商学部教員各位
7月4日の商学部教授会で「社会構造論」の後任人事の必要性についての説明文を作るように依頼されていました。以下のような文章を作成し、提出しましたのでご報告いたします。
ご参照ください。
2002年7月9日 商学部社会学関連教員
小川惠一学長殿
2002年7月5日の商学部教授会では、「社会構造論」担当教員の公募要項が承認された。教授会では、「社会構造論」は商学部の現行の教育体系上本質的に不可欠の科目であり、これを「凍結」することは、教育体系上の重大な障害をもたらすものとなることが一致して認識された。教授会としてのその意思を具体的に明確に示すために、そのことの説明文を作成することを教授会は社会学関連教員に付託した。以下、商学部教授会の付託に基づき、「社会構造論」が「凍結」された場合、そのことに連動してさらに幾つかの重要な科目も「凍結」されることになるが、その場合の問題点を指摘する。
商学部経済学科の卒業者には、学士(経済学)、学士(社会学)の学位が授与され(学則第32条)、また、経済学研究科博士前期課程を修了したものには、修士(経済学)又は修士(社会学)の学位が授与されている(大学院学則第10条の1)。商学部では学則上、学位に関わる分野として社会学が位置づけられている。したがって、事態は、大学が対外的に責任を持つべき学位授与にも連接する重大問題である。カリキュラム上、「社会構造論」はまさにこの社会学関連領域における基幹科目として位置づけられている。
この「社会構造論」は、商学部の経済学科に設置されている科目である。そこでまずは、経済学科のカリキュラム体系の概略を述べる。経済学科の科目群は、@【基本科目】(1年次履修が基本)、A【学科基礎科目】(2年次履修が基本)、B【コース基礎科目】(3.4年次履修)、C【学科選択科目】(3,4年次履修)、という括りで概ね年次的に積み上げて学んでいけるようになっており、@〜Cのそれぞれに具体的な科目が複数科目づつ配置されている。
「社会構造論」は、学生が専門に入った2年次に提供されるAの【学科基礎科目】の括りのなかに配置されている。この【学科基礎科目】という括りは、経済学科共通の基礎的な専門科目として位置づけられている。【学科基礎科目】には、経済学科の6つのコース(理論経済学コース、政策科学コース、国際経済コース、歴史経済コース、地域社会コース、国際社会コース)の専攻者が必ず履修しておくことが望ましい基礎的な科目を配している。「社会構造論」は、コースとの対応では、「地域社会コース」専攻者が必ず履修しておくべき基幹的な科目としての性格を持っている。
わが商学部は長きにわたって「経済学や経営学のほかに法律学や社会学、そして、外国文化に関わる科目も数多く配置されており、・・・専門的に学ぶことができる」(『大学案内』)学部であることを対外的にアッピールしてきた。経済学科には当初から社会学関連科目を学ぶことを目的に入学してくる学生が常に一定数存在する。社会学関連科目を配する「地域社会コース」を専攻する学生の数は平均すると毎年ほぼ50名以上で推移している。無論、大学院では修士(社会学)の学位取得を明確な目標に大学院生は進学してくる。
社会学関連科目を配する「地域社会コース」において「社会構造論」は、これを欠いては「地域社会コース」の存立それ自体が危うくなる本質的に重要な科目として位置づけられている。『商学部履修ガイド』(YCU)においても「地域社会コース」専攻者に対し基幹的な科目としての「社会構造論」を履修することを指導しており、事実、「社会構造論」に対する学生の需要も高く、受講者数もほぼ180名で推移している。
商学部における社会学プロパーの教員は、現在の「社会構造論」の担当者を含め4名であり、これは「地域社会コース」専攻の学生に対してゼミ担当者数としてはぎりぎり最低限の人数となっている。「社会構造論」専任教員が「凍結」となればこの点でも極めて重大な支障が生じてくる。
このように「社会構造論」は、学科全体の、さらには、「地域社会コース」の基幹的な科目として位置づけられている。この科目が「凍結」という事態になると、経済学科、および、「地域社会コース」のカリキュラム体系の根幹が揺らぐことになり、商学部教員が責任を持って自ら構成したカリキュラムで学生を教育しえなくなる。学生が本学商学部の経済学科を志望し入学してくる際、『横浜市立大学学生募集要項』や『大学案内』などによって公式にわれわれが提供する理念とカリキュラムを確認し、その上で意思決定している。20単位を履修していることが卒業要件となっている【学科基礎科目】のなかの「社会構造論」が「凍結」されることの影響で卒業不可能の学生が生じた場合には社会的にも責任が問われることがありうるであろう。さらにまた、従来のカリキュラムを提示した来年度用の『横浜市立大学学生募集要項』や『大学案内』もすでに公表済みであり、われわれはこの公表されているカリキュラムを厳密に遂行する義務がある。
「社会構造論」の配置されている【学科基礎科目】はすべて専任教員をもって担当するようにカリキュラムが構成されている。これは、専門教育においては、設置されている科目相互の有機的な連携が日常的に必要であり、学部の専門教育に責任をもってきめ細かに対応できるようにとの配慮からである。非常勤講師での代替は不可能である。さらに、先にふれたように「地域社会コース」の専任教員はゼミナールの担当にも責任を持たなければならないので、非常勤講師での代替は一層不可能である。現在の「社会構造論」担当者は、経済学科の【コース基礎科目】のひとつである「社会学特論T(生活意識の社会学)」、および、演習をも担当しており、「社会構造論」の「凍結」はこれらの科目の「凍結」に連動する。これらの科目が「凍結」されることになると「地域社会コース」専攻の学生に著しい不利益が生じることになる。
また、現在の「社会構造論」担当者は、大学院において「社会変動論研究」、「生活の社会学的研究」、「社会変動論演習1」、「社会変動論演習2」を担当しており、「社会構造論」を「凍結」するならばこれらの大学院科目をも「凍結」することに連動し、大学院教育にも著しい障害となる。とりわけ、修士(社会学)の学位取得を目指す大学院生にとって極めて大きな不利益となる。本研究科ではこれまで修士(社会学)を取得し、その後、他の大学の博士後期課程に進学し、大学に職を得て研究者として活躍している有意な人物を輩出し続けており、その歴史的伝統を維持しがたくなる。
「地域社会コース」は変動ただならない「都市と地域」の問題に焦点を当てて学び・研究することを中心的な課題として設定している。これまでも、横浜市や神奈川県を主たる対象として、エスニシティ、都市と女性、留学生の意識と生活、京浜社会の研究、「神奈川都民」の生活と意識、等々に焦点を当てて研究を進めてきている。横浜市立大学が地域貢献をも視野に入れつつ今後急速に改革に着手する必要に迫られている現在、結果としていかなる方向での改革を選択することになったとしても、その際には、「地域社会コース」の基幹科目である「社会構造論」は不可欠な科目のひとつとなるであろう。
全国の大学の社会学関連の学部、学科、コースにおいても、「社会構造論」は、諸個人の「行為」と「構造」の関連如何という社会学における伝統的な本質問題を問いつつ、現実の社会構造を解明する基幹的な科目として位置づけられている。横浜市立大学の全学部を見渡しても、「社会構造論」が設置されているのは唯一商学部経済学科においてのみであり、将来いかなる全学的再編が行われることになったとしても社会学関連科目において本質的に重要な「社会構造論」は全学的な見地からも必ずや保持されるべきであると考える。
勿論、今回の教授会の判断は、ひたすらに現状を墨守するとの姿勢から選択されたのではない。しかし、「社会構造論」およびそれに連動して少なからぬ重要な科目が「凍結」されることは、学則において「社会学」の学位を授与している本学の教育の根幹を揺るがす事態になると考えるからである。「社会構造論」の「凍結」を回避することは、今回の事態に関して「教育に著しい影響を与えないことを配慮する」という学長の信念に最も即することになるであろう。
2002年7月9日 商学部社会学関連教員