備忘録:
冷戦体制下、戦後復興・欧州統合の前進のなかでの独裁国家スペイン・ポルトガル・ギリシャ
ケルブレ『冷戦と福祉国家』より
新型コロナウィルスの世界的蔓延・パンデミックとその解決策
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4月10日
Facebookに下記のような意見を投稿した。
法人企業統計(4月7日付でコピーしてある統計)をみますと、この10年間に300兆円から400兆円の巨額の内部留保(利益を企業のなかにため込む)が積みあがっています。この巨額の内部留保が可能だった諸要因を分析する必要があるでしょうが、アベノミクスによる法人税減税も一つの重要な要因でしょう。そうした巨額の利益の内部でのため込みこそ、経済危機の時に使うべきです。大企業中心に、それは可能であり、すべきだということを、法人企業統計は明確に示していると考えます。法人企業統計とその内部留保(利益剰余金)の10年間の累積に関して、コメントを付けました。もし興味ある方がいれば、下記サイトをご覧ください。http://eba-www.yokohama-cu.ac.jp/~kogis.../2020pandemic.html
莫大な額に上る法人企業の利益の累積は、もちろん、それぞれの企業に働く人々が蓄積に貢献したのであって、その点は踏まえつつ、しかし、経済危機・伝染病大流行による社会的破壊が進むときには、法人企業は、自己の存立のためにも、応分の負担をすべきであります。そして、国家・政府は、そうした利益累積に対して、租税の上でも一定の累進課税をかけるなどして、社会的危機の負担を賄うべきであります。その租税政策により、非正規労働者、休業に追い込まれた企業などに、応分の危機脱出資金を提供すべきでしょう。
この関連で、すなわち、企業が取得し累積した剰余労働=剰余価値=利潤、利子等に関連して、
中川弘氏が、「『資本論』第I部講読のナビゲーション」(この備忘録4月6日付で紹介)の148ページで書いていることを、見ておこう。
『資本論』第III部の終わり近くで、…「自由の王国、労働日の短縮」が論じられる直前に次のような叙述があります。
――剰余労働一般は、所与の欲求の程度を超える労働として、つねに実存しなければならない。[しかし]‥・資本主義制度において、……一定量の剰余労働は、不慮の出来事に対する保険のためにも必要であり、・・・・」と。
「不慮の出来事」とは、まさに社会全体で見れば、今回のような世界的な伝染病の大流行こそは、その典型例といえよう。
この「不慮の出来事」のために、累積しておいた剰余価値=利潤等(法人企業統計における利益剰余金300兆円ないし400兆円の一部)を使うのは、至極、当然ではないか。
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4月7日
アベノミスクにおいて日本の大企業の蓄積されたいわゆる「内部留保」(利益剰余金の累積)を、新コロナウィルスによる経済危機においてこそ、社会のために使うべきではないか、という見地から、いろいろ同期生に意見を述べた。
400兆円ともいわれる大企業の内部留保(その一定額・一定割合)を、危機においてこそ社会のために使うべきだ、との発想である。
安倍政権は、100兆円規模の緊急経済対策・財政政策を発表した。
経団連会長は、「今はその財源を声高にぎろんするときではない」と、政府の大々的財政出動を容認した。
しかし、財政出動は、税金の支出であり、負担は、国民が担う。
だが、「国民」のうち、だれが、ということが問題になる。
これまで、日本は、その負担を将来世代に押し付ける政策をとってきた。それが、中央政府の1000兆円を超える負債となっている。
これにさらに、100兆規模を上乗せするのか?
あるいは、今の日本社会が応分に負担するのか?
租税政策が問題となる。
その場合、消費税の増税という大衆増税路線と富裕層・超高額し所得者・資産に対する課税を累進化するのか、ここに大きな対立がある。
私は、やはり、超富裕層および累積資産に、累進的な課税を行うべきだという立場である。
資産ということでいえば、日本の法人企業は、戦後一貫して(ここ的な栄枯盛衰はあっても)全体として、資産を増やしてきた。
戦後の長期統計が見つからないので、最近10年ほどの統計を見てみよう。
固定資産は、平成20年の8,329,47億円から、平成29年の10,277,470億円に増加し、
純資産のうち、
資本金は、自己株式消却(資本金の減額要因)の影響もあるが、それでも、平成20年の1,265,436億円から平成29年の1,395,325億円に増加している。
資本剰余金は、平成20年の1,251,338億円から、平成29年の2,045,393億円に増加し、
利益剰余金は、平成20年の3,092,103億円から、平成29年の5,074,454億円に、約300兆円から500兆円に、すなわち約200兆円も増えている。
純資産は、総計で、
平成20年度の5,490,873億円から、平成29年の8,923,800億円に、すなわch、約350兆円も、増えている。
私の考えでは、こうした巨額の固定資産、あるいは、純資産の増加を達成した法人は、経済危機にあたり、応分の負担をしてもいいのではないか、ということである。
(資産及び純資産) | (単位 億円) | |||||||||||||||
区分 | 番 号 |
固 定 資 産 | 純 資 産 | 番 号 |
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土 地 | 建設仮勘定 | その他の有形固定資産 | 無 形 固 定 資 産 |
投 資 有 価 証 券 |
そ の 他 | 計 | 資 本 金 | 資 本 剰 余 金 |
利 益 剰 余 金 |
自己株式 | そ の 他 | 新 株 予 約 権 |
計 | |||
20 | 1 | 1,894,934 | 194,048 | 2,697,622 | 217,725 | 2,028,126 | 1,297,015 | 8,329,470 | 1,265,436 | 1,251,338 | 3,092,103 | △ 179,244 | 59,859 | 1,381 | 5,490,873 | 1 |
21 | 2 | 1,957,783 | 181,938 | 2,670,036 | 259,638 | 2,122,664 | 1,417,466 | 8,609,525 | 1,404,307 | 1,603,606 | 3,007,493 | △ 165,408 | 200,927 | 1,792 | 6,052,717 | 2 |
22 | 3 | 2,004,647 | 171,102 | 2,694,297 | 212,614 | 2,274,685 | 1,332,391 | 8,689,736 | 1,403,786 | 1,487,255 | 3,256,900 | △ 158,253 | 161,795 | 2,135 | 6,153,618 | 3 |
23 | 4 | 2,002,591 | 180,922 | 2,655,031 | 239,145 | 2,354,736 | 1,363,219 | 8,795,644 | 1,408,488 | 1,623,297 | 3,155,550 | △ 154,394 | 200,588 | 2,645 | 6,236,174 | 4 |
24 | 5 | 1,886,214 | 158,087 | 2,474,713 | 222,876 | 2,441,055 | 1,224,515 | 8,407,460 | 1,402,570 | 1,609,540 | 3,420,126 | △ 169,395 | 366,259 | 2,190 | 6,631,289 | 5 |
25 | 6 | 2,051,768 | 158,715 | 2,533,868 | 237,710 | 2,673,388 | 1,308,891 | 8,964,340 | 1,389,233 | 1,640,887 | 3,726,264 | △ 162,025 | 469,446 | 4,329 | 7,068,134 | 6 |
26 | 7 | 1,956,898 | 167,947 | 2,631,311 | 253,939 | 2,785,658 | 1,267,380 | 9,063,133 | 1,389,521 | 1,712,190 | 4,031,997 | △ 185,122 | 686,922 | 3,034 | 7,638,541 | 7 |
27 | 8 | 1,903,442 | 186,600 | 2,681,905 | 238,057 | 2,780,941 | 1,360,174 | 9,151,119 | 1,393,491 | 1,833,414 | 4,292,157 | △ 223,966 | 577,144 | 2,946 | 7,875,185 | 8 |
28 | 9 | 1,903,857 | 199,824 | 2,651,439 | 286,761 | 3,158,039 | 1,492,384 | 9,692,304 | 1,402,533 | 1,852,160 | 4,606,122 | △ 230,572 | 592,190 | 3,811 | 8,226,245 | 9 |
29 | 10 | 1,960,921 | 216,699 | 2,719,311 | 297,498 | 3,533,608 | 1,549,433 | 10,277,470 | 1,395,325 | 2,045,393 | 5,074,454 | △ 261,460 | 666,136 | 3,953 | 8,923,800 | 10 |
(注) 「投資有価証券」及び固定資産の「その他」には,銀行業及び保険業の数値は含まれていない。 |
-----------------------以下、2020-03-30〜04‐06-----------------------
2020‐03‐30 友人YNさんからもらったジョンズ・ホプキンス大学の統計によれば、私が一番関心をもつ死亡率について、
今日のデータで見ると、
最低が、0.3%のイスラエル、次が、0.4%
次いで、0.6%のノルウェー、そして、
地続き(国境を接する)国チェコ、ドイツ、
その原因はなにか。それを可能にする要因は何か。
人口 | 所得 | 納税額 | |
A | Bottom 50% | 11.49% | 2.78% |
B | 50-25% | 20.41% | 10.94% |
C | 25-10% | 22.23% | 16.47% |
D | 10-5% | 11.45% | 11.25% |
E | 5-1% | 15.38% | 20.74% |
F | Top 1% | 19.04% | 37.80% |
100.00% | 99.98% | ||
E+F | 34.42% | 58.54% | |
D+E+F | 45.87% | 69.79% | |
C+D+E+F | 68.10% | 86.26% |
新型コロナウィルスの世界的感染爆発とその克服のために統治される莫大な資金を賄うために何をなすべきか?
この問題で、私は、「富裕層」、特に「超富裕層」への累進課税が必要ではないかと述べたが、ドイツの社会民主党党首エスケン女史は、「一度きりの財産税」を提案している。
この発想にも、労働所得と資本所得の区別、資本所得をつみあげた財産(Vermögen)との区別の重要性を見ていることがわかる。
所得には、労働所得と資本所得があるということに留意しつつ、トマ・ピケティ『21世紀の資本』のグラフを利用して、所得格差の傾向をみると、アングロサクソン系諸国と対リックヨーロッパ・日本との間には、かなり目立った違いがある。
20世紀全体のなかでの傾向として、1940年代から1980年代まで(戦時期から冷戦体制下)、格差は低位水準にあった。これに対し、1980年代のサッチャリズム・レーガノミクス・新自由主義・市場万能主義の跋扈のなかで、格差が拡大していったことがわかる。
その格差拡大のトップを走るのが、米国、ついでイギリス、すなわちレーガノミスクとサッチャリズムの米英であった。
これに対し、フランス、ドイツ、スウェーデン、そして日本の傾向はどうか?
さらに、北欧と南欧では、どのような傾向だったか?
このグラフでも、日本がかなり低格差の国だということがわかる。
企業経営者のトップたちが、アメリカ、イギリスなどアングロサクソン系諸国はもちろん、ドイツよりも相対的に低い「所得」であって、フランスとほぼ同じ、この期間の最後にはフランスを少し抜く、といった状況が見て取れる。
「福祉国家」、北欧型社会主義国家のスウェーデンは、この中で格差の程度では最下位に(すなわち平等化の程度の高い位置に)あることがわかる。
私が若い人と訳したハルトムート・ケルブレ『ヨーロッパ社会史』(日本経済評論社、2010年)には、
第2部 社会の階層秩序と不平等のなかの
第7章 生活状態の社会的不平等と移動機会、という章があります。
そこに、下記の所得格差、資産格差の統計があります。
統計は、少し古く、また、世界的格差拡大の90年代以降が欠如しています。しかし、いろいろ考えさせるデータを含んでいると思います。
下記の資産格差は、1979年までしかなく、その点でも、トマ・ピケティの『21世紀の資本』が示す格差拡大は、貴重なデータとなります。
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4月3日
マルクスの労働価値説の理解をめぐって、若干の私の説を友人に説明した。
もちろん、そこでも述べたが、「大雑把な」説明であり、正確には、『資本論』第1巻にあたっていただくしかない。
商品の価値、資本の増殖といった一般的法則を踏まえながら、マルクスは、第三巻(ただし完成はエンゲルス)を書いた。
その第3巻冒頭は、
第一篇 剰余価値の利潤への転化と剰余価値率の利潤率への転化
第1章 費用価格と利潤
第二章 利潤率
・・・
・・・
などとなっている。
こうした諸概念を当時の経済学者の概念と比べ、当時のドイツの経済学者の認識がどうなっていたかを検討した論文が、最近、刊行された。
柳澤治「産業革命期ドイツにおける生産価格・利潤概念――L.H.やーこぷ、G.フーフェラントの場合――」明治大学『政経論叢』第88巻 第1・2号(2020年2月刊)。
その抜き刷りをいただいたので、表紙と最初のページをコピーしておこう。
近いうちに、明治大学学術成果リポジトリに掲載され、どこからでも読めるようになるであろう。
https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/dspace/handle/10291/797
費用価格、生産価格(費用価格+利潤)など、当時の経済学者の認識と規定。
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4月6日
この間に大学院の5年先輩にあたる中川弘氏(福島大学名誉教授)から、2冊の本を続けざまに頂いた。
一冊は、「『資本論』研究序説」(八朔社、2020年4月10日刊)、
もう一冊は、「『資本論』第I部購読のナビゲーション」(学習の友社、4月20日刊)である。
いずれも、書店に並ぶ前に、著書から送られてきたものである。
ナビゲーションの平明な解説の前提となる研究序説は、しっかり時間をかけて読み込む必要がある。
ナビゲーションの方は、市民講座のテキスト・資料集であり、『資本論』第1巻がどんなものか、全体を把握するには最適だと思われる。
ナビゲーションへのいざないの素材として、下記二つの「コーヒーブレーク」を紹介しておこう。
内田吐夢監督と高倉健が、こんな会話をしていたとは!
『資本論』の生命力