-----------「韓国からの特報」-----------

(阿部泰隆編著『京都大学井上教授事件』信山社、2004630日刊の冒頭)

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一 再任拒否の処分性を認めた韓国大法院の判決

 

韓国大法院2004422日先刻トウ7735 教員再任用拒否処分取消

主文:原審判決を破棄し、事件をソウル高等裁判所に差し戻す

理由:「旧教育公務員法(1999129の法律5717号で改正される前のもの)11条第3項、旧公務員任用令(20011231日の大統領令大17470で改正される前のもの)5条の22項が国・公立大学に勤務する助教授は4年以内の任期を定めて任用することを規定することによって原則的に定年が保障される教授等の場合と差をおいているのは、任期が満了したとき教員としての資質と能力を再度検証して任用することができるようにすることによって定年制の弊害を補完しようとするところにその趣旨があるため、任期を定めて任用された助教授はその任期の満了で大学教員としての身分関係が終了するというべきである。

 しかし、大学の自律性及び教員地位法定主義に関する憲法規定とその精神に照らし学問研究の主体である大学教員の身分は、任期制で任用された教員の場合も、一定の範囲内で保障される必要があり、たとえ関係法令に任用期間が満了した教員に対する再任用の義務や手続き及び要件等に関してなんら規定をおいていなかったといえども、1981年以来、教育部長官は、任期制で任用された教員の再任用審査方法、研究実績の範囲と認定基準、審査委員選定能力等を詳細に規定した人事管理指針を各大学に示達することにより再任用審査に基準を設けており、これに従って任用期間が満了した教員らは人事管理指針と各大学の規程による審査基準によって再任用されてきており、その他任期制で任用された教員の再任用に関する実態及び社会的認識等、記録に示された種々の事情を総合すれば、任期制で任用され、任期が満了した国・公立大学の助教授は教員としての資質と能力に関して、合理的な基準による公正な審査を受けその基準に適合すれば特別の事情がないかぎり再任用されるとの期待を持って再任用いかんについても合理的な基準による公正な審査を要求すべき法規上又は条理上の申請権を持つものとすべきであり、任命権者が任期が満了した助教授に対して再任用を拒否する趣旨で行った任期満了の通知は上記のような大学教員の法律関係に影響を与えるものであり行政訴訟の対象となる処分に該当するというべきである

 

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(阿部教授解説部分)

「はしがき」の末尾で触れたように、再任拒否について、韓国のソウル行政法院が処分性を認めたのに高等裁判所が処分性を否定したところ、大法院は処分性を認めて、高裁に差し戻す画期的な判断をしたわけである。

 大法院判決が、任期制にもかかわらず、再任拒否を処分と認めた理由は、大学の自律性、教員地位法定主義に関する憲法規定等に照らし、学問研究の主体である大学教員の身分は、任期制で任用された教員といえども、一定の範囲内で保障される必要がある点にあり、学問の自由を害しないことは明らかとする京都地裁判決との違いに愕然とする。

 また、この判決は、再任用の義務や手続及び要件になんら規定がなくても、教育部長官は人事管理指針を示していること、これまでの再任用に関する実態などを理由に、再任用について、「合理的な基準による公正な審査を受けその基準に適合すれば特別の事情がないかぎり再任用されるとの期待を持って再任用いかんについて合理的な基準による公正な審査を要求すべき法規上又は条理上の申請権を持つものとすべきであり、」「任期満了の通知は・・・処分に該当する」という。これは法規がなくても、条理上の申請権があるとか、合理的な基準による公正な審理要求するということで、まさに本書の主張とも一致する。・・・・」

 

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二 違憲判決後の再任ルールの設定

 韓国憲法裁判所は、先に任期制について憲法不合致判決を下していた(2003227日、本書第5章一6(2))。これは法律自体を違憲とするものではなく、このままでは違憲だが、修正せよという趣旨である。この判決が指摘した問題は、審査基準、事前手続、行政救済の必要である。そこで大統領令が改正され、昨年学則が改正された。

 まずこれは、第5章注(13)に記載したところであるが、教育公務員法第11条の2は、契約制任用を大統領令で定めることができると定めた(1999129日、本条新設)。これを受けて、教育公務員任用令(大統領令第4303)5条の2「大学教員の契約制任用等」第1項は、副教授以下の任期制を定めた(この細目は第5章注(13)参照)。任期は、専任講師2年、助教授4年、副教授4(中には定年まで身分保障のある副教授もいる)教授(任期なし)の範囲内で契約で決める。

 ここでは、給与、勤務条件、業績及び成果、再契約条件および手続、その他大学の長が必要と認める事項を定めることとなっている。そして、大学の長は大学人事委員会の審議を経て第1項の規定による契約条件に関する細部的な基準を定める(20031231日、本条改正)となった。これは私立学校でもほぼ同様である。

 再任審査は、任命権者(大学の総長、学長)が教育人事委員会の審議を経て行う(1998831日、本条改正)。この人事委員会はソウル大学の学則によれば、3人の審査委員を選出する。

ここで、早大法学部助手李斗領氏が朴正勲副教授から入手して翻訳したソウル大学と法学部の規定によれば、再任審査における評価の基準は、研究実績、教育実績、奉仕実績(学内、学外)、教育関係法令順守及び教授の品位として、それぞれ一定の割合が定められている。それは学部毎に定めるが、ソウル大学法学部の場合には、それぞれ40%、40%、10%、10%である。このほか、受賞等を特別考慮事項として5点加算することがある。

 研究実績については、助教授(任用期間4)に必要な論文数は2点であり、副教授の再任(任用期間6)の際には3点を満たさなければならない。論文には、秀(5)、優(4)、美(3)、良(2)、可(1)の評点がつけられ、教育実績は、修士・博士の排出実績(修士一人13点、博士一人15点等)と学生からの講義評価により数字で示される。

 人格はセクハラなど重大なものを意味し、阿部はというと、大丈夫と一笑に付された。

 このように機械的に計算し、70%以上を満たせば、各学部人事委員会から学長に再任の推薦がなされる。

 これはそれなりに客観的な判定が行われるしくみである。こうして初めて合憲であろう。無記名投票で、新規採用と同じような審査が行われた京大再生研とは大違いである。ついでに、これでは、大学の先生になるのはリスクが大きいのではないかと聞くと、再任拒否されるのは、コンマ以下だから心配ないという返事が返ってきたが、しかし、北朝鮮との関係で阿部泰隆がある提案をし、これを新聞に投書してと頼むと、自分は再任拒否が怖いから、名前を出しては投書はしたくないという返事も返ってきた。

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公正かつ合理的な再任ルールを設定し、恣意的に再任拒否されないように、普通の先生は合格するようにしないと、学問の自由を侵害して違憲というのが私見である85章一6()、二4)が、韓国ではまさにそのように理解されているのであって、学問の自由を侵害しないことは明らかであるなどという京都地裁の判決が謬説であることも明らかであると思う。・・・・・・・・」