社会構造論の必要不可欠性に関する藤山教授の小川学長宛説明文

 

----- Original Message -----

From: Yoshio Fujiyama

To: 小川 恵一

Sent: Monday, June 17, 2002 10:24 AM

Subject: 「凍結」問題に関して

 

小川恵一先生

本来の意味での大学の存立が剣が峰に立たされているという時に学長になられ、ご多忙を極めておられることと拝察いたします。

さて、人事「全面凍結」という今回の事務局の「発言」(提案という形式にもなっていないと考えます)が、大学という組織のあり方にとって座視し得ない多くの問題を含んでいることについては、すでに各方面から指摘されているとおりだと思います。今回、メールを差し上げましたのは、「全面凍結」「発言」が教育と研究にたいして与える甚大な影響を一顧だにしていないという点、この一点に絞って「現場」からの具体的な声を学長にお届けしておかないと大学人として後世に悔いをのこすことになると思うに至ったからです。これはまた、「大学の基本は教育活動にあります」(本学HPでの学長あいさつ)という小川学長の信条に密接に関わる事柄であるとも思います。

大学教育は、いかなる人材を養成するかを念頭に置きつつ、そのためにはいかなる範囲の学問や知識をいかなる体系やいかなる順序を踏んで学生に提供するか、これを具体化したカリキュラム体系を通してこそ実現されることは言うまでもありません。したがって、このカリキュラム体系は大学教育における生命線であると言わなければならないと思います。カリキュラムの策定は、学部制度、学科制度、コース制度、卒業や進級の制度など、実に多面的な諸制度のあり方の検討にも連鎖しますので、長期的かつ総合的な検討の時間を要します。

現行の商学部のカリキュラム体系も数年間の日時と教員の膨大なエネルギーを投入して作られ実行に移されてきたものです。勿論、カリキュラムも生きものですので一度確定すれば不変であるなどということはありません。現実に適合的であるのか否か、充分に将来を見据えているのか否か、などについては鋭敏な感覚での点検が不断に必要です。カリキュラムを作成した当該学部の教員組織が慎重に検討し、カリキュラム改変が必要と判断したならば、教員組織が責任をもって改革に取り組むべきことでしょう。カリキュラムとは、これほどまでに学問・教育内在的な性格のものであることを今回改めて強調しなければなりません。だからこそ、科目名称の変更や配当年次の変更なども含めカリキュラム策定の一切は教授会の専権事項となってきたのです。「全面凍結」は、学部教員によって責任を持ってなされるべき学部教育の生命線である学部カリキュラムに看過し得ない甚大な影響を与えるものとなっています。

ここでは、「全面凍結」の対象となる「社会構造論」を具体的に取り上げて問題点を指摘したいと思います。この科目は、商学部の経済学科に設置されている科目ですので、まずは、経済学科のカリキュラム体系の概略をご説明します。経済学科の科目群は、@【基本科目】(1年次履修が基本)、A【学科基礎科目】(2年次履修が基本)、B【コース基礎科目】(3.4年次履修)、C【学科選択科目】(3,4年次履修)、というくくりで概ね年次的に積み上げて学んでいけるようになっており、@〜Cのそれぞれに具体的な科目が配置されております。

「社会構造論」は、学生が専門に入った2年次に提供されるAの【学科基礎科目】のくくりなかに配置されています。この【学科基礎科目】というくくりは、経済学科共通の基礎的な専門科目として位置づけられています。と同時にそこには、経済学科の6つのコース(理論経済学コース、政策科学コース、国際経済コース、歴史経済コース、地域社会コース、国際社会コース)のそれぞれにとって必ず履修しておくべき基礎的な科目を配しております。「社会構造論」は、コースとの対応でいいますと「地域社会コース」専攻学生の必ず履修しておくべき基幹的な科目としての性格を持っています。

わが商学部は長きにわたって「経済学や経営学のほかに法律学や社会学、そして、外国文化に関わる科目も数多く配置されており、・・・専門的に学ぶことができる」(『大学案内』)学部であることを対外的にアッピールしてきました。経済学科には当初から社会学関連科目を学ぶことを目的に入学してくる学生が常に一定数存在しています。社会学関連科目を配する「地域社会コース」を専攻する学生は4年生で見ますと毎年ほぼ70名おります。経済学科の学生定員は175名ですので、4年次の留年生を加えたとしても1学年の学生数の三分の一強となっています。

「社会構造論」は、社会学関連科目を配する「地域社会コース」においては、これを欠いてはコースの存立自体があやうくなる本質的に重要な科目として位置づけられています。『商学部履修ガイド』(YCU)においても「地域社会コース」専攻者に基幹的な科目としての「社会構造論」を履修することを指導しており、事実、「社会構造論」に対する学生の需要も高く受講生数もほぼ180名で推移しております。

商学部における社会学プロパーの教員は、現在の「社会構造論」の担当者を含め4名であり、これはほぼ70名の「地域社会コース」専攻の学生に対してゼミ担当者数としてはぎりぎり最低限の人数となっています。「社会構造論」専任教員が「凍結」となれば重大な支障が生じで参ります。

このように「社会構造論」は、学科全体の、さらには、「地域社会コース」の基幹的な科目として位置づけられています。この科目が「凍結」という事態になりますと、経済学科、および、「地域社会コース」のカリキュラム体系の根幹が揺らぐことになり、商学部教員が責任を持って構成したカリキュラムで学生を教育しえなくなります。学生が本学商学部の経済学科を志望し入学してくるにあたり、われわれが提供する理念とカリキュラムを前提としています。20単位を履修していることが卒業要件となっている【学科基礎科目】のなかの「社会構造論」が「凍結」されることの影響で卒業不可能の学生が生じた場合には社会的にも責任が問われることがありえます。

「社会構造論」の配置されている【学科基礎科目】はすべて専任教員をもって担当するようにカリキュラムが構成されております。それぞれのコースの専門教育においては、設置されている科目ごとの有機的な連携が日常的に必要であり、学部の専門教育に責任をもってきめ細かに対応できるようにとの配慮からです。非常勤での代替は不可能であり、学部としても認めがたいであろうことを申し添えておきます。さらに、先にふれましたように「地域社会コース」の専任教員はゼミナールの担当にも責任を持たなければなりませんので、非常勤での代替は一層不可能です。

全国の大学の社会学関連の学部、学科、コースにおいても、「社会構造論」は、諸個人の「行為」と「構造」の関連如何という社会学における伝統的な本質問題を問いつつ現実の社会構造を解明する基幹的な科目として位置づけられております。横浜市立大学の全学部を見渡してみましても、「社会構造論」が設置されているのは唯一商学部経済学科においてのみであり、将来いかなる再編が行われることになったとしても社会学関連科目において本質的に重要な「社会構造論」は全学的な見地からも絶対に保持されるべきであると考えます。

また、人事は相手のあることですので、割愛などを考慮しますと、12月決定がぎりぎりのところです。そこから逆算しますと、公募文書を7月の教授会で承認してもらい、ただちに公募に入らないと間に合わない状況となっています。そのことも十分ご配慮いただくようお願いいたします。

本学が重大な岐路に立っているとの先生の危機意識は、本学の教員のすべてが共有できるものと思います。全学での真剣で内発的な改革が求められていると強く思います。そのことを踏まえたうえで、今回このようなお願いを申し上げるのは、ひたすら現状を墨守したいとの趣旨では決してなく、今回、事態がこのままで進行しますと、大学人としての意思決定の原則がまげられ、この時点で大学存立の危機がむしろ内部化から進行してしまうことになりはしないかと強く危惧するからです。そして、何よりも学生の教育に責任を持つべき一員として、教員サイドからの内発的な意思ではない形で、現行カリキュラムの実施に責任がもてなくなり、かつ、教員組織のあり方にも重大な影響を与える事態を座視できないと考え、「現場」の声をお聞きいただきたいと思ったからです。今回の事態に関して「教育に著しい影響をあたえない事を配慮する」という小川先生の信念にのっとって、そして、学問と教育のもつ固有の論理の延長上で事態を打開していただけるものと確信しております。

ご多用中に長い書簡をお送りして、貴重なお時間をいただき失礼いたしました。ご返信はご無用です.