卒業研究について

◆卒業論文をどのように書けばよいか?
卒業論文は、学問的に問題を分析し、それをまとめたものである。
マニュアルでもなければ、解説書でもない。
一般的には学術論文に少なくとも以下の四つの要素が含まれるべきである。

1)問題提起と研究意義

自分が卒論研究で解決したいないし解明したい問題は何か?
なぜ、その問題を取り上げるか?
この問題はどのような位置づけになっているか?
取り上げるテーマは、議論の余地が残されていること、
そして研究すれば新しい成果が期待できることなどが必要条件である。

論文テーマを最初に考えるとき、非常に大きい問題あるいは
抽象的な問題を選ぶ傾向がある。
例えば、「これから景気変動はどうなるのか」、
「どうすれば財政赤字を減らすことができるか」、
「不良債権をどうすればなくせるのか」。
これらは、それぞれ最重要級の問題であるが、
多くの場合このようなテーマ設定では、
論文が書きにくい(例外は否定しないが)。
重要で難しい問題をテーマにすればよいというわけにはいかない。
人間社会では、わかっている部分よりわからない部分のほうがはるかに多い。
わからない部分をいくら繰り返してもわからない。
問題はどうすれば、わかった部分を拡大するかである。

したがって取り上げた問題が大きくて重要であれば、
よいテーマになるわけではない。
新しい分析成果が期待できないものについては、
論文テーマとして問題設定すべきではない。


この考え方は必ずしも経済学の分野においてだけ大事にされているわけではない。
アインシュタインのこの 文章 はなかなか意味が深い。
Any intelligent fool can make things bigger,
more complex, and more violent.
It takes a touch of genius -- and a lot of courage --
to move in the opposite direction.
(Albert Einstein(1879-1955))

また、論文スタイルにもよるが、通常一つの論文に中心課題は一つあればよい。
問題を多く取り上げればよいというわけではない。
もちろん、研究テーマの確定は、先行研究をある程度点検してからはじめてできるものであろう。

2)先行研究の点検

自分の取り上げた問題について学問的にどのような分析がされてきたか?
すでに解明されて問題と未解決の問題の把握。
自分の作業を始める前に、一つの目安として、先行文献から、
自分のテーマに最も近い論文を5点ぐらい選び、 その研究内容を理解して要約する(批判も含めて)。
関連研究がゼロのテーマは99%の場合、テーマの修正が必要。
1%の可能性より99%の部分を大事にしてもらいたい。

3)問題解決

理論的論文なら、前提条件の吟味・証明の展開、
実証的論文なら、仮説の検討、データ収集・解析、推計方法と結果
などはこの部分で示すべきである。
論文の中心部分であり、作業としても一番時間がかかる部分であろう。

(4)まとめ

分析によって得た結論はどのような含意を持つのかを議論する。
また、どんな論文でも「完璧」な結論はありえない。
結論の留保条件は何か、未解決の問題に何が残っているかを指摘する。

◆決して些細なことではない。

(1)、参考文献

参考文献を軽視する人が多い。何度も再提出させても、
依然として参考文献の出所や出版年を書かないケースはよく見る。
実は、学術論文において参考文献リストは非常に大事な情報である。
論文は、客観的議論を通じて結論をまとめたものであるから、
常に、読者に議論の再現に必要な情報を与えなければならない。
極端に言えば、論文を見るとき、参考文献の挙げ方だけみて
価値のある議論かどうか、判断できる。
著者、出版時、タイトル、出所などの情報を含めた参考文献リストをきちんと作ろう。

(2)、他人研究の紹介

先行研究を紹介するとき、自分の口調で紹介すべきである。
他人の表現をそのまま引用するとき、引用符をつけて紹介する。
直接引用は必要最小限程度にとどめておいた方がよい。
また、他人の論文を紹介するとき、自分なりの評価やコメントが
なければ、ほとんど紹介する意味がない。