横浜市大非常勤講師の皆様へ
非常勤講師労働組合結成趣意書
横浜市立大学非常勤講師労働組合結成準備委員会
労働組合に参加し、市大教員組合と連帯しつつ、非常勤講師の給与削減と地位格下げに反対し、「改革」の名のもとに進行する全般的な教育状況の劣悪化に抗して、ともに闘いましょう!
あれから半年・・・
4月初旬に発行元の記載のない「非常勤講師謝金支給方法について」と題する文書が事前説明もないまま送付され、その内容がすぐさま実施されてから、早くも半年が経とうとしています。
私たちはこの不透明な文書に戸惑い、その内実を理解するするまでに二ヶ月近くを要しましたが、そこに労働条件の決定的改悪の事実を確認しつつ、非常勤有志による「ネットワーク」をつくって、遅まきながら着実な反対運動を組織し、昨年度ベースへの復帰をめざして意思表示を行なってきました。
これにたいして当局側も、学長による釈明をだし、夏休み直前には、「試験実施届」なるもので表向きは譲歩ともとれる措置を発表して対抗しています。
横浜市の財政悪化を理由に事務局が密かに強行したこの「実績支給」方式の問題点をここで再確認したうえで、私たちがこのたびあえて組合結成に踏み切った理由を示し、皆様のご理解を得ると同時に、まもなく開かれる「組合結成大会」に多くの方々の積極的参加を呼びかける次第です。
何が問題か?
今回の非常勤給与支給方式の改変は、昨年度まで長く続いてきた「年間定額制」を廃止して、年32回の出講を前提に計算した時給に基づく「実績支給」(つまり「実際に授業等を行った回数」)を実施するというものです。
しかし、学年暦に従って計算すれば、年間32回の出講は実質的に不可能である以上、給与削減は明白です。この出講回数は大学設置基準(授業は30週にわたる)に照らしても根拠のない恣意的なものです。これにより非常勤は、通常なら懲罰でしか行われないような大幅減給を強いられることになったのです。そればかりでなく、病欠や学会出席などでの休講や、公の祝祭日ならびに大学祭等にともなう休講分の支払いについては、年間勤務を長期にわたって続けることの多い非常勤の既得権でしたが、今年度からこれも剥奪されることになったのです。このように、実質的減給だけでなく地位の格下げも行われて、労働条件の二重の悪化がなされたわけです。
なんの事前説明もないまま実施されたこの改変にたいして抗議を表明した非常勤講師にたいし、当局側が学長通達を出して謝罪せざるをえなかったことはすでにご存知のとおりです。とはいえ、非常勤の「予算は削減していない」「時間単価は他大学と変わらない」として、表向きは給与削減がないかの如き説明をおこないつつ、当局側は、この実績支給方式を改めないという態度を固持しています。
「試験実施届」の表と裏
事務局側の最新の動きは、ご存知のとおり、八月初旬になって ― つまり試験がすべて終了したあとに ― われわれの手元に届いた、「試験実施届」なる文書を付した通達です(7月30日発行)。この届けに記入し提出すれば、試験時間にかかわらず講義一回分を支払い、レポート分も同様に支払う、というわけですから、表向きは、当局側の初めての「譲歩」のようにも見えます。たしかにこれは、「非常勤ネットワーク」および教員組合の一連の抗議に対するひとつの応答であったことはいうまでもありません。
しかし、よく考えてみると、この文書はなぜ試験前に予め通知されることなく、試験後になったのでしょうか? また、すでに実際に試験を行なった者にさえ、試験期間中の支払いはせずに、すべてこの書類を出さないかぎり支払わない(「この届出に基づいて謝金を支給させていただきます」)、という踏み絵的工作をおこなっているのでしょうか? 事実、7月後半の試験期間分の支払いは行われていません(8月15日の7月分支払いを各自ご確認ください!)。いくつもの疑問が浮かびます。
ほかにもこの文書には、裏と表が乖離した奇妙な点がみられます。例えば、試験やレポートの「実施及び採点までについて、授業一回分相当の謝金をお払いいたします」とあります。一見すると、レポートはどうなるのか心配された方々にはたしかに朗報のようですし、一時間以内に試験を終えた場合にも二時間相当で支払われるので、一時間分しか支払われないという危惧は払拭されたように思われます。
しかし文言をよくみると、「実施及び採点まで」となっており、この支払い額には、採点時間も含まれることが明記されているのです。ですから、もし試験に60分かかったら、残りの30分で採点をしろということになるわけです。採点などごくいい加減でも構わないという意味なのでしょうか? さらに、試験に90分かかった場合は、採点時間は「サービス残業」にしろということなのでしょうか?
こうなると、「実績」払いを無理やり施行しながら、どうみても必要な実労働分については支払わない、という手前勝手な矛盾した論理が見えてきます。それでいて、年間32回出講という問題の計算方式については何も触れていません。事実、ここでは根本的な問題はいっこうに変わっておらず、むしろ逆に「実績払い」を自分たちの都合のよいやり方でさらに既成事実化する意図が強く打ち出されているのです。
このように、もっとも組織性の脆弱な非常勤講師が経費削減の最初のターゲットとして選ばれたのです。すでに5%の非常勤講師が雇い止めとなって切り捨てられた上での今回の減給および地位格下げ、さらには、今後予想される独立法人化のさいの大幅人員削減が着々と準備されているのです。
大学非常勤講師の勤務条件の実態 (国会報告より)
ところで、通常ばらばらで組織化しにくい大学非常勤講師が、その困難を乗り越えて、相互に連携し合う組織をもって闘わねばならい理由は、たんに今回の市大の特殊事情にのみ還元できるものではありません。現在の日本社会にあって、一般的にみても不安定できわめて劣悪な勤務条件に甘んじていることは ― 主観的には非常勤の誰もが感じているにせよ ― 改めて客観的に再確認しておく必要がありそうです。これまで社会的にはあまり話題にされずにきた大学非常勤の勤務実態について、この夏、ようやく国会でもとりあげられましたので、その一部を以下に紹介しましょう。こうした実情を社会一般の枠内で捉えなおすことにより、市大事務局がとった措置がいかに不当で非人間的なものであるかがいっそう浮き彫りになると思います。
7月22日の衆議院決算行政監視委員会で質問に立った金子哲夫議員は、大学非常勤講師の実態について次のように発言しています。
(要約)大学の講義は、(大学によって差はあるが)2割から5割が非常勤によって行われているのが実情で、「専業非常勤講師」として働く人の数は、「実数二万人」を数えると推定される。非常勤講師の待遇はきわめて悪く、その賃金は、一般に「週に五コマぐらい」を担当する「専任教員」と比較すると、非常勤講師が週5コマをこなした場合、平均して「年に150万円前後」となり、その「待遇は専任教員の七分の一の待遇の実態にある」。
さらに同議員は、給与以外の待遇についてこうも述べています。
「雇用保険等にかかわる問題について、この非常勤講師というのは全く今その待遇が行われていないということであります。もちろん、大学の講師の場合には、ほとんどの場合、専任教師用の研究費、図書費、出張費等々もありますけれども、非常勤講師の場合には、その専任教員の大体十分の一ぐらいという、極めて差別的な待遇で働いているということであります。特に、(・・中略・・)大学の専業非常勤の講師が、本来はパート労働者でも保障されている共済組合とかそれから社会保険への加入がほとんど認められていないというか、実態上、そういう実態になっていないということになっております。」
このようにきわめて貧弱で不安の多い労働環境にあるわれわれに追い討ちをかけるように、市大事務局が強いたいっそうの労働条件悪化を前にして、「世の中の流れ」と黙認しひたすら堪えることは、卑しくも高等教育に携わり、いくぶんなりとも未来世界に若者の目を向けようと知の普及に努める者として、はたして美徳となりうるのでしょうか?
大学だけでなく、今日広く「改革」の名目のもとに、全社会的規模で進行する多くの現象のなかには、まず弱者や部下に犠牲を強いて、サービス残業や無意味な労働をひたすら増加し、改革どころかじつは管理者側の利権維持と支配強化以外の何ものももたらさない悲惨な現実があちこちでみられます。それはとりわけ私企業の一部で露骨に行なわれ、そのもとで働く者は、無告の民として苦渋を舐めながら沈黙を余儀なくされているのです。賃金カット、労働条件の急速な悪化といった外的事態は、それのみにとどまることなく、必然的に職場の人間関係の悪化と混乱を生み、人々の心に不幸の種をまき散らしています。ここ数年のこれまでにない自殺者の増加は、それを物語るごく典型的な一断片にすぎません。
真の改革とはおよそ異なるこうした強迫性をともなった退行的な巨大なうねりが、私企業のみならず、横浜市などの巨大自治体や大学という高等教育の場さえ呑み込んで、われわれのすぐ目の前にまで迫っていることを実感せざるをえません。
この不穏な状況に対抗してささやかなレジスタンスを組織することは、給与問題の解決という個別目標追及のレベルを超えて、不当な権威の行使に抵抗できる自立した個の連携として、成熟した民主主義をめざす人間的モラルの方向性を提示する一手段になりえないでしょうか?
いかに闘うか?
では、巧妙かつ強力な当局側の締めつけに対して、非常勤講師側はどのように闘えばいいのでしょうか?
すでに、自然発生的に集まった非常勤講師有志は、「非常勤講師ネットワーク」(参加者は現在53名)をつくり、活動をおこなってきました。しかしこの会は、あくまで「有志」の集まりという限界があり、そのため当局から正式な交渉相手とはみなされず、現に事務局側は「直接交渉しない」、「会わない」という態度で臨んでいます。ですから、これまでわれわれの要求は、学長との会談や教員組合を通じて、間接的手段でしか事務局側に伝えれらていないのが実情でした。つまり、直接交渉のための公的な場がもてず、今後の闘争に進展が見込めないという困難に直面したわけです。
他方、当初の論議のなかには、不当労働行為だから法廷闘争をすべきだという意見もありました。しかし、特に国公立大学の非常勤講師が労働法あるいは地方公務員法上で不明瞭な地位に置かれている上に、周囲に法律の専門家がおらず、弁護士を雇う資金もない、といったいくつかの困難が重なり、実質的にこの方針も実現困難なことがわかりました。
しかしその後、教員組合をはじめとする外部の方々の的確なアドバイスにもとづき、内部での論議を経ながら、8月6日に開かれた「ネットワーク」の最初の会合で、最終的に、労働組合結成という方針が全会一致で承認されたのです。というのは、労働組合法によれば、労働組合は団体交渉権をもち、これを拒否すれば違法となるため、事務局側を正式に交渉の場にひきだす有効な手段であることが確認されたからです。このように、組合結成にふみきった理由はごく単純です。法的に認められる正規の地位を得て当局側との交渉を正式かつ有利に導くためには、それが現在われわれがとりうる唯一の道だということです。
非常勤講師労働組合を基盤として当局との交渉に臨み、同時に、すでに当初から全面的ご支援をいただいている横浜市大教員組合との協力関係および連帯をいっそう強めつつ、当面の給与問題を昨年度ベースに引き戻すという要求のもとに、秋からの闘争をより高次な新たなステージで展開して行くことになったのです。
本来ほとんど繋がりのない人々が初めて連携することは、たしかに面倒で労苦が多く、ときには報われない作業かもしれません。しかしそれは同時に、一つの関係性の創出である以上、つねに新たな経験の基点となる可能性を秘めているかもしれません。
是非ともご参加を!!
付記
去る9月3日(火)。横浜市役所にて「市立大学のあり方懇談会」(座長・橋爪大三郎東工大教授)の第1回会合が開かれたそうです。市の平成14年度の一般会計予算では、横浜市立大学と大学付属病院に計上された予算は約243億円。市の財政状況の悪化などから大学には経営努力が求められており、なおかつ、今後の独立法人化によって生まれる国立大学との生き残り競争を勝ち抜くためにも特色を生かした大学改革が望まれているそうです。中田市長は、「市が大学を設置する意義があるのかどうかといった、原点から話し合ってほしい、設置者としての市の役割を明確にしてほしい」と挨拶したそうです。これを見るかぎり、中田市政は、教育の問題としてではなく、横浜市という自治体の経営問題として横浜市立大学をとらえていることは明らかです。専任教員のみならず、非常勤講師が、教育・研究という観点からの発言を行うためにも、労働組合結成は意義あることと考えております。