てているのではない。間違っていることを伝えていることに対してははっきり申し上げる。私がいつも言っているように、大いに反対意見は言って欲しい。そうでなければ、議論は成り立たない。そういうことである。

 

記者:

 この機会に一点だけお聞きしたいが。市大の場合は赤字を改革の理由にしたことはないのか。

 

市長:

 先日の記事では、「負債」と書いてあった。

 

記者:

 市大の財政的な理由が、改革の一つの理由であることは確かか。

 

市長:

 財政的な言い方については、私はいつもこのように言っている。横浜市大には、年間で確か240億円くらい入れている。これは、運営費の7割から8割にあたる。このような形で、運営費の7割から8割を入れて、税金で賄っている大学としての意義というものを明らかにしていただきたいと思う。さもなければ、このままの状態で続けていくことはなかなか厳しいと思うという言い方をしてきている。例えば、よく例に出すのは、関東学院大学。同じ横浜にあって、同じような立地条件の関東学院大学は、運営費の8割を授業料で行っている。運営費の8割は授業料で賄っている大学に対して、運営費の7割から8割を税金で行っている大学として、税金を使うことの意義というものをより明確にする必要がある。そのことがないと、これから先、市民に対して横浜市が大学を有するということの説明はなかなか難しいと、このような言い方をしてきた。ちなみに、病院に対する繰り入れは、また別途、240億くらいある。したがって、負債というバランスシート上の話を持ち出したことは、私は一度もない。

 

[iii][iii]

2004年2月16日付『東京新聞』記事:『改革』に揺れる横浜市立大 学部統合 全教員の任期制 研究費ゼロ

http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/040216tokyo.htm 

 

[iv][iv]

佐藤真彦:『自作自演の茶番劇』03/12/01横浜市が“大学側”改革案の全面的受け入れを表明03-12-4

http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/031204chaban.htm 

 

[v][v]

佐藤真彦:『自作自演の茶番劇・2』神奈川新聞2004年1月30日付報道―コース設定を論議へ 横浜市大改革で専門委を設置―04-2-3

http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/040203chaban2.htm 

 

[vi][vi]

『朝日新聞』(横浜版)2004年2月20日付:市立大学改革案 逆風の中、怒りの矛先メディアに!? 中田市長 批判記事に「誤報を何とかして」

http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/040220asahi.htm 

 

[vii][vii]

「横浜市立大学を考える市民の会」:2月19日の定例記者会見における中田宏横浜市長の「誤報」発言に対する見解04-2-25

http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/040225y-shimin-gohouhatsugen.htm 

 

[viii][viii]

一楽重雄:『カメリア通信』第15号「民主主義の衣をまとった独裁政治---東京新聞2004.2.16誤報問題の真相」04-2-27

http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/040227came-15.pdf 

 

[ix][ix]

永岑三千輝:『大学改革日誌』

http://eba-www.yokohama-cu.ac.jp/~kogiseminagamine/SaishinNisshi.htm 

 

[x][x]

論理的には,“「負債のほとんどは病院等の資産」の反論”以前にも,中田市長は「負債ということを理由に改革を持ち出したことはなく」,したがって,“『東京新聞04-2-16』の報道は『誤報』”と強弁することも可能であるが,これではさらに“見苦しい言い逃れ”としか映らない.

 

[xi][xi]

平 智之:『第3回あり方懇傍聴記−池田理事・橋爪座長の議事引回しを許さず、民主的・公正な運営と討論を求める−02-12-9』 http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/taira021209.htm

 

[xii][xii]

横浜市大教員組合ホームページ「組合ニュース」

http://homepage3.nifty.com/ycukumiai/kumiai-news/index.html 

 

[xiii][xiii]

市立大学改革推進・プラン策定委員会(愛称:プロジェクトR)

http://www.yokohama-cu.ac.jp/daigakukaikaku/daigaku/daigaku_kaikaku/iinkai.html 

 

[xiv][xiv]

「第3回プロジェクトR委員会」資料:大学改革案の大枠の整理について03-8-18

http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/030818ProjectR.pdf 

 

[xv][xv]

プロジェクトR幹事会:『大学改革案の大枠整理(追加)について』03-9-26

http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/030926owaku-tsuika.pdf 

 

[xvi][xvi]

佐藤真彦:“御用”ヒアリング:たった15分の意見聴取で済ませて,強行突破するつもりか03-8-30

http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/030830goyohearing.htm 

 

[xvii][xvii]

コース案等検討プロジェクト部会議事概要

http://www.yokohama-cu.ac.jp/daigakukaikaku/daigaku/daigaku_kaikaku/projectbukai/projectbukai_top.html 

 

[xviii][xviii]

『神奈川新聞03-1-17』、「横浜市大の累積赤字1141億円 廃校も選択肢」

http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/030117kanagawa.pdf

 

[xix][xix]

佐藤真彦:ようやく公開された『部外秘資料』と市長メッセージ『改学宣言』の欺瞞性03-5-14

http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/giman030514.htm 

 

[xx][xx]

佐藤真彦:『部外秘資料』が語る,横浜市立大学の"独裁官僚"と似非民主制03-1-28

http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/page036.html 

 

[xxi][xxi]

佐藤真彦:03/12/04 『学長との“対話”集会』の記録03-12-22

http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/031204taiwa.htm 

 

[xxii][xxii]

サンデー毎日1月18日号:[1]“改革派”中田宏横浜市長の『民主度』[2]石原慎太郎研究第1弾『知事交際費』の闇

http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/040106sunday-mainichi2004.1.18.htm

 

[xxiii][xxiii]

保育園民営化・学校給食民営化・港湾病院民営化問題リンク集

http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/030623mineika.htm 

 

[xxiv][xxiv]

『朝日新聞』2004年2月13日付:保育園民営化「中止を」 横浜市相手取り保護者ら提訴

http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/040213asahi-hoikuen.htm 

 

[xxv][xxv]

横浜市立保育園民間移管に対する抗告訴原告団:プレスリリース04-2-11

http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/040211hoikuen.htm 

 

[xxvi][xxvi]

1回プロジェクトRでの『小川委員長挨拶要旨03-5-14』

http://www.yokohama-cu.ac.jp/daigakukaikaku/daigaku/daigaku_kaikaku/dk_iincho.html 

 

[xxvii][xxvii]

教員組合:「あり方懇」最終答申(2003年2月27日)以降の横浜市立大学の各教授会における改革案関連の決議・意見・見解など(一覧)03-12-11

http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/031211ketsugi-ichiran.htm 

 

[xxviii][xxviii]

教員組合:「横浜市立大学の新たな大学像について」に関する声明03-10-30

http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/031030kumiai.htm 

 

[xxix][xxix]

石原慎太郎東京都知事『定例記者会見』2004.2.20より

http://satou-labo.sci.yokohama-cu.ac.jp/040220ishihara.htm 

 

[xxx][xxx]

柳沢 悠:「答申と大学人03-7-14」

http://www8.big.or.jp/~y-shimin/yanagihonpen.html 

 

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編集発行人: 矢吹晋(商学部)      連絡先: yabuki@ca2.so-net.ne.jp

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