20060531「アウシュヴィッツへの道」第三回講義への質問・感想・意見等

 

 

最初に、講義直後に出た質問で、適切にこたえていなかった問題があります。

ユダヤ人絶滅政策への大々的転換点が、1941年12月だった、という1994年以来の私の説が、今では世界的に見て有力な説となっているとの説明に対し、「それでは他の画期はいつですか」というものだった。

(1)       1933年ヒトラー・ナチスの権力掌握、権力確立過程とその直後のユダヤ人商店等への乱暴、

(2)       1935年の法律による市民権剥奪、

(3)       193811月の「水晶の夜」、

(4)       1939年秋、ポーランド攻撃・戦争勃発とポーランド人インテリの逮捕処刑、ユダヤ人のゲットー化、ルブリン地区居留地構想

(5)       1940年夏、西部戦線の電撃的勝利と「マダガスカル計画」、

(6)       1941年夏、独ソ戦とアインザッツグルッペの殺戮拡大、

ドイツの民族主義的膨張とその抵抗排撃の各段階ごとに先鋭化し、殺戮が本格化するのは独ソ戦、すなわちソ連ユダヤ人に対してであり、

(7)       それが一挙に全ヨーロッパに拡大するのが、194112-421月の世界大戦化、総力戦の泥沼化、という見方である。

(8)       しかも、この画期的転換は、実は、ドイツ敗退のはじまり、したがって、人種主義・自民族至上主義・帝国主義・植民地主義が世界の支配原理としては撃滅される過程の始まりでもあった。 

  

 このような段階のなかで、全ヨーロッパ・ユダヤ人の殺害の画期が()である、というのが私の説。この説が、今では有力になっていると考える.

それにたいして、独ソ戦準備段階の413月、あるいは独ソ戦初期の417月末から8月中旬までの間に、ヒトラーの大々的なヨーロッパ-ユダヤ人絶滅命令を想定する見解(栗原説)もある.

 

 

 

感想1:

「現段階の著書」・・・ホロコーストへの道に関する最新の拙著は、『ホロコーストの力学―独ソ戦・世界大戦・総力戦の弁証法―』青木書店、2003年、です。

 

外務省が次官補だったこと・・・ルターは、マルティン・ルターで、まさにあの宗教改革家と同じ名前です。ハンスではありません。

次官のヴァイツゼッカーが出席しなかった理由は分かりませんが、ユダヤ人問題は外務省の問題では次官補クラスの管轄だったのかも知れません。次官クラスでユダヤ人移送に関わる仕事の最高責任者だったのがルターだったとみておきます。ハイドリヒは、129日の最初の会議に向けて、外務省の要望(諸外国からのユダヤ人移送に関する要望)をまとめさせていますが、外務省要望取りまとめの最高責任者がルターでした。ヴァンゼー会議に向けては、ヨーロッパ各地からのユダヤ人移送の希望(必要)を取りまとめて、11月末に提出しています。

マルティン・ルターは、1933年の3月にナチ党に入ったようで、その意味では古参党員ではなく(古参党員は少なくとも権力掌握以前、「苦しい初期の時代から」の党員でしょうから)、時流に乗った党員の一人だったのでしょう。1935年リッベントロップ機関に入り、西欧・東南欧のユダヤ人移送に関与したようです。

後に、ヒムラーの秘書官ヴォルフによって讒訴され、19434月にベルリン郊外のザクセンハウゼン送りとなり、自殺未遂、1945年ソ連軍のベルリン占領後に解放され、その直後死亡した人です。

 

企画に関しては、日本の戦争責任、東京裁判、満州国問題、731部隊などは、日本・アジア現代史研究・満州国研究の金子文夫教授にお伝えしておきます。企画が実現するかもしれません。

 

感想2:

  「今回の内容をもう少し詳しく・・・」・・・他からのも同様のご希望がありましたが、そのうち、検討してみたいと思います。そのときは、話がもっと詳しくなり、参加者は少なくなるかもしれませんね。

 

感想3:

 フランスやアメリカなどの植民地主義・帝国主義の歴史、これについては、本学の別の専門家(フランス近現代史の松井教授、アメリカ黒人問題・公民権運動研究の上杉忍教授)が研究していますので、その方に連絡したいと思います。

 

感想4:

  アウシュヴィッツ、広島、長崎のような悲劇を繰り返さないための正確な歴史認識のために、中高生への講義を・・・たしかにそうですね。考えてみたいと思います。

 

感想5:

 やはり、「歴史修正主義」の歴史歪曲に心を痛めておられる方がいるようで、私の最近十数年の仕事も、そこに関わっています。

 

感想6

  ガス室を嘲笑するかのような「歴史修正主義」(その蔓延)に対抗する場合も、平坦な大道はなく、しっかりと一歩一歩、実証的科学的に事実を発掘解明し、真実を積み重ねて、できるだけ多くの人に説明するしかないと思います。

そうした意味で、歴史研究の結果を、できるだけ読みやすい形で啓蒙的な書物にまとめることも重要かもしれません。いい刺激をありがとうございます。

 

 

ハイドリヒの死は、ホロコーストに拍車をかけたと思います。治安警察・保安部の長官が襲撃され暗殺されるなどということは治安体制・戦争体制にとって大きな打撃であり、それだけに報復の熱情は高まったと見るべきでしょう。

 

ゲッベルス(ゲッペルスではありません、つづりはGoebbelsですから)やゲーリング、ヒムラーに関しても、たしかに思想構造を解明する講義があるといいですね。新潟大学の谷喬夫さんがヒムラーに関する書物を書いています。参考にして下さい。

ゲッベルスに関しては、平井正氏がおもしろい新書を書いています。図書館で調べてみてください。