科研費報告書冊子『国家と経済−フランス・ディリジスムの研究−』1980年。



 ドイツ第三帝国における「国家と経済」・・・・・・永岑三千輝 56




「ユダヤ人大量虐殺の実施された段階については、総力戦段階に突入した侵略戦争をしょうりのうちに終結すること」が至上命題の段階。

「この中軸的国家政策にすべてのその他の被支配所階級の利害と要求を従属化させ、統合化する」・・・ドイツ国民の食糧事情は最大限の配慮をする。逆に、そのために、被支配民族(支配従属のヒエラルヒー構造の下位の諸民族・諸人種)から、強制的に食料を調達する。

 

 ヒトラー・ナチズムは、人種帝国主義であり、民族帝国主義である。アーリア人種、ドイツ民族を優位、頂点におき、世界を諸人種・諸民族の世界支配をめぐる闘争において勝利しよう、世界強国を建設しようとする。

 ドイツ民族、アーリア人種という最上級の民族・人種を頂点に置き、最底辺にユダヤ民族(人種)を置く。
 マルクス主義的な意味での階級概念(階級支配概念)に代えて、人種・民族の支配従属関係を主張する。
 ヒトラー・ナチズムは、そのような意味でのドイツ内部の(ドイツ人全体ではなく、その意味で)ひとつの階級・グループである。

 民族内部の通常の意味での階級(資本家や労働者といった意味での階級)は、ヒトラー・ナチズムにおいて否定される。むしろ、同じドイツ民族としての共通性・利益共同性が強調される。

 支配民族・主人民族(支配するクラス)Herrenrasse、それに従属する民族・人種(たとえば文化受容民族)、そして労働奴隷の民族(ヒトラー、ヒムラーによるポーランド人の位置づけArbeitsvolk)、そして最底辺のユダヤ民族。

 支配民族・支配人種(支配するランクのもの・・・人種主義的な支配階級)が、下等(ないし劣等)人種Untermenschを支配する。

 
 支配された諸階級(人種主義的には被支配諸民族)は、ヒトラー第三帝国なかでは、ヨーロッパ諸国民、とりわけスラヴ系東方諸国民・諸民族であり、強制労働力として、食料調達地域として、戦時経済への奉仕地域として位置づけられた諸地域の人々である。

 ドイツ人も民族共同体で統合しつつ(民族的利益の犯罪性を指摘する国際主義を否定弾圧しつつ)、占領諸地域の民衆をドイツの戦争に統合すること、その全体構造の中で、ホロコーストは位置付けられる必要がある。

 ヒトラー、第三帝国国家指導部においては、第一次大戦の敗北の体験、革命(内部対立・内部崩壊)によるドイツ戦争体制の崩壊は、「1918年シンドローム」、トラウマとして堅い心理的核心をなしていたのである。

 ドイツ民族内部を共同体として統合し、ドイツ民族が一体となって、他の従属的・奴隷的諸民族を支配するというヒエラルヒー構造(諸民族・人種の階層構造)