経済史講義メモ
世界市場の成立と産業革命の前提諸条件[1]
No.16 File kogikeizaishi1119
最終更新日:2002年11月29日(金)
イギリス・・・徹底した重商主義の政策体系で、国民経済の総体的な力量(とりわけ工業生産力)の優越を実現・・・オランダ没落の後半世紀以上にわたって繰り広げられたフランスとの重商主義戦争・英仏植民地戦争の時代を勝ち抜いた。
イギリス・・・海洋植民地帝国へと躍進
北米とインドで植民地を拡大
イギリスが中心となって環大西洋とインドとをつなぐ世界市場を編成していく。
17世紀にはやくも輸出品の約8割が手工業製品・・・・工業国型貿易構造
その輸出品の圧倒的部分は、毛織物
輸出市場も圧倒的にヨーロッパ(8‐9割)
海洋植民地帝国の地位を確立した18世紀後半・・・輸出の品目構成で毛織物の比重が激減。
釘など金物類、毛織物以外の織物など他の手工業製品の輸出が大きく伸びた・・・重商主義時代における工業(生産)の多様な展開・成長が背後にあった。
輸出市場では、新大陸の伸びが著しい。また、アジアにも多様な工業製品の販路が開けた。・・・市場の多様な展開・成長
輸入の変化もダイナミック
ヨーロッパからの輸入割合の低下傾向・・17世紀前半、9割以上
世紀の要・・・6割
18世紀後半には、それが4割。
輸入品目構成・・・製品・食品・原料の3者拮抗
→→新大陸プランテーション産の砂糖、タバコなどの食品割合の増加
18世紀にはさらに新大陸のコーヒーとアジアの茶の輸入割合増加、
逆に綿布、絹、亜麻布は激減。
つまり、輸入構成における工業国型の性格の一層の強化
輸出入における世界市場関連・・・農工分業にもとづく世界市場の深化・拡大
イギリスにおいて新しい奢侈品食品が社会の中下層まで浸透、消費生活の向上。
産業革命・・・イギリス内部における諸条件の成熟[2]
@ 毛織物を中心とする繊維工業が農村工業として展開
A 多数の工業村落の形成、その中核部分が新興工業都市(マンチェスター、バーミンガム)へ・・・それは旧来の政治的宗教的都市と違い、自由な商工業に従事する人口で膨れ上がる経済都市、経済活動の拠点、都市と農村の分業関係を深化、拡大
B 18世紀に交通関係のインフラストラクチャーの整備が進展し、統一的な国内市場の形成・・・・陸路では有料道路、橋の建設、水路では港湾・河川の整備拡張、運河建設・・水路と陸路による主要工業中心地の連結
C
18世紀のイギリス・・・ヨーロッパでもっとも高い生活水準、大衆購買力・・・「1750年頃のイングランドの一人当り平均所得は12‐13ポンドと推定され、1960年初頭の貨幣価値に換算すると約100ポンドとみなされている。後の数字は、同時期のブラジル95ポンド、メキシコ105ポンドとほぼ同じ水準なのだが、この両国が当時NIEsへと飛躍するテイク・オフにまさにさしかかっていたことが、200年前のイギリスの事情にみごとに符合する」と[3]。
18世紀中葉のイギリスの賃金はフランスの約2倍。この購買力をもとに、植民地からの輸入食品に加えて、白パン・肉・革靴・毛織物などの消費が普及し、拡大していった。
D 17世紀後半からの農業革命との相互関連・・・農業生産力の急速な上昇→農業就業人口の急速な減少[4]
カブ、クローバーなど飼料作物の導入をてことした三圃制から輪作への移行
土壌の肥沃化という農業技術面での改良
囲い込みの進展、開放耕地制の消滅
[1] 長岡新吉/太田和宏/宮本健介編著『世界経済史入門‐欧米とアジア‐』ミネルヴァ書房、1992年。
[2] 古典的名著ポール・マントゥ著徳増栄太郎・井上幸治・遠藤輝明訳『産業革命』東洋経済、1964年。産業革命とはたんなる生産技術の革命ではなく、社会的な革命であること、人間の生産と生活の場と様式が根本的に変化することを豊富な事例で示した総合的視野にたった研究。産業の発展はそれをになう人間たちの総合的発展と密接に関連することは、現代日本、現代世界を考える上でも熟慮すべきこと。
序説の五・・・「産業革命は偶発事件ではない」
第一編 先行条件、
第一章 旧工業とその発展、
第二章 商業の飛躍的発展、
第三章 土地所有の再編成、開放耕地制度=土地の零細分割=農業改良の阻害→開放耕地制度の再編成→囲い込み→農村民の都市への移住
第二編 大発明と大工業
第一章 繊維工業における機械使用の端緒
第二章 工場
第三章 鉄と石炭
第四章 蒸気機関
第三編 直接的な諸結果
第一章 工場制大工業と人口
第二章 産業資本主義
第三章 産業革命と労働者階級
第四章 保護干渉と自由放任
結論 産業革命の一般的性格
[3] 長岡他、前掲書、43ページ。
[4] 1960年代以降の日本における高度成長→農村人口の急速な減少・・・前期の就業構造変化に関する統計を想起せよ。