ドイツ映画『ヒトラー 最後の12日間』の底本となった2冊の本

@ヨアヒム・フェスト
『ヒトラー 最後の12日間』岩波書店、2005年6月21日



コメント:
 「人間的」に描いたというが、この評価はどうだろうか?
 フェストの本は、トレバー=ローパーの古典的著作に比べれば、実に甘い叙述、という感じがするのだが。(トレバー=ローパーの叙述がその後の実証的研究によれば細部においていろいろな誤りを含んでいることはもちろんあるが、ヒトラーが自殺に追い込まれる本質的に重要な転換点と重要諸事件が説得的に的確に描かれている)

 「悪魔」として描くのではないという点では、そのとおりだが、最終段階のヒトラーの実像は、かつて「悪魔」として描かれたことがあるのだろうか?
そもそも、断末魔のヒトラー・ナチ体制をきちんと描いた著作や映画があったのか?
 権力の絶頂点にあったヒトラーはいったいどのように評価するのか?
 ヒトラーを描くには、その登場から権力掌握、そして最後の没落・自殺までをトータルに把握しなければならない。従来のヒトラー・イメージが、英雄的暴君的な絶大な権力者のイメージであったとすれば、それは、権力掌握(1933年)独ソ戦開始(1941年6月)ころまでであり、独ソ戦から世界大戦(1941年12月・1月)へ、そして敗退へと突き進む過程は、その一歩一歩が、ヒトラーの英雄イメージ、絶大な権力者のイメージを剥ぎ取っていく過程であった。
 ヒトラー・第三帝国に抵抗し反撃し、ヒトラー・第三帝国を包囲殲滅に追い込んだた世界の人々の戦いが、それを可能にした。
 

 しかし他方で、ベルリン攻防戦だけでドイツの被害は4万人、ソ連軍の戦死者は30万人という。
 ヒトラーとそれに従う熱狂的な軍隊・ヒトラーユーゲントの頑固さ・頑強さが、最終段階にもたくさんの人々の犠牲をもたらした。気の遠くなるような悲劇が、ヒトラー最後の日々にも起きていたのである。

Aトラウデル・ユンゲ
『私はヒトラーの秘書だった』草思社、2004年1月