勉強冷めた日本 

成績良くなること大事33% 米中韓7割超/高校生意識調査

               (読売新聞 3月2日 朝刊)

 

どんなタイプの生徒になりたいか(複数回答、%)

選択肢(抜粋)

日本

米国

中国

韓国

勉強がよくできる生徒

40.5

83.3

79.5

67.4

リーダーシップの強い生徒

15.7

54.1

53.0

48.7

クラスのみんなに好かれる生徒

48.4

21.6

66.2

41.4

先生に好かれる生徒

13.9

3.8

49.9

35.8

正義感の強い生徒

25.7

32.7

54.5

35.8

 

日米中韓の4か国の中で、日本の高校生は学校の成績や進学への関心度が最も低いという実態が1日、文部科学省所管の教育研究機関による意識調査で明らかになった。米中韓では「勉強ができる生徒」を志向する傾向が強いのに対し、日本の高校生が最もなりたいと思うのは「クラスの人気者」。もっぱら漫画や携帯電話に関心が向けられているという傾向も表れており、勉強離れが際だつ結果となっている。
 調査は青少年の意識研究などを行う財団法人「日本青少年研究所」と「一ツ橋文芸教育振興会」が昨年秋、日米中韓の高校1〜3年生計約7200人を対象に実施した。
 それによると、「現在、大事にしていること」(複数回答)として、「成績が良くなること」を挙げたのは、米国74・3%、中国75・8%、韓国73・8%に対し、日本は最下位の33・2%。「希望の大学に入ること」も、米国53・8%、中国76・4%、韓国78・0%に対し、日本はわずか29・3%だった。
 「いい大学に入れるよう頑張りたいか」という問いに、「全くそう思う」と回答した生徒は、中国64・1%、韓国61・2%、米国30・2%で、日本は最下位の25・8%。また、「どんなタイプの生徒になりたいか」を尋ねたところ、米中韓は「勉強がよくできる生徒」が67・4〜83・3%を占めたが、日本は「クラスのみんなに好かれる生徒」が48・4%でトップだった。
 逆に日本の高校生が他の3か国に比べ、「非常に関心がある」と回答した割合が高かった項目は、漫画やドラマなどの「大衆文化」(62・1%)、「携帯電話や携帯メール」(50・3%)、ファッションやショッピングなどの「流行」(40・2%)など。米中韓でいずれも50%前後だった「家族」は、日本では32・4%にとどまった。
 調査を担当した日本青少年研究所の千石保所長は「未来志向の米中韓に対し、日本の高校生は現在志向が顕著で、『勉強しても、良い将来が待っているとは限らない』と冷めた意識を持っている」と指摘している。
 脱受験戦争の果て/努力の価値低下
 日本では長年、受験戦争や学歴至上主義からの脱却を図るべきだと言われてきた。その主張通りに社会が変わってきたとも受け取れる今回の調査結果に、逆に危機感を募らせる識者も少なくない。
 「国家の品格」の著者で数学者の藤原正彦さん(62)は、調査結果について、「一言で言えば、日本の子どもはバカだということではないか」と話した。将来に希望を持てない「希望格差社会」の問題を指摘する東京学芸大教授の山田昌弘さん(48)も「努力することに価値を見いださない傾向は労働意欲の低下につながり、少子高齢社会を支えられなくなる」と危惧(きぐ)する。
 なぜこうなったのか。藤原さんは「個性の尊重ばかりを唱え、子どもに苦しい思いをさせてはいけないという『子ども中心主義』が信奉されてきたこと」を第一の理由に挙げる。
 戦後の日本は高度経済成長を達成した反面、受験戦争の過熱やいじめといった社会問題を抱えた。1980年代には、中曽根内閣の臨時教育審議会が「学歴社会の弊害の是正」などを答申。これを受けて文科省はその後、「ゆとり教育」への転換を図り、経済界も、学歴に偏らない採用基準の多様化などを進めた。
 だが、2003年の国際学力調査で、日本は「読解力」が前回の8位から14位、「数学的応用力」は1位から6位に下がるなど低迷。子どもの学力不足がクローズアップされ、文科省は「ゆとり教育」の見直しを余儀なくされている。
 藤原さんは、こうした経緯に加え、「いつリストラされるか分からない不安定な今の社会で、『勉強してもしようがない』という気持ちが植え付けられてしまった」と指摘。山田さんも「勉強に希望を託せない社会システムに問題がある」と強調している。