「学問の自由」・・・その制度的保障としての「大学の自治」・・・・人事と予算
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芦部信喜『憲法』岩波書店より
「憲法23条は、『学問の自由は、これを保障する』と定める。……学問の自由の保
障は、個人の人権としての学問の自由のみならず、とくに大学における学問の自由を
保障することを趣旨としたものであり、それを担保するための『大学の自治』の保障
をも含んでいる。」(134頁)
「2 学問の自由の保障の意味
(1)憲法23条は、まず第一に、国家権力が、学問研究、研究発表、学説内容な
どの学問的活動とその成果について、それを弾圧し、あるいは禁止することは許され
ないことを意味する。とくに学問研究は、ことの性質上外部からの権力・権威によっ
て干渉されるべき問題ではなく、自由な立場での研究が要請される。時の政府の政策
に適合しないからといって、戦前の天皇機関説事件の場合のように、学問研究への政
府の干渉は絶対に許されてはならない。『学問研究を使命とする人や施設による研究
は、真理探究のためのものであるとの推定が働く』と解すべきであろう。
(2)第2に、憲法23条は、学問の自由の実質的裏付けとして、教育機関におい
て学問に従事する研究者に職務上の独立を認め、その身分を保障することを意味す
る。すなわち、教育内容のみならず、教育行政もまた政治的干渉から保護されなけれ
ばならない。」(136頁)
「3 大学の自治
学問研究の自主性の要請は、とくに大学について、『大学の自治』を認めることに
なる。大学の自治の観念は、ヨーロッパ中世以来の伝統に由来し、大学における研究
教育の自由を十分に保障するために、大学の内部行政に関しては大学の自主的な決定
に任せ、大学内の問題に外部勢力が干渉することを排除しようとするものである。そ
れは、学問の自由の中に当然のコロラリーとして含まれており、いわゆる『制度的保
障』の一つと言うこともできる。
大学の自治の内容としてとくに重要なものは、学長・教授その他の研究者の人事の自治と、施設・学生の管理の自治の二つである。ほかに、近時、予算管理の自治(財政自治権)をも自治の内容として重視する説が有力である。
(1)人事の自治 学長・教授その他の研究者の人事は、大学の自主的判断に基
づいてなされなければならない。政府ないし文部省による大学の人事への干渉は許さ
れない。1962年(昭和37年)に大きく政治問題化した大学管理制度の改革は、
文部大臣による国立大学の学長の選任・監督権を強化するための法制化をはかるもの
であったが、確立された大学自治の慣行を否定するものとして、大学側の強い批判を
受け挫折した。」(137頁)
--------地方公共団体設立の大学(市立大学)の場合の「政府・文部省」とは------------
市立大学に関しては、政府にあたるのは、市の市長以下の行政当局である。具体的に仕事をする「大学改革推進本部」は副市長を長におき、行政当局の一部局である。
その行政当局が、憲法以下の諸法規を守らなければならないことはいうまでもない。
定款という市議会で決定した法人に関する規程だけを眼中に置けばいいのではない。
法人が設立する大学の自治は、憲法以下の諸原理に従って遵守すべきものである。
行政当局の行動に関しては、憲法諸規程との整合性・合法性が問題になる。
行政当局が選んだ教員とだけ(委員会などを作って)ものごとを決めても、大学内の特定の人々の協力を得たに過ぎない(行政当局の専門課題別委員会に過ぎない)ものであって、それは上述の芦部『憲法』が規定するような「大学の自治」に基づくものではない。