歴史的事実の検証抜きに、ホロコーストを「神話」だとか、「誇張・歪曲された話」などと大上段にいうのは、まさに、否定論。

「誇張」、「歪曲」があるとすれば、それはどのような点か、これを具体的に史実(史料・証拠)に照らして検証する作業は、科学的作業である。

 

ナチス・ドイツにおいてユダヤ人が大量に虐殺された。その総数は、少なくとも5百数十万人から600万人だ、というのは歴史研究が解明し、検証している事実である(幅があるのは、戦時下の出来事であったことから、統計その他の史料・証拠に不確実な部分があるということである・・・歴史研究者は、その不確実な部分もはっきり証拠に基づいて確認している)

 

 そのような大量の被害者の数が、「信じられない」、「嘘ではないか」、「もっと数は少ないのではないか」などとと疑うのは、十分ありえる。

そして、事実について、これまでの研究史について確認作業・検証作業に入る、ということはありえる。また必要なことである。

「これこれの主張・説は、これこれの点で、これこれの史料に照らして誤りである」といった具体的な検証作業は、何も否定論ではない。

 

しかしそうではなくて、検証抜きでホロコーストは「嘘だ」、「神話だ」、「なかった」、「化けの皮」、「インチキ」などといい始めると、それは否定論の言説、宣伝(政治的な宣伝)ということになる。

 

 下記に紹介されているようなイラン大統領の言説には、たしかにその側面がある。

 

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イラン大統領のホロコースト否定論に関して:

 

 反米・反イスラエル・反EUなどの政治的関心・政治的利害・現実的利害関心が背景にあることが分かる。

 

そこにみられるイラン大統領の見地:

イランの「敵の敵は味方」、

イランの敵=(アメリカ、イスラエル、EUなど)の敵(ネオナチ、ホロコースト否定論者など)は味方。

 

イラン大統領は、ホロコーストの歴史的諸事実についてみずから検証作業を行っているわけではない。

 

 

 

下記において、田中氏が引用するホロコースト関連サイト(Zundel, Faurissonなど)は、当然ながら、否定論(修正主義を主張しリヴィジョニストを自称しているが)のサイトである。

また、田中氏自身、下記の紹介の仕方からすれば、イラン大統領及びそれが代表するイスラム教徒の見地に共感しているようである。しかし、ホロコーストの事実性について、田中氏みずから確認したり検証しているわけではない。その点、注意が必要である。

 

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田中宇の国際ニュース解説 2006214 http://tanakanews.com/

 より抜粋

 

 

イスラム世界の反米感情を扇動する

 アハマディネジャドは、大統領になるまで海外に行ったことがなかった。そのため、彼の外交政策について欧米の新聞には「世界のことを全く知らず、他国に対して乱暴な発言を繰り返し、自滅に向かっている」と分析されているが、それは間違いである。

 イスラエルや欧米を繰り返し非難するアハマディネジャドの発言は、パレスチナ問題や、アメリカのテロ戦争、イラク占領など、イスラム教徒がひどい目に遭っている現状を見て世界のイスラム教徒が内に秘めている、欧米とイスラエルに対する怒りを扇動して表に出させる効果を持っている。繰り返される発言が無意識に基づいているとは考えにくく、本人もしくは側近の中に、イスラム世界を扇動し、欧米やイスラエルに対する決起を促す国際戦略が存在していると考えるのが自然である。

 アハマディネジャドは、

ホロコーストは、シオニストが国際社会で権力を持つために使っている神話である」、

イスラエルが、ナチスに弾圧されたユダヤ人のために作られた国家だというなら、それが中東にあるのはおかしい。ナチスは欧州人が起こした問題なのだから、ドイツやオーストリアが自国の州の2つか3つを割譲し、そこにイスラエルを移すべきだ。欧州に土地がないというのなら、欧米全体の責任ということで、カナダ北部やアラスカなど、土地が豊富な場所にイスラエルを移転させればよい」などと発言している。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/4510922.stm
http://www.poe-news.com/stories.php?poeurlid=54959

 これらの発言は欧米から非難・酷評されているが、世界のイスラム教徒の多くからは、喝采を持って受け入れられている。イスラム世界では、ホロコーストを「誇張・歪曲された話」と考えることが広く受け入れられており、1948年の赤十字報告書などを根拠に「ホロコースト自体がなかった」、「ナチス・ドイツは、それほど悪い国ではなかった(戦前の日本と同様、悪い面だけでなく良い面もある国だった)」「アウシュビッツ収容所は巨大な工場で、そこでナチスは、商業の民であるユダヤ人に製造業を教えようとした。全滅させようとはしていない」といった主張も広く出されている。
http://www.thetruthseeker.co.uk/article.asp?ID=2735

ホロコーストの「化けの皮」をはがすイラン

 以前の記事( http://tanakanews.com/f1220holocaust.htm )に書いたように、オーストリアやドイツなどの欧州諸国では、ホロコーストを疑問視するだけで犯罪になる立法がなされているので、私は、これらのイスラム教徒の主張に対し、自分がどう考えているかは表明しない。だが、世界の多くのイスラム教徒が、ホロコースト関連の話に対して「インチキさ」を感じ、欧州諸国の立法を「言論弾圧だ」と感じていること自体は、動かせぬ事実である。

 中東の政治家たちの多くも、私的な会話ではホロコーストのインチキさについて雄弁に語るが、欧米の反応を恐れ、公式には決して語らない。アハマディネジャドは、他の政治家が怖くて公式に言えないことを声高に語ることで、イスラム世界での人気を勝ち取ろうとしているように見える。

 イラン政府は昨年11月、欧州の著名なホロコースト・リビジョニストと話し合いの場を持っている。リビジョニストはイラン側に「ホロコーストの事実性の偽造こそが、シオニストのパワーの源なのだから、イスラエルと戦っているイスラム教徒は、従来のようにホロコーストを欧米内部の問題だと無視せず、ホロコーストの化けの皮をはがす努力をした方が良い」とアドバイスしている。
アハマディネジャドは「ホロコーストは神話だ」と発言する前にリビジョニストの意見を聞き、周到に理論武装した可能性が高い。彼は、欧米の新聞が書いているような狂信的な愚人ではない。
http://www.zundelsite.org/zundel_persecuted/nov11-05-faurisson.html

 最近、イスラム世界では、デンマークなどの新聞が掲載した預言者ムハンマドの風刺画に対する怒りが爆発しているが、激しい事態が続くと、欧米が馬鹿にしていたはずのアハマディネジャドの主張の方が説得力があり、ムハンマドを中傷するのは言論の自由なのにホロコーストへの疑問視は違法だとする欧州諸国の方がおかしい、という話になっていきかねない。少なくとも、世界の13億人のイスラム教徒の頭の中では、すでにそういう話になっている。

 同時に「イスラエルは400発の核弾頭を持っているのに、イランにはウラン濃縮も許さないのは不公平だ」「イランに圧力をかけるのは、イスラエルに核兵器を破棄させてからにすべきだ」という話にもなっている
http://www.haaretzdaily.com/hasen/pages/ShArt.jhtml?itemNo=678674