2006.07.29

現代史研究会

政治経済学・経済史学会統合史フォーラム

CHEESE(東京大学大学院経済学研究科現代ヨーロッパ経済史教育プログラム)

  シンポジウム「戦後ヨーロッパ社会経済秩序と1930年代思想史からの再検討」

 

機能主義再考――社会秩序構想における1950年代の断絶

 

網谷龍介(明治学院大学)

r.amiya-nakada@nifty.com

http://homepage1.nifty.com/amiya/

 

 

はじめに

 

  本報告は,1920年代から1950年代にかけての中部ヨーロッパにおける一つの有力な社会経済秩序構想として,労使協議機関を中心とするコーポラティズム型秩序を代表とする「機能主義的秩序」モデルを取り上げ,その射程と,時間的な広がりを検討するものである.ただし本報告では,筆者の能力の関係から完全な実証を行うにはいたっていない.本稿が明らかにしようと試みるのは以下のような点である.

 

1.     戦間期において,本報告が「機能主義」と位置づける秩序モデルが,国際,国内を問わず一定の位置を占めていたことの確認.

もっとも,国内秩序に関しては,機能主義モデルの存在は少なからざる論者によって指摘されている.また,国際秩序に関しても,城山1996など,国際統合論の先駆として,機能主義的統合論に触れる論及は存在する.従って,本稿の積極的な主張は,この両者を「機能主義的秩序像」として統一的に捉えることができないか,ということにある(この点に関しては,日本に関して,「社会の発見」という国内秩序像の変化とアジア主義という国際秩序モデルを関連付けて考察する酒井哲哉の一連の論稿に負っている.さしあたり酒井199?を参照).

 

2.     戦後のドイツ国内の政治経済秩序をめぐる議論において,戦間期と同様のコーポラティズム的秩序モデルが存在していること明らかにする.

議論の目的は,通常,戦後体制秩序をめぐる議論において「計画」対「市場」という対抗軸が設定されるところ,これとは異なる議論の軸の存在を指摘することにある.同時に,戦後構想,特に1940年代のそれと戦間期の秩序モデルの連続性を明らかにすることが目的である.

 

3.     戦後初期の統合における,機能主義的秩序の側面の指摘.

ここでは,統合史において通俗的には,超国家主義と政府間主義が対置されるところ,これを政治経済秩序像の視角から再検討することが提唱される.具体的には,石炭鉄鋼共同体に組織構成における労働組合の位置の大きさについて略述される.これにより,1940年代から50年代初頭までのヨーロッパにおいて,国内秩序,国際秩序の双方において機能主義的秩序モデルが構想されていたことを明らかにし,戦間期との連続性を示す.

 

4.これに対し,1950年代後半には,政治経済秩序構想の布置は大きく変化していた.ドイツ国内の50年代末以降の議論やEEC条約における労組の位置づけなどを簡単に確認することで,50年代の高度成長を背景に,「(埋め込まれた)自由主義的転回」が起きたという仮説を提示したい.