下記アピールに750余名の賛同者と(「全国国公私立大学の事件情報10月23日」

記者会見・報道

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> 『朝日新聞』20061020日付
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教育基本法改正に反対のアピール 歴史研究者ら有志
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 国会で審議されている教育基本法改正案をめぐり、歴史研究者と教育者の有
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志が20日、廃案を求めるアピールを発表した。浜林正夫一橋大名誉教授ら2
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0人が呼びかけ人で、これまでに755人が賛同している。
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 同法について、国家ではなく、子どもの成長を中心にすえた戦後教育のより
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どころだと指摘したうえで、(1)改正の必要性について、明確な説明がされ
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ていない(2)改正案は人の内面に踏み込み、特定の態度の表明を強制する
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(3)国家、行政による教育の統制をすすめる――などと指摘する内容となっ
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ている。
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教育基本法「改正」案の廃案を求める歴史研究者・教育者のアピール

 

 日本国憲法と教育基本法は、戦後世界と日本の基盤となった民主主義と平和の基本理念を示すものであり、成立後60年近くを経過した現在でも、その輝きを失うどころか、むしろ世界からいっそう注目されるにいたっている。かつて「教育勅語」に基づく皇民教育によって天皇に忠誠をつくす「臣民」の育成が徹底され、侵略戦争の遂行に多くの国民がすすんで協力するにいたったことは、教育のもつ重要性と危険性を広く認識させずにはおかなかった。その反省の上に立って1947年に制定された教育基本法は、民主主義と平和を基軸とした教育の理念を語るとともに、国家による教育統制を極力排除することを主眼としている。これは教育の中身に国家が介入することが侵略戦争の道へ踏み込む結果をもたらしたという反省をふまえたものであり、今日にいたるまで、国家中心ではなく子どもの成長発達を中心にすえた戦後教育のよりどころとなってきた。

 

 ところがこのような教育基本法の理念を根本的に改め、国家が具体的な教育内容に踏み込んで、教育全般の統制を進めようという「教育基本法改正案」が国会に提出され、秋の臨時国会での成立が企てられている。「改正案」には以下に示すように多くの問題があり、歴史の研究と教育にたずさわる者として、これをぜひとも廃案とするよう訴えるものである。

 

 第1に、改正法案の内容以前の問題として、「改正」の必要性、必然性について明確な説明がなされていないことである。政府・文部科学省は、モラルの低下、いじめ、学級崩壊などの現象を「改正」理由としてあげていたが、結局これらが現行の教育基本法に起因するものということはできなくなり、政府は国会における答弁で「改正」理由を説明できなかったのである。民主主義と平和を基調とする戦後教育の根幹を支えてきた教育基本法を、明確な理由もなしに軽々しく「改正」することは到底許されない。

 

 第2に、現行の教育基本法で、教育の方針として「学問の自由を尊重し、実際生活に即し、自発的精神を養い、自他の敬愛と協力によって、文化の創造と発展に貢献するように努めなければならない」と記した第2条をすべて削除し、「改正案」は新2条に「教育の目標」を新たに規定して、具体的な徳目を5つの項目に分けて列記している。最後の5項には「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」という一文が配されている。これは「我が国や郷土を愛する」という人々の心の内面にふみこんで特定の「態度」表明を強制するものであり、他国を尊重するという後段があるからといって看過できるものではない。また愛国心とともに郷土愛を併置したことも重大な問題をはらむ。かつての「教育勅語」の時代においても郷土愛の涵養が叫ばれたが、これは「愛郷心は愛国心の基盤をなす」という発想によって行われたものであった。また「伝統と文化を尊重し」ともいうが、「伝統」や「文化」の内実やそれと国家との関係は複雑であり、特定の伝統観・文化観を押しつける危険性をはらんでいる。

 

 さらに特定の「態度」の育成を教育全般の目標として法定し、それを教育関係者に義務づけることは、事実を学び、事実にもとづいて考え、真理を探究するという戦後の歴史教育の原点を根底からくつがえすことにならざるを得ない。特定の態度育成に役立つ事実だけが選びとられ、教えられ、態度育成の結果が評価されるような教育は、天皇への忠誠心を養うことを目標に組み立てられた戦前戦中の「国史」教育に通ずるものである。

 

 このような「徳目」としての教育目標が、小中高校の教育にとどまらず、家庭教育・幼児教育・大学・私立学校・社会教育などにも共通するものとして設定され、親や教員、地域住民、警察も含むといわれるその他の教育関係者すべてがその目標達成のために努力することを義務づけられるようになることも、重大な問題をはらんでいる。教育機関のみならず社会全体に国が定めた徳目を無批判に受容する体制をつくりあげることになりかねないからである。

 

 第3に、現行法第5条の男女共学についての規定が全面削除されることになった。法の文面上は直接には男女共学についての規定であるが、戦後教育のなかでは、その精神を生かし発展させ、男女平等の教育を推進する根拠となってきた。最近、男女平等の教育・社会をめざすうごきに対して激しい逆流現象がおこっている事実に照らせば、第5条の廃止が男女平等教育を後退させる契機となることが危惧される。

 

 第4に、義務教育を9年とする規定が削除され、さらに「改正案」で法的根拠を与えられる政府策定の教育振興基本計画によって、昨今伝えられるような競争的な全国一斉学力テストが実施されるならば、いっそう効率的、差別的な教育が推進され、教育の平等が損なわれることも危惧される。

 

5に、教育行政のありかたについても「改正案」には重大な問題が含まれている。

現行法では教員にかかわる第6条で「法律に定める学校の教員は、全体の奉仕者であって、自己の使命を自覚し、その職責の遂行に努めなければならない」とあるが、教員について定めた「改正案」第9条では、このうち「全体の奉仕者」という文言を削除した。これとあわせて現行法第10条の「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである」という条文からも「国民全体に対し直接に責任を負って」という部分が削られた。国家および地方行政による教育統制、教育内容への介入を極力排除し、教員は「全体の奉仕者」であって、教育は「国民全体に対して責任を負って」行われるべきであるとした現行法の理念は、「改正案」では全く消失し、教育は「この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきもの」とされた。いいかえれば、教育とその担当者たる教員は、子ども・保護者・地域住民に責任を負うのではなく、政府に責任を負い、法律や通達などの形で示される政府の命ずるところに従って教育を行わなければならなくなるのである。政府による教育支配を完全に合法化する「改正案」といわなければならない。「全体の奉仕者」として「国民全体に責任をもつ」かたちで事実を語り真理を探求するというごくあたりまえのことが、不可能になる。最近の異常なまでの「日の丸・君が代」強制の実態に照らせば、それを杞憂ということはできない。

 

教育基本法を一つの指針として、長年にわたり歴史研究と教育に携わってきたわれわれは、これまでの努力を真っ向から否定するような「教育基本法改正案」は廃案にすべきだと考える。

 

  20061020

   呼びかけ人 荒井信一  猪飼隆明  石山久男  伊藤康子  宇佐見ミサ子

 木畑洋一  木村茂光  鈴木 良  中塚 明  永原和子

 西川正雄  西村汎子  浜林正夫  広川禎秀  服藤早苗

 藤井讓治  峰岸純夫  山田邦明  米田佐代子

 

『教育基本法「改正」案の廃案を求める歴史研究者・教育者のアピール』への賛同のお願い

 上記アピールに多くの方々の賛同をいただき、賛同者のお名前、人数を含めて公表し、関係方面に送付したいと思います。賛同いただける方は下の用紙にご記入の上、下記宛先へ郵送、FAX、電子メールのいずれかでお送りください。学会、研究会、グループなどでまとめてくださることも歓迎いたします。用紙は適宜増刷または継ぎ足してください。連名の場合は、郵送またはFAXでお願いいたします。

送り先 歴史学研究会 101-0051 東京都千代田区神田神保町2-2誠華ビル FAX03-3261-4993

                      rekiken@mbk.nifty.com

締切  10月10日

 

『教育基本法「改正」案の廃案を求める歴史研究者・教育者のアピール』に賛同します。

氏名公表の可否

属・連

(差し支えなければご記入下さい)

 

 

 

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