公立大学法人横浜市立大学発足に当たって
2005年4月4日
横浜市立大学教員組合
4月1日、横浜市立大学は独立行政法人に移行した。移行への過
程は国立大学では類例をみない強引な行政介入によって大学の自律
性が損なわれるものであり、重大で未解決の問題を残したまま、三
学部の統合と独立行政法人への移行が強行されることとなった。独
立行政法人横浜市立大学の発足に当たり、教員組合は、大学の健全
な運営にとってゆるがせにできないそれらの問題点を指摘し、法人
経営及び教学運営に携わる責任者が問題の解決にむけ真摯にとりく
むよう求めるものである。
1 教員の処遇・勤務条件にかかわる重大な不利益変更問題が未解
決のままである。
任期付教員への移行をはじめ、従来の教員処遇を根本から変える
制度変更について解決をみぬままに推移している。2月15日の当
局提案にたいし教員組合は、重大な不利益変更をともなう提案と受
けとめ、1次(3月8日)、2次(3月23日)の質問と要求を提
出してきた。現在までのところ、1次要求につき口頭回答(3月
23日)が1度あったのみであり、かつ、その間、2月末の教員説
明会において新たな提案を行ったり、任期付教員に移行せず従来雇
用を続けると不利益が生じると示唆する新たな文書を全教員に送付
するなど、条件提示自体について曖昧な態度をとり続けている。
処遇・勤務条件の不利益変更について組合との交渉を経ることな
く当局提示の就業規則を一方的に強行することは、明白な不当労働
行為にあたる。就業規則を使用者の裁量によって確定できると当局
が考えているならば、それは大きな誤りである。就業規則に示され
る労働条件については労使の交渉が必要であり、とりわけ、従来の
制度を大幅に変更する場合には、変更の合理性や不可欠性が使用者
側にきびしく問われる。
なお、このような事態に立ちいたった責任は、教員処遇の重大な
変更について十分な検討、協議期間をとらず拙速かつ強権的な手法
をとってきた大学改革推進本部にある。法人当局はこの現状を直視
し、教員が安心して勤務できる条件を保障すべきである。
2 任期付教員への移行に同意しない教員への差別方針は大学の活
力を奪うものであり、ただちに撤回すべきである
任期付教員への移行を求めた同意書に添付された松浦CEO名の
文書(「任期制運用の基本的な考え方について」3月15日)に
は、任期付雇用への移行に同意しない教員への差別的取扱が公然と
示されており、とうてい容認できるものではない。
「管理職」就任や昇任機会における格差づけを示唆している点で
この文書はあきらかに昇格差別を認めている。
労使協定を要し、業務様態にそくして検討すべき裁量労働制を任
期付教員にのみ適用するとしている点は、不合理であるのみなら
ず、労使協議をつうじて実行される時間制についてあたかも当局の
方針で左右できるかのように述べている点で意図的に誤解を生じさ
せる記述である。
昇任にさいしては任期付教員への移行が条件となるとしており、
「雇用期間の定めのない教員」について任期付教員への移行を強要
する新たな条件を持ち出している。2月末の教員説明会において
は、雇用期間の定めのない教員には昇任の機会を与えないとしてい
た福島部長発言を、3月23日口頭回答において昇任審査の対象と
するむねを明らかにして事実上撤回している。その一方でこの15
日文書において、昇任時に任期制への移行を強制するという新たな
条件を持ち出しているのである。このことは説明会では述べておら
ず、組合に対する回答でも触れていない。このような重大な提示条
件の変更を当組合と教員に明示していないこと自体が、労働条件周
知義務違反であるとともに、有期雇用への移行を条件とする昇格制
度の提案(これが提案だとすれば)は、労基法14条における雇用
形態選択の趣旨にてらし、あきらかな勤務条件差別である。
出張・研修、研究費における任期付教員の優遇を述べ、研究条件
の確保が大きな意味をもつ教員の動揺を誘い、任期付教員移行への
同意をあからさまに誘導している。「勤務条件について差別しな
い」という言明には矛盾しないと言うつもりかもしれないが、雇用
形態を問わず教員評価制度が適用される教員について研究機会の格
差をあらかじめ設けることは勤務条件にかかわる差別そのものであ
る。このような差別が実行される場合には教員組合はただちにその
是正を求め、必要なあらゆる手段をとるものである。なお、研究費
配分等についてはそもそも教学組織が公正かつ客観的基準にてらし
判断、運用すべき事項であるにもかかわらず、経営組織責任者がこ
れを左右する方針を明言することは大学自治の根幹にかかわる重大
な問題である。教学組織責任者は、こうした差別方針について容認
すべきではないし、公正な制度運用に当たるむね態度表明すべきで
ある。
3 労使対等原則に立つ誠実な交渉をすすめるべきである。
すでに述べたように、教員組合の要求について、当局はこれまで
誠実な交渉義務を果たしてきたとはとうてい言い難い。使用者代表
が直接会見して交渉することが労使交渉なのであり、これまで2回
の、回答をつたえるのみの会見は交渉ではない。「大学の方針」に
よる就業規則を教員に押しつけるかのごとき態度に終始することは
労使対等原則にもとづく労働条件協議のあり方を破壊するものにほ
かならない。未解決の事項について、法人当局が、労組法に明示さ
れる誠実交渉義務を履行するようきびしく求めるものである。
4 大学組織、大学運営の自律的・民主的あり方を回復させるべき
である
大学が社会から負託された責任を果たし、教育研究をはじめとする
さまざまな文化的貢献をなしうるために必要な改善、改革をすすめる
ことは重要であり、教員組合はそのために必要な努力を惜しまない。
法人発足に当たっていま求められているのは、大学がその社会的任務
を十分に果たせるよう生き生きとした運営・組織体制を整え、横浜市
立大学にかかわり学ぶ市民や学生にとって魅力ある大学となることで
あろう。大学組織とその運営体制について、この観点から見直し、改
善すべきことがらはあまりにも多い。
この間当局がすすめてきた強引な組織変更、制度変更は大学を沈滞
させる。教員間に差別を設け、上意下達組織への変更によって教員の
創意と意欲を喪失させ、評価の圧力をつうじて沈黙を強いる、そうし
た大学組織が「活力ある大学」をもたらすと言えるだろうか。強引な
運営をしないと当局が述べたところで、その制度保障がないかぎり、
人が代わり状況が変われば、そうした危険はたちまち現実のものとな
る。独立行政法人として発足した横浜市立大学をそのような沈滞の道
に追いこまぬために、教職員、学生の意思を反映し意欲を結集できる
真に自律的で民主的な大学組織、大学運営のあり方をつくりだしてゆ
くべきである。教員組合はそのために今後とも力を尽くして運動をす
すめてゆく。