経済史A講義メモ
社会的分業の発達史と商品・貨幣の発達史−それらを前提とした前期的資本−
No.9 File kogikeizaishi702
最終更新日:2002年5月15日(水)
未開時代から文明時代への移行・氏族制度解体の一般的経済的諸条件[1]
1.分業・交換の発生・規則化・恒常化[2]と商品・貨幣の発生・発展、
2.生産物・生産手段の私的所有の発生・発展・・・氏族制度の基礎的前提の解体
氏族は、野蛮時代の中段階に発生→野蛮時代の上段階に発展→未開時代の下段階に全盛期
部族はいくつかの、たいていは2つの氏族にわかれていた(・・・本源的氏族)。
→ 人口の増加
→ それぞれの氏族がいくつかの娘氏族に分裂。
母氏族は、娘氏族に対しては、胞族として現れる。
部族自体もいくつかの部族に分裂し、その諸部族のそれぞれの中に、おおかた古い諸氏族がふたたびみいだされる。
貨幣は、規則的・恒常的・大量的な交換の必要が発生してくるとともに、規則的・恒常的・普遍的な交換の用具として、ある特定の商品が選ばれることから発生
・・・このことに関して、アダム・スミス『国富論』に面白い叙述がある[3]。
[1] 以下、今回のメモは主として、モルガンに依拠したエンゲルス『起源』第9章 未開時代と文明時代、より抜粋したものである。受講者各人は、みずからの正確な理解のためには本書(邦訳は何種類もあるが,新しいもの程よい)に直接あたって確認して欲しい。
[2] これは歴史において地域と時代の段階ごとにますます広がり進化する。分業と交換・交流は人間・人類の経験の蓄積、科学技術・知的能力、人間諸個人の総体的な諸能力の深化拡大をもたらし、またそれによってますます進化・発展する。その意味で歴史貫通的要素。現代の人間・人類に求められているのは,地球規模での生産力・科学技術などの合理的発展と合理的制御。レスター・ブラウンなどの奮闘も象徴的だが、そのためには、アインシュタイン,湯川秀樹などが提唱した世界政府,世界議会の理念の現実化と前進が求められることになろう。世界で多発する諸事件,世界規模での軍事問題・平和問題などとその解決の多次元的な世界的努力を通覧すると、現代はまさにその生みの苦しみの時代のように感じられる。現代の課題にわれわれ一人一人がどこまで対処する能力を身につけているのか悲観論も渦巻くが、人類が、宇宙的規模での必然性によって地球崩壊(生物の存在の不可能な状態に残り4億年とか?)するまでは生き延びようとするなら、それを達成していくしかない。
地球自体は、太陽の寿命によって規定され、後46億―50億年ほど存続するというが、その地球上での生物の存続可能性は、それより短いことは確実である。
「核融合反応により、太陽の中心部の水素がほとんどヘリウムに変わるには、まだ50億年くらいかかる。その後、太陽は膨らみ始め、赤色巨星となり、やがては地球を飲み込む大きさに膨れ上がる。」(『地球と宇宙の小事典』家正則・木村龍治・杉村新・三輪主彦著、岩波書店、岩波ジュニア新書348、145ページ)つまりは、地球崩壊・消滅である。
[3] 水田洋監訳、岩波文庫、1、第四章 貨幣の起源と使用について、p.52参照。
[4] 物々交換からはじまってどのように商品交換関係が発展し、それに対応してどのように価値が表現されるか、商品と貨幣との相互関係に関して、また、貨幣商品としてなぜ菌が選び出されるかについては、上述のスミスの『国富論』を、さらに厳密な理解のためには『資本論』第1巻第1章を熟読する必要がある。金や銀がもっとも普遍的な適合的な貨幣商品として、世界史的にしだいに選び出されていった。交換価値の細分可能性、価値の保存可能性、価値の不変性、携帯・移動・輸送の可能性、価値の蓄積可能性など貨幣に求められる本質的性質が、総合的に貴金属、とりわけ金においてもっとも優れていることなどを認識する必要がある。
[5] スミス、前掲書、pp.53―54.
[6] 同上、p.54.
[7] 同上、p.55.
[8] 現代日本国家の巨額の負債を見て、海外の信用ランクづけ機関が日本国債をこれまでより低く評価したのは、経済原理そのもの。日銀が政府の圧力に屈して、銀行券を流通が必要とするより大量に発行し始めたら、インフレとなる。
最近の報道によれば、経済不況脱出策として、「インフレ目標」などというものが議論になっている。通貨大量発行によりインフレを引き起こし、それによって景気を回復しようという「思いつき」のようである。はたして,根本的な需要創出にとりくまないで、あるいは生産拡大の必要性の創出をおこなわないで、通貨操作で景気は回復するか?
[9] 1558年,イギリス王室財務官グレシャムがヘンリー8世以降の悪鋳を「悪貨は良貨を駆逐する」といった。悪貨,品位の低い鋳貨を作り出したのはまさに王室だった。市場原理は遅かれ早かれ悪貨を見ぬく。看板が同じでも中身のいいものを選ぶのは経済原理・経済的法則性。「天網恢恢疎にして漏らさず」とは大局において悪人・悪事は天の網に引っかかるということだが、粗悪なものは結局は見分けられ駆逐されるということで共通の法則性があるともいえよう。鋳貨における品位、商品における品質・価格、人間においては? たとえば、交際相手を選ぶ原理は?グレシャムの法則は,その一般的妥当性を考えると含蓄が深い。肩書き、タイトル、表面のラベルと内実との乖離! それは、市場によって、競争を通じて不断に検証されている。
インターネット社会は、消費者、生産諸主体の情報量を飛躍的に増加させ、商品・サービルの価値を比較考量する者に対して、真実の価値を教える機会を飛躍的に増やした。消費者主権のための条件を活かすのは、諸個人の自覚・認識力・識別力である。世界の諸市場の分断はインターネット情報によって突き破られ、いわば世界的な一物一価の貫徹をこれまで以上に可能にしたといえよう。閉鎖的な地域的な市場に視野を限定するものは、世界の提供する有利な価値を享受しないことになろう。視野の世界性、精神の世界性がますます求められ、またIT革命の成功の程度にしたがって形成され、養成されていくということだろう。
[10] 『資本論』第1巻、第3章 貨幣または商品流通、c.鋳貨,価値章標 の節より。
[11] P.サミュエルソン著都留重人訳『経済学(原書代13版)』上、1992年(第5刷、2000年)、220−221ページ。
[12] ファミリーレストラン、外食産業などの隆盛、クリーニング業の隆盛、家内掃除産業の広がりなどなどによって,ますます女子の私的家事労働の範囲と量が限定されてきている。
[13] 今日の科学技術の発達にもとづく企業体制は,ますますその可能性を創出している。
[14] ヘイスティングズの会戦は、1066年に,イングランドに侵入したノルマンディー公ギョーム(ウィリアム)の軍隊と,ハロルド王の率いるアングロ・サクソン人との間に起こった。群生のなかに氏族社会の残滓を保持し,原始的な武器をもっていたアングロ・サクソン人は殲滅的敗北を受けた。会戦で殺されたハロルド王に代わって、ギョームが―制服王ウィリアム1世を名乗って―イングランドの王になった。
[15] 古代アテナイの最盛期の全自由民は、女、こどもを含めて九万人。それとならんで、36万5000人のどれいと、4万5〇〇〇人の居留民(他国人と解放奴隷)。大人の男子市民一人当りすくなくとも18人の奴隷と二人以上の居留民がいた。奴隷の数がこんなに多かったのは、その多数のものが、工房で、広い室内で、監督者のもとで集まって働いていたことによる。コリントスでは同市の全盛期に奴隷の数は46万人、アイギナでは47万人。どちらの場合も自由市民の人口の一〇倍以上であった。
[16] 世襲王権も時代の産物であり、世界的に見れば消滅の運命にある。現代世界になお存続している王権もしだいに象徴化し、かつてのような実質的権力を喪失し、形式化・装飾化している。諸国民がその存続を承認している限りで継続しうる性質のものである。君主制存廃問題の基礎にあるのは、諸国民のそれぞれの国における社会的政治的成熟の度合いであり、民主主義の安定的成熟度、それを可能にする国内的国際的条件である。君主制の支配的な時代から共和制の支配的な時代への移行が世界史的に見て進行していることは、その背後にある経済的政治的発展の必然性を反映しているものといえよう。
[17] 大塚久雄『共同体の基礎理論』の第三章の「古典古代的形態」の部分などをあわせて参照。