合成染料
染料には、天然染料と合成染料とがある。天然染料には、自然にある、昆虫、植物、貝などから抽出した色素がつかわれる。
合成染料は、19世紀半ばに、コールタールからえられたアニリンを操作しているときに偶然にできた(→ ウィリアム・H.パーキン)。染料としてもちいられる物質は、共役二重結合をもつ有機化合物が多い。
染料の色は、可視光線の一部を吸収することで、その補色が色としてみえる。ある有機化合物に特有な色をあたえる原子団を発色団という。しかし、同じ発色団をもつ化合物がどれも同じ色をしているわけではない。
染料は織物にしみこみ、その繊維を着色しなければならない。助色団という原子団を、発色団をもつ染料に導入すると、助色団によって酸性あるいは塩基性となり、染料の繊維への染着性がよくなる。またこの導入によって、色合いがかわり、深く濃い色になったりする。
染料は、染色法や化学構造によって分類される。化学構造による分類は、その化合物の核となる構造によっておこなわれるのが一般的である。分子中にアゾ基(→
アゾ化合物)をもつアゾ染料は、種類が多く合成染料の約半数を占めている。
マゼンタやメチルバイオレットは、トリフェニルメタン染料である。
インディゴは空気にさらして染色する染料で、インジカンとして植物中に存在しているときは、無色結晶性の配糖体である(→ アイ)。
染料の中で、アゾ染料はもっとも広く利用されている大切な染料である。
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I | プロローグ |
アニリン Aniline フェニルアミンまたはベンゼンアミンともいう。無色の液体で、水にはわずかしかとけないが、有機溶剤にはよくとける。1826年、インディゴを高温に加熱した結果、はじめてえられた。アニリンという言葉は、暗青色を意味するサンスクリット語のニラが、アラビア語で植物のアイを意味するアニルになったものに由来する。
II | 有機化学の歴史を開く |
イギリスの化学者ウィリアム・ヘンリー・パーキンが、マラリアの予防薬であるキニーネを合成しようとしていて、不純なアニリンを重クロム酸カリウムで処理したところ、絹の染料として利用できる紫色の沈殿を偶然にえた。これは最初の合成染料であり、パーキンは1856年に特許をとってモーブと名づけ、この染料の量産工場を設立した。最初のうちイギリスの染色業者は、合成染料をこのまなかった。しかし、モーブで染色した絹織物がナポレオン3世の宮廷で大流行になって事業は成功した。パーキンは短期間のうちにアニリンをはじめとして、コールタールからさまざまな合成染料を開発していった。
1 | 廃棄物から資源に |
産業革命とともに、石炭から燃料ガスを製造して、都市には街灯がともり、製鉄所は大量の鉄を生産するようになっていった(→ 製鉄)。一方製鉄所で燃料とするコークスや燃料ガスの生産によって大量のコールタールが発生した。これは、初期のうちは、木材の防腐剤や防水加工の材料としてつかわれたが、やがて処理にこまる産業廃棄物となっていった。
やがて有機化学が発展してくると、コールタールにふくまれているさまざまな有機物を分離する方法が開発されてきた。1834年には、コールタールからフェノールとアニリンがえられるようになり、ごみでしかなかったコールタールが重要な産業資源とみなされるようになっていく。
2 | 医薬の合成 |
フランスのストラスブールの診療所で、まちがってアニリンと酢酸が反応してできたアセトアニリドを患者にあたえてしまったところ、強い解熱効果があることが判明した。これをきっかけに、ドイツを中心に1880年代後半から化学療法剤(→ 化学療法)の開発が進展し、98年にアスピリンが誕生したのをはじめ、現在では副作用が強くてほとんどつかわれなくなったが、多数の細菌感染症の治療薬が開発されていった。
現在、工業的にはニトロベンゼンをスズあるいは鉄と塩酸で還元してつくることが多いが、高圧の条件で触媒をつかって、クロロベンゼンをアンモニアと反応させる方法もある。いずれの場合も、原料は、ベンゼンである。現在でも医薬品をはじめプラスチック、爆発物、香料の合成原料、溶媒としてつかわれる重要な有機物である。
分子式 C6H7N、分子量93.13、融点 -6°C、沸点184°C。
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I | プロローグ |
アゾ化合物 アゾかごうぶつ Azo Compound 分子内にアゾ基をもつ有機化合物の総称。アゾ基–N = N–は2個の窒素原子が2重結合でむすばれたもので、アゾ化合物の一般式はR–N = N–R′でしめされる。R、R′は炭化水素基をあらわし、炭化水素基が鎖式の場合は脂肪族アゾ化合物、環式の場合は芳香族アゾ化合物とよばれる。脂肪族アゾ化合物の多くは不安定で、熱や光で分解されやすいが、芳香族アゾ化合物は化学的に安定であり、光を吸収するアゾ基の作用で、さまざまな色をしめす。
II | 合成染料として重要 |
芳香族アゾ化合物は染料として重要である。天然には存在しない化合物だが、合成は比較的に容易であり、一般にはジアゾ化合物を芳香族アミン(→ アミン)、フェノールと反応させてつくる。合成染料の約半数はアゾ染料によって占められている。
アゾ化合物の多くは生体に有害で、発癌(がん)性をしめすものもある。
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