レジュメ:

独ソ戦・世界大戦の展開とホロコースト

                          横浜市立大学 永岑三千輝

 

 はじめに

 ヒトラーがヨーロッパ・ユダヤ人の絶滅命令をいつ出したか?

1941年夏(7月末から8月前半)・・・栗原優説

194112月中旬の一連の証拠・・・永岑説:真珠湾攻撃後の文字通りの世界戦争段階とする説

 

41731日のゲーリングのハイドリヒに対する命令書(「準備命令」)

418月初旬から中旬にかけての独ソ戦の現場・後方地域におけるユダヤ人殺戮の過激化・無差別化

しかし、絶滅収容所への移送、したがって絶滅そのものが基本方針になるのは、194112月中旬以降

42120日 ヴァンゼー会議

 

1.膨張的ドイツ民族至上主義の領土拡大・戦争政策と反ユダヤ主義

―迫害・追放から「疎開」・殺戮へ―

 

ヒトラー(ナチ党)の基本戦略・・・東方大帝国の建設による世界強国の建設

人種主義的反ユダヤ主義のイデオロギー、人種階層的支配秩序

 

 ポーランド侵攻・・・ゲットーへの集中(過渡的措置)

ルブリン地区ユダヤ人居留地構想等

  西部侵攻・・・マダガスカル構想 

 

2.画期としてのバルバロッサ作戦・激戦下の占領地急拡大とソ連の抵抗・反撃の漸次的強大化 

ソ連侵攻・・・「解放軍」、現地の反ソ・反ユダヤ主義を活用

 4173日・・・スターリンのパルチザン戦争の呼びかけ

ソ連の基本的占領方針を示した716日の重要な会議・・・ヒトラー発言

 

 1941731日、「戦勝の熱狂」のなかで、「ヨーロッパ・ユダヤ人問題の最終解決」の準備命令(ゲーリング)

 

3.ドイツ占領下・西ヨーロッパ全域における反ドイツ機運・ユダヤ人追放圧力と暫定的措置

電撃的勝利の見込み・・・消失

民政統治下チェコ・ポーランド総督府における統治の困難、

41814日の大西洋憲章・・・イギリスとアメリカのドイツ包囲網も強化

 

419月、ハイドリヒをプロテクトーア代理に。

419月中旬、ヒトラーは、ヒムラーに、過渡的臨時措置的移送命令

 

4.過渡的移住政策の困難・挫折と臨時的移送(絶滅)政策の選択

象徴的事例・・・ウーチ(リッツマンシュタット)の問題

 

411025日夜のヒトラーのヒムラー、ハイドリヒに対する卓上談話

 

 一方で、早い冬の到来、厳冬で、ドイツ大軍の危機

他方で、ユダヤ人追放圧力の飛躍的累積

 

5.ヒトラーの対米宣戦布告・世界大戦への突入とユダヤ人絶滅命令

 「移送」の選抜基準等の全体的調整が必要・・・ハイドリヒ召集:41129日にベルリン郊外ヴァンゼーで(1129日、中央官庁次官クラスへ招待状)

 ドイツ時間127(日本時間128)・・・真珠湾攻撃。

 ヒトラーの1211日の対米宣戦布告の国会演説。

12日のナチ党最高幹部(大管区長)の会議の発言

4218日、ハイドリヒ・・・延期された会議を、120日に招集(ヴァンゼー会議)

 

おわりに

―労働不能者は即絶滅、労働能力あるユダヤ人は「労働を通じての絶滅」― 

 

 

 

 

------報告関連・史料文献リスト----

 

@     Bundesarchiv, NS19; R58

A     Max Domarus, Hitler. Reden 1932- bis 1945, Bd.4, Leonberg 1973(1987).

B     Europa unterm Hakenkreuz, Sowjetunion, hrsg. v. Einem Kollegium unter Leitung von Wolfgang Schumann und Ludwig Nestler, Berlin 1991.

C     Haus der Wannsee-Konferenz(Hrsg.), Die Wannsee-Konferenz und der Völkermord an den europäischen Juden. Katalog der ständigen Ausstellung, Berlin 2006.

D     Adolf Hitler, Monologe im Führerhauptquartier 1941-1944. Die Aufzeichnungen Heinrich Heims, hrsg. v. Werner Jochmann, Hamburg 1980.

E     Der Prozeß gegen die Hauptkriegsverbrecher vor dem Internationalen Militärgerichtshof, Nürnberg 14. November 1945 – 1. Oktober 1946(IMG), Nürnberg 1947, Bd.38.

F     Peter Longerich, Die Wannsee-Konferenz vom 20. Januar 1942: Planung und Beginn des Genozids an den europäischen Juden, Hamburg 1998. Ders., Politik der Vernichtung. Eine Gesamtdarstellung der nationalsozialistischen Judenverfolgung, München 1998.

G     Die Tagebücher von Joseph Goebbels, hrsg. v. Elke Fröhlich, Teil II Diktate 1941-1945, Bd.2, Oktober-Dezember 1941, München 1996.

H     ゲッツ・アリー著・山本尤・三島憲一『最終解決』(法政大学出版局、一九九八年)

I     ロベルト・S・ヴィストリヒ著・大山晶訳・相馬保夫監訳『ヒトラーとホロコースト』(講談社、二〇〇六年)

J     栗原優『ナチズムとユダヤ人絶滅政策―ホロコーストの起源と実態』(ミネルヴァ書房、一九九七年)

K     永岑三千輝『ドイツ第三帝国のソ連占領政策と民衆 一九四一‐一九四二』(同文舘、一九九四年)

L     永岑三千輝『独ソ戦とホロコースト』(日本経済評論社、二〇〇一年)

M     永岑三千輝『ホロコーストの力学―独ソ戦・世界大戦・総力戦の弁証法―』(青木書店、二〇〇三年)

N     永岑三千輝「ホロコーストの論理と力学―総力戦敗退過程の弁証法―」『横浜市立大学論叢』第五五巻、社会科学系列、第三号(二〇〇四年三月)

O     永岑三千輝「総力戦とプロテクトラートの『ユダヤ人問題』」『横浜市立大学論叢』第五六巻、人文科学系列、第三号(二〇〇六年二月)

P     永岑三千輝「東ガリツィアにおけるホロコーストの展開」関東学院大学『経済系』第二二七集(二〇〇六年四月)

Q     永岑三千輝「特殊自動車とは何か-移動型ガス室に関する史料紹介-」『横浜市立大学論叢』第五六巻、社会科学系列、第三号(二〇〇五年三月、実際には二〇〇七年三月)

R     大野英二『ナチ親衛隊知識人の肖像』(未来社、二〇〇一年)