伊丹敬之『人本主義企業』日経ビジネス文庫、2002(初版単行本の出版は、1987年、円高不況の最中)

   同『経営の未来を見誤るな-デジタル人本主義への道』日本経済新聞社2000

   同『日本型コーポレートガバナンス-従業員主権企業の論理と改革』日本経済新聞社、2000

 

1.『人本主義企業』

 

p.3

 日本企業が世界に誇るべき普遍性(「普遍的合理性」)を持った特質(「戦後の日本企業の成功の原理」・・文庫版はしがき)として、3点を強調。

       従業員主権

       分散シェアリング

       組織的市場

 

短期的視野での行動(合理化や人員整理のあり方)への警鐘批判の見地、

10年近く日本企業の分析をしてきた中で生まれてきた」実感を「抽象的概念にしたもの」

 

p.4

「人本主義は日本企業にできる国際貢献の一つだ」

 

はしがき

p.13

 87年当時も今も変わらない現象・・・アメリカ追随、「アメリカ的標準」への追随を批判

ジャーナリズムなどの声高な論調からは、「何か日本企業の現場で苦労している人たちを半分馬鹿にしたような目を感じる・・・彼らはどこかで『アメリカ的標準』を無意識のうちに規範としてしまっているのを感じてしまう・・・」

p.14

 「ヒトというものを単に労働力を提供する資源とだけとらえず、感情もあれば頭脳ももつ存在、自分個人の主張をしたいと同時に集団の中での調和も自然に考える存在、そんなヒトの集団として企業をとらえるという考え方である。当たり前のその考え方を企業システムの基本に置くことによって、戦後の日本の企業社会はこれまでの先進国の資本主義的な企業社会とは一風違った生き物になった。非階層化された、民主化された企業社会をつくりだした。それゆえに、成功をした。それがこれからも日本企業の理念であり続けるべきではないか。それによって、日本企業は時代を越え、国境を越えられるのではないか。確かに経営の具体的な制度は変わる必要がある部分が多い。しかし、原理は変わる必要はない。変えないほうがいい。

 まとめてしまえば、ただこれだけのことを書くのに、一冊の本が必要だった。」

 

p.15 の終わりの強烈な印象

 「ボストンで開かれた戦略経営学会のパネルディスカッションで、GMとトヨタの合弁工場であるNUMMIと言うカリフォルニアにある工場が取り上げられた。GMの古い工場を引き継いだこの工場では、トヨタの主導権のもとに生産性が従来の三倍になったのだ。パネルには、GMからこの合弁会社に派遣されていたマネージャーが二人招かれていた。その一人がこう言った。

 GMのこれまでの労働者に対する考え方は、ボディとしての労働者、と言うべきものだったと思う。彼らは手足で、毎朝提示に出社して、決められたことを文句を言わずに作業し、夕方には帰っていってくれればいい。それ以上は期待しないし、会社に期待もしてくれるな。会社は給料をわたす。あとは勝手にやってくれ。そんな考え方だった。トヨタは違った」

p.15-16

「もう一人のマネージャーがこう言った。

 NUMMIの経験はすばらしかった。GMが取り入れるべきことが沢山あった。しかし、GMの本社はいったい何を考えているのかわからない。われわれの経験をどう生かすのか、だれも考えていない。そのフラストレーションは耐えられないほどだった。とうとう私は、好きだったGMをやめて、コンサルタントになることにした」

 

1章 迷える巨象

p.23 ビジョン喪失・・・「追いつく」べき先行ランナーがいない。みずからがフロントランナーになったこと

 

p.24 「経営のビジョンは大別して二つの部分からなっている。一つは事業展開の方向についてのビジョン。つまり、企業戦略のビジョンと言ってもいい。もう一つは、経営管理のあり方の基本理念としてのビジョンである。人と組織の管理のあり方の基本的考え方である。」

 

p.25 すでにこの本の初版が出た1987年に明らかとなっていた事業の方向(今日も基本的にに妥当なもの)

「事業のあり方については、一般論としての新しいビジョンはじつはすでに出ている。高付加価値化であり、情報化であり、知識融合化である。つづめて言えば、25次産業を中心に、高付加価値製品を多品種少量でやっていく、ということ」

 

p.26

「事業のあり方をかなり基本的に変えるということは、企業内の資源の再配置と新しい資源の導入を意味する。つまり、ヒトの再配置、ヒトの転換、新しいヒトの育成や導入をしなければならない。そして、これがもっともむつかしいのだが、ミスマッチになりかねないヒトを何らかのかたちで処遇あるいは処理しなければならない。・・・」

p.27

「鉄鋼・造船といった構造不況産業を中心に、雇用と経営の慣行に手をつけてでも企業変身を、本業の縮小と新分野への転進というかたちではからざるを得なくなっている企業が多く出てきた。そのために、高齢者を中心にした人員削減に手をつけはじめた。あるいは、国際化の進展が急速に市場の圧力で進み、経営管理のあり方のビジョンなど考えるヒマもなく、人事や雇用慣行の国による違いを飲み込まざるを得ない企業、国内での雇用確保最優先とばかりはいっていられない企業も多く出てきた。外国人社員の本社採用、海外の現地法人でのトップクラスの人材のこれまでの給与体系をはるかに外れた採用、海外への工場移転、企業買収、などがそれである。」

 

p.37日本の合理的機能的な企業システムは何かという視点

「外国で注目されることが多いのは、労使の協力関係、長期雇用の保証、多能工、QCサークル、下請けとの協力関係、看板方式、株式市場に左右されない長期的視野の経営、政府と企業の緊密な関係、などである。これらの多くが、アメリカなどで標準的な経営のあり方とずいぶん違うのである。」

p.38

「こうして例示された具体的な経営の仕組みのリストには、二つの特徴がある。一つは、日本的経営の三種の神器といわれる、終身雇用、年功序列、企業別組合、といった制度が入っていないことである。三種の神器は、上に述べたような経営上の仕組みを日本で成功させるに貢献している日本的な基盤としては注目されても、それ自体を外国で取り入れようとする意味での注目はなされていない。外国の労働市場の構造や労使関係の伝統からすれば、おいそれとは導入できないと思われているのである。

このリストのもう一つの特徴は、たんに人事労務の分野の内部管理上の仕組みだけでなく、もっとひろく企業活動のシステム全体、あるいは企業をとりまく人びととの関係にかかわる仕組み(たとえば下請けとの関係、株式市場との関係、政府との関係)が入っていることである。」

 

第2章              人本主義企業システム

 

p.42-43 ヒトを中心とする新しいシステム

 「人本主義とは資本主義に対照する意味の私の造語である。資本主義がカネを経済活動のもっとも本源的かつ稀少な資源と考え、その資源の提供者を中心に企業システムが作られるものと考えると違って、人本主義はヒトが経済活動のもっとも本源的かつ稀少な資源であることを強調し、その資源の提供者たちのネットワークのあり方に、企業システムの編成のあり方の基本を求めようとする考え方である。」

p.43

「人本主義は、「人」つまりヒトを根本にして経済組織の編成を考え、ヒトとヒトとのつながり方にシステムの原理を求める考え方である。・・・ヒトのつながり方を「カネを生み出す活動」の基本に吸える、というのが人本主義の持つ特徴である。」

 

企業システムの三つの要素

p.44-46

(1)      企業の概念・・・・企業は誰のものか・・・カネの提供者としての株主や金融機関(資本家)、経営能力の提供者としての経営者、技術や知識やエネルギーの提供者としての労働者という三つの集団が企業を構成

(2)      シェアリングの概念・・・誰が何を分担し、どんな分配をうけるか・・・「情報をベースに、市場から買い入れた資源をもとに製品を作り、あるいはサービスを作り出して、企業はそれを市場で売っていく。売り上げと買い入れた資源の購入総額の差が、企業が生み出す付加価値である。それが、経済活動体としての企業の基本的なアウトプットである。付加価値のないものを作り出しても、経済活動としてのアウトプットにはならない。付加価値が企業のアウトプットである。

   それを企業の参加者が分けあう。労働者は給料やボーナスというかたちで分配を受け取り、資本の提供者は配当や金利 

という形で、さらに経営者は彼らへの報酬という形で。政府も、企業活動への積極的参加者ではないが、じつは付加価値   

の分配に税金をとるという形で参加している。アウトプットのシェアリングとは、企業への参加者の間で付加価値がどの

ようにシェアされているか、のことである。」

(3)      市場の概念・・・企業同士はどうつながり合うか

 

 

 

 

 

 

 

 

第3章               

第4章