つくばの国立研における独法化以降の問題点

 

農業技術研究機構 中央農業総合研究センター 平野信之

 

1.独立行政法人における意思決定システム(両刃の刃)

 理事会という独立した経営組織(マネージメント組織)が形成され、公務員時代にはなかった意思決定システムとなった。たしかに、組織としての裁量権は拡大したが、産総研や農研機構といった大規模法人ではトップダウン方式が強化され、それまで相対的独自性を有していた傘下の研究所毎の意思決定は無力化された。

 国家公務員法や人事院規則の適用が制限(公務員型)され、法人毎の労働条件・研究条件に違いが拡大している。このため、つくばの研究機関における共通項目での統一した運動を組むことの困難性が増すなどの問題も生じている。また、法規によらない事項が増加した分、これまで法規上の制約によりかちとれなかった要求の実現可能性が広がる一方で、これまで法規上守られていた権利がないがしろにされる危険性も増大した。

 

2.労働条件(賃金制度)

 産総研、国立環境研では、全職種を研究職俸給表に1本化するとともに、業績評価結果を無理なく昇級に反映できるよう1号俸分のステップを4分割(産総研、環境研)するなどの改変が行われた。他方で農水省の独法研究機関では旧来通り(研究職、行一職、行二職)の俸給表を準用している。

 国家公務員給与法の適用が除外され、賃金は原則労使協議によって決定されることになったが、実際には人事院勧告に準拠する。当初、プラス勧告の場合、予算措置されていない財源をどのように確保するのか、当該年度内の実施は可能なのか等が問題とされたが、13年度はマイナス勧告だったために杞憂に終わった。もっとも、交付金の中に前年度同額の人件費が計上されているにもかかわらず、全省庁の独法機関一斉にボーナスカットは即実施された(「不利益遡及はしない」という闘いが全く通用しない世界)。

 

3.労働条件2(業績評価とその賃金・処遇への反映)

 研究業績評価(個人評価)は、のきなみ厳しくなった(ただし、手法は独法によって様々)。恣意的評価を排除することは重要であるが、評価の客観性を点数化により追求しようとした農研機構では精緻にやろうとすればするほど泥沼化している。基本は、評価の透明性の確保、評価に対する抗弁権の保障、評価者に対する評価システムの確立にあるが、労使でじっくり協議した上での合意形成が重要である。そして何より、評価の目的や評価結果の使用範囲などをはっきりさせることが重要である。

 業績評価は今までも研究職の昇級・昇格においてある程度反映されていたが、その際、1号俸を4段階に分けたことが意味を持つ。例えば、「業績良好につき4分の5号俸の昇級」とか「業績不良につき4分の3号俸の昇級」などが考えられる。さらには、短期的な給与(ボーナス)への反映が、産総研などで実施されている。これは、A、B、C、Dの4段階評価に連動させて、50%から200%の間で勤勉手当分を変動させるというものである(注:未確認)。農研機構でも研究部長以上の管理職では、そのボーナスについて、業績評価結果が(単に個人の研究業績だけでないが)反映されている。

 

4.労働条件3(任期付任用及び非常勤)

 何がなんでも流動的な研究者の数を拡大することが、組織評価に直結すると言わんばかりのことが強行されている。

@「正規」の任期付き任用

 産総研では、独法移行後の試験採用はゼ0である。で、毎年100名近い任期付任用が行われている。その形態は、いわゆるテニュア制に近く、任期終了後大半はそのままパーマネント職員として採用(これも選考形態だが)されている。

 農水関連の研究独法でも独法2年目以降任期付きの採用が拡大している(年間20名超の採用)。「テニュア制の考えはない」としてるが、果たしてどなるか?

 

A多様な「非常勤」スタッフ

 任期付任用などで先行している産総研では、正規の職員以外に、1号(ポスドク:2年任期)、2号(技術補助)、3号(事務補助)、4号(専門資格者)、5号(センター長)、6号(ワイドキャリアスタッフ)などを設けて、多様な非常勤雇用が可能なものとした。組合としては、こうした研究スタッフの歯止めなき流動化を厳しく監視する必要がある。

 研究室単位でみれば、正規職員の5倍から10倍のスタッフを抱えているところもままある。

 労働組合としても、正規職員のみを対象にしてきた運動のあり方が問われている。

 

5.研究条件(競争的資金の獲得と研究費配分)

  農水省のプロジェクト研究では研究課題毎の単年度評価が行われ、その結果で研究予算が傾斜配分される。また、産総研ではこれまでの経常的研究費の部分について、「外部資金獲得のためのインセンティブとする?」ために、外部資金の取れるところに厚く、取れないところに薄くといった常識的な発想とは逆のことまで行われている。さらに、競争的資金をどれだけ確保したかが、評価の対象(機関評価、個人評価)にされることにより、来るものは拒めず状態で研究業務過重に陥っている例もある。

 また、農水の独法でも小さな独法研究機関で、個人の研究業績(単年度)を、翌年の経常的研究費(=人頭割の研究費)の配分に反映させるということが行われている。

 

6.独法化後の3年を経過して

 独立行政法人となったが、より強く国(行政)に支配される傾向(何処が独立か!?)が見られる。それは、今までのように組織で縛るものではなく、研究費や給与(処遇)を飴と鞭とした、いわば研究者の自縛による支配システムになっているといえる。そうした中で、本来果たすべき国民のための科学・技術の発展・開発はそっちのけに、短期的対応に終始し、中長期的な取り組みが排除される傾向がどおしても否めくなっている。

 また、業績主義の急速な「普及」により、職場の人間関係に歪みが生じている。その延長線上に、上司のパワハラやメンタルヘルス等の派生が問題となっている。