教育基本法「改正」案の臨時国会での再審議に対する声明

 

                       

 継続審議となった政府提出の教育基本法「改正」案の再審議が今臨時国会において始まろうとしています。大学評価学会は、大学評価が教育・研究のあり方と深い関わりを有し、21世紀の学問の成否・帰趨を決する重要な課題であることから、あるべき大学評価について広く学際的に検討していくことを目的として設立されました。当然のことながら、教育基本法は、「教育の憲法」と言うべきものであり、今後の大学のあり方およびその評価に対して大きな影響を及ぼすことは確実です。本「改正」案に対し大学評価学会は重大な関心を抱くものです。

私たちは、「改正」案に示された条項が国民の教育権と基本的人権にとって極めて深刻な問題を有していると考えます。特に「改正」案の第二条に「教育の目標」を新たに規定し具体的な徳目5項目を上げている点は、評価の観点からも重大な問題を生じさせるおそれがあると考えます。国家主導の特定の伝統・文化観からの評価が実施されるようになれば、国民の教育権、基本的人権、さらに学問の自由を揺るがす事態に発展することが危惧されます。また、「改正」案の第十六条(教育行政)では、国家が「教育に関する施策を総合的に策定し、実施しなければならない」としており、現教育基本法第十条が教育行政の役割を「諸条件の整備確立」と限定づけるとともに教育は「国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである」という内容から大きく逸脱しています。このことは国家による教育統制への道を開くものと言えます。

そして、私たちは、こうした内容に踏み込んで議論することの必要性を指摘する以前に、その大前提として、「教育の憲法」というべき教育基本法を「改正」するにあたっての提案経過に看過できない重大な問題があると考えます。政府提出の教育基本法「改正」案は、部分的な「改正」提案では全くなく、教育の基本的な考え方あるいは理念を根本的に改編する提案と言えます。現教育基本法を廃棄し新教育基本法を制定するという新法提案と言っても過言ではありません。にもかかわらず、7月に終了した通常国会の「改正」案審議は内容的にも時間的に極めて不十分なままでした。何よりも問題なのは、こうした性格を有した「改正」(=新制定)提案にあたって国民各層における広範で十分な議論、また教育関係者における十分な検討が行われていないということです。教育は、政治に翻弄されてはならないし、その手段であってもなりません。本「改正」案をめぐる提案・審議の経過そのものをみると、この「改正」案の提案それ自体が、政治からの教育への「不当な介入」にあたるという疑念を払拭することはできません。

以上の点から、大学評価学会理事は、政府が本「改正」案を速やかに取り下げ、教育基本法改正の必要性の有無や教育の課題について、あらためて国民各層、教育関係者における議論を十分におこなえるよう努めることを強く要請するものです。

 

2006年10月15日 

大学評価学会理事

池内 了(代表理事)

戒能民江(代表理事)

碓井敏正(副代表理事)

井上秀次郎(理事)

植田健男(理事)

海部宣男(理事)

 葉子(理事)

熊谷滋子(理事)

蔵原清人(理事)

佐藤卓利(理事)

重本直利(理事)

永岑三千輝(理事)

橋本 勝(理事)

細井克彦(理事)

水谷 勇(理事)

三輪定宣(理事)

村上孝弘(理事)

望月太郎(理事)