西洋経済史レポートU(T.K

ドイツ経済・労働問題について

 

はじめに

戦後のドイツ経済は、欧州統合、東西ドイツの統一、グローバリゼーションという三つの大きな環境変化を経験してきた。そして、統合の拡大と深化の過程において、ドイツは常に中心的な役割を演じてきた。今回は、雇用および財政赤字が問題となっている最近のドイツ経済、及び労働問題について考えてみたい。

 

1.ドイツの産業について

ドイツは、世界でも有数の経済国である。GDPは世界第3位で、この経済基盤を支えてきたのが工業である。しかしながら最近ではサービス業が発展し、工業の相対的な位置づけが低下しつつあるが、就業人口比で見ると33%が工業に従事しており、この数値はEU諸国のなかでも高い値である。ドイツを代表する工業分野は、自動車・化学・電機・機械であり、これら4分野の輸出合計は全輸出の62.8%(1997年)を占めている。今日、ドイツの製造業は国際的競争力を失いつつあり、コストダウンなどの企業努力が求められている。さらに、ドイツ企業を取り巻く環境はよくない。国内的に失業率が高いところに、企業が合理化による人員削減を行なえば、雇用問題が一層深刻になりかねない。またEUに加盟した中・東欧諸国の市場が競合している。ドイツでは労働コストや電気料金が高いという理由で生産拠点を多国に移す企業も存在している。

 

2.失業問題について

EUの牽引国でもあるドイツにとって失業問題は大きな問題となっている。ヨーロッパの他の国々に比べて特別高いわけではないが、失業率は10〜11%、失業者数は400万人位である。旧東ドイツ地域の失業率は18%台で、旧西ドイツの約9%と比較すると倍近い数値である。失業問題を解決するために、ドイツでは政府と労使が「雇用のための同盟」をモットーに一致団結してこの問題に取り組んでいる。失業率が高くなった大きな要因は、充実した社会保障制度、高賃金、強い労働組合と恵まれた労働条件など、長年にわたって実現を目指してきた社会的な市場経済システムそのものである。失業者に対しては、失業手当・職業再教育・雇用促進事業など手厚い保護が行なわれるが、この措置が財政を悪化させ、社会保障システムの存在を脅かしているのである。

 ドイツの労働組合は組織率が高く、しかも強いので、賃上げ・労働時間短縮などで成果をあげてきた。なかでも労働時間の短縮はめざましく、週35時間の職場は珍しくない。充実した社会保障を支えるための社会保障料の使用者負担分に加え、賃上げと労働時間短縮による労働コストの上昇が企業の経営を圧迫し、ドイツの国際競争力にも多大な影響を及ぼし、新規雇用が増えない。そして若年層がその影響をまともに受けているのが現状である。また、EU統合が進んでいくと、ドイツの企業は国際競争力回復のため労働コストが安くて済む他のEU加盟国に生産拠点を移転し、産業の空洞化が一層進行し、失業問題がさらに深刻化するのではないかと危惧されている。

 

3.労働時間の弾力化について

(1)弾力的労働時間勤務者の割合

ドイツでは全労働者の34が何らかの形の弾力的労働時間制で勤務している。1993年の調査では、標準的労働時間勤務者が23%である。

 

標準的労働時間と弾力的労働時間勤務者の割合(%)

 

現業労働者

事務労働者

全体

通常労働時間勤務者

28

20

23

弾力的労働時間勤務者

72

80

77

                             (ISO調査による)

(2)時間外労働

 1993年のデータでは、週平均の時間外労働時間は4.5時間であった。時間外労働者の性別では、男子44%、女子31%である。女子が少ないのは、時間外労働の殆どないパートタイム労働者の90%が女子で占められていることと、女子の方に家庭責任が負わされているためといえる。

 

(3)交替制

交替制は、ドイツでも伝統的な弾力的労働時間である。特に大規模事業所で顕著に見られ、労働者500人以上の事業所では23%に達している。交替制労働者の39%は、深夜業に従事している。

 

(4)パートタイム労働

ここ30数年間に増加傾向がみられる。

フルタイム労働者とパートタイム労働者の割合(%)

通常の労働時間

従業者全体

男子

女子

35時間以上

84

97

66

35時間未満

16

34

そのうち

 

 

 

  1−14時間

11

 

11

 15−17時間

 

18時間以上

84

 

84

                              (ISO調査による)

(5)フレックス・タイム制

フレックス・タイム制は、1960年代から登場し始めた比較的新しい勤務形態である。職種別にみると、事務職員が33%、現業労働者は8%である。フレックス・タイム制はサービス業だけの現象ではなく、勤務の形態からみても大規模事業所で普及率が高い。

 

4.ドイツの経済システムについて

現代のドイツの経済システムは、(1)賃金協約と共同決定に基づく協調的な労使関係、(2)銀行によるコントロールを中心とする企業統治、(3)「社会的市場経済」理念に基づく経済政策を3本の柱とする体制である。

 

5.財政赤字問題について

 2002年実績GDP伸び率に関する政府予測が1.25%から0,75%に下方修正されたように、ドイツ経済は株価低落、企業倒産が続き銀行の不良債権も増加している。景気低迷の煽りを受けて歳入が減少したため、財政赤字は拡大し、増税の必要性が生じている。

 

6.東部ドイツ復興策について

 1990年10月3日の東西ドイツ統一後、東部地域住民の最大の関心事は、如何にして西部地域との経済格差を速やかに解消するかにあった。旧東ドイツ地域経済の復興策として信託公社が設置され、旧東ドイツ国営企業の民営化が進められた。この信託公社は1994年末に使命を終え解散するまで、総計約1万5000もの旧国営企業の営業を引き継ぎ、これらの整理・売却を実施した。その結果、東部ドイツ地域は、統一の代価として大量の失業者を抱えることになった。

 

7.考察及び感想

 ドイツの総選挙後、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と社会民主党(SPD)による大連立政権が発足した。同国初の女性首相となったメルケル氏は、内政では失業問題の解決、外交では近隣諸国との関係再構築やイラク戦争で傷ついた対米関係の修復など、内外に課題を抱えている。内政の課題は、慢性化する財政赤字と大量失業の克服である。ドイツは4年連続で赤字が国内総生産(GDP)比で3%を超え、EU協定に違反する。外交目標として経済面で中国・インドなどアジア諸国との関係強化を挙げている。日本も同様に中国・インドとの関係を重視している。また、実労働時間に関しては、ドイツとは大きな開きがあり法規制も異なるが、規制緩和への方向性は同様である。失業問題も等しく抱えている。今後、注目することが多いと思う。

 

 

[参考文献]

*ドイツの労働法と法 和田 肇著  日本評論社

*現代ドイツ 情報ハンドブック  三修社

*朝日新聞(2005・11・23)

*読売新聞(2005・11・23)