ホロコーストの定義
(具体例のいくつかとその問題点)
1.「大惨害。大虐殺。特にナチスによるユダヤ人大虐殺を指すことが多い。
ユダヤ教の、焼き尽くした献げ物が元の意味。」
[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]
問題点・・・殺害したユダヤ人を「焼き尽くした」のは、いつから、どこで?
2.「ホロコーストは、第二次世界大戦中の国家(国民とすべき…永岑)社会主義ドイツ労働者党率いるドイツ国がユダヤ人などに対して組織的におこなった絶滅政策・大量虐殺を指す。」[ウィキペディア]
問題点:
Nationalsozialistische Deutsche Arbeiterparttei
Nationalに国家を当てるか、国民を当てるか。・・・・論争点の一つ
ドイツ語では、国家Staatという言葉がある。
たとえば、ビスマルクのやった社会保険政策・3法律(1883年疾病保険法、84年災害保険法、89年疾病・老齢保険法)は、Staatssozialismus国家社会主義といわれる。
ナチスの理念・政策・行動の全体は、強烈なナショナリズムが根底にあり、国民主義・民族主義の政党。
ヒトラー『わが闘争』・・・・「国家は、国民、民族のたんなる手段でしかない」などと、国家と国民・民族を区別。
問題点:
「第二次大戦中」というが、1939年9月から「ホロコースト」が始まったのか?
事実としては、ユダヤ人迫害は戦争がはじまると激しくなるが、最初は、ユダヤ人をどこかに追いやってしまおうとする移住政策・移送政策でしかなかった。
最初から、大量虐殺がおこなわれたのではなかった。
では、大虐殺は、いつからか、どこでか? それはなぜか?
3.「ナチスによるユダヤ人大量虐殺のこと。”最終解決”。
元来は旧約聖書にみられる、神への「焼き尽くした」羊などの供物をさす。
旧約聖書のギリシャ語訳から英語に入り、13世紀あたりから人間の生け贄をもさすようになった。それが、アメリカのテレビ劇「ホロコースト(1978年)以来、現在の使われ方として一般化した。(石田勇治)」
『角川 世界史辞典』
問題点:
ナチスによるユダヤ人大量虐殺、
しかし、それと「最終解決」とはどう関連するのか? 不明。
まさに、「ユダヤ人大量虐殺」と「最終解決」とどのように関連するのか、これこそ、論争点の一つ。
4.ジーニアス英和辞典
「1,(ユダヤ教で)全はん祭の供え物(神前に供える獣の丸焼き)。
2.the Holocaust(ナチスの)ユダヤ人大虐殺
問題点:
これも論争点無視、時期の特定がなされていない(いつのことか、なぜか、時期特定と理由が論争点の一つ)。
3.(特に火による)大虐殺、大破滅、全滅」
5.アメリカ合衆国ホロコースト・ミュージアムの
『ホロコースト百科事典』の「ホロコースト」の説明
1933年のヨーロッパにおけるユダヤ人の人口は900万人を超えていました。 そのほとんどは第二次世界大戦中にナチスドイツが占領した、あるいは影響を与えた国に住んでいました。 1945年までにドイツ軍とその協力者は、ヨーロッパのユダヤ人を殺害するというナチスの政策「最終的解決」の一環として、ヨーロッパ在住ユダヤ人の3人に2人を殺害したのです。
問題点:
時期に関しては、「第二次大戦中」という規定。
しかし、いつから大量殺戮が始まったのか、はじめから計画的だった(プログラム論、計画論、意図主義)のか、第二次大戦の経過とそれをめぐる諸条件によるのか(機能主義)といった論争点を無視している。
何時から、どのように、という点の定義は、ない。
何時から、どこで、どのように、という最低限の限定がないと、
世界での論争を無視しており、誤解を生む。
以上の問題点に対する私の見地
4冊の拙著のタイトルが、示している。
@『ドイツ第三帝国のソ連占領政策と民衆 1941‐1942』同文舘, 1994.
A『独ソ戦とホロコースト』日本経済評論, 2001.
B『ホロコーストの力学
―独ソ戦・世界大戦・総力戦の弁証法―』
青木書店, 2003.
C『アウシュヴィッツへの道――ホロコーストはなぜ、いつから、どこで、どのように――』
(横浜市立大学新論叢、出版社:春風社)