4.むすびにかえて
 -現在の問題としての歴史研究-

 歴史の問題は、過去のことを対象とします。

 しかし、問題の取り上げ方、問題の解明の仕方、論争は、その時代、その時代の、したがって、そのときどきの「現在の問題」、「現代の問題」、「現在に生きる人の問題」、「現在の人が直面する問題」です。

 
現代に生きる人々の問題関心・利害関心・政治的関心・経済的関心によって、見えてくることが違います。

 調査しなおすべき問題が、時代と共につぎつぎとでてきます。(最近驚いた問題は、現代世界の奴隷制です)

  常に過去の歴史像が問い直され、検証しなおされ、訂正され、豊かにされるのは、人間がそのときどきに過去を振り返ってみる以上、必然的なことです。

 

ヒトラー絶滅命令の時期に関する

   2001年のヴィストリヒの叙述(歴史像)と

2003年の拙著の叙述(歴史像)との違いは?

 

 

 

 



   

 山を近くで見ていた人が、遠ざかってみると見えてくることが違います。

 東側から見ていた人が、西側から見れば、違って見えます。

 下側からしか見えなかったことが、頂上まで上ってみればまた違いますね。

 さらに、飛行機から見れば、また違っていますね。

  山を見る位置、距離、方向によって、また、山を見る手段の変化・発展によって、山の像はちがうわけです。


 それぞれの像は、それぞれに制限はあるけれども、山の像であることに違いはありません。
 歴史研究は、そうした時代時代の歴史の見方(歴史叙述・歴史論文)の蓄積を踏まえながら、さらに豊かにしていくものです。

 違う時代環境を生きる人は、過去の人びととは違うものが見えてくるはずです。

 歴史は、みんなに開かれた学問です。

新入生のみなさんは、若いことの有利さを持っています。新しい問題を感じる有利さがあります。

 「たたけよさらば開かれん、求めよさらば与えられん。」
 これは、歴史学でも同じです。

 現代に生きる皆さん!!
 21世紀初頭に生きる皆さん!!

 地球が大宇宙の中の小さな小さな宇宙船でしかないことを日々のテレビや新聞の情報から実感している皆さん!!

 最近話題を呼んでいるgoogle earthは、パソコンで自分の家、自分の大学をいながらにして、航空写真でみることができますね(Zoom in)。

 → Zoom out(地球全体が宇宙船だということが分かります)

 

 無料ダウンロードで楽しんでみましょう。

 

 NASA World Wind(無料ダウンロード)もなかなか感動的です(2006年4月現在、家々の像までみるには、google earth の方が解像度がいいようですが)。


 月の表面から地球を見るとどのようになっているか知っている皆さん!

 この私たちの常識は、かつては、迫害・禁止の対象でした。地動説のガリレオに対する裁判!

 地球市民であることを実感しつつある皆さんが、現在自分たちがどこに立っているのかを知るために、地球の人類の歴史の問題について興味を持ち、探究してみたいテーマを見つけ出し、研究に進んでくれることを期待します。

 google earthで見る地球には、国境線がありません。

 国境、国、地域の区画・境界は、人間がその歴史の中でつけたものです。それがよく分かります。

 Google earth でも、「境界線」を表示させると(すなわち、bordersをクリックすると)、現在のさまざまのレベルの境界線が映し出されます。

その境界線は人類史の発達によって歴史的に形成されたものです。

身近なところでは、「平成の大合併」で、たくさんの市町村合併が行われ、これまでの境界線とは違う行政区画ができました。



 


 このページ作成中、東京新聞社説(2月6日)を知りました。

 皆さんが一読すれば、私が歴史学について述べたことを再考し、ものごとをとしっかり考えてみようとするひとつの貴重なきっかけを与えるものと考え、リンクを張りました。