ヒトラー『続・わが闘争』、
     あるいは『第二の書



南チロルの帰属をめぐる論争を契機として、領土問題に関する基本的原則(広大な生存圏獲得)を、『わが闘争』を補足するものとして、まとめたもの。
 イタリ・ファシズムとは同盟可能であり、同盟のためには南チロルと帰属という部分的問題では、ムッソリーニに譲歩していいのだ、という見地。




アメリカ占領軍が押収したヒトラー口述筆記(1928年)原稿・・・・非公刊・・・戦後、発見され、1961年に公刊された。

非公刊であり、書物として人々の目に触れたわけではないので、大衆動員、大衆扇動、選挙戦などにおいて、この文書がそのものとして活用されたわけではない。

 しかしもちろん、ヒトラーの全体像を知る上では、とくに、政権掌握後直ちに実施した再軍備政策
それにつづく四カ年計画・戦争準備政策、そして実際の侵略戦争発動などに関しては、どのような思考経路であるのかを理解させる貴重な文献であることは言うまでもない。


 



基本的な発想・世界観・政治戦略は、公刊された『わが闘争』と同じ

本書では、力点が外交政策に置かれている。食糧確保のための生存圏の獲得そのための領土拡大は、一貫して流れる目標となっている。


その基本目標(東方大帝国建設・世界強国の建設)のために必要な手段として、軍事力の増強などを全体政策に組み込んでいる。

露骨に、平和主義を否定、嘲笑し、武力による領土拡大を、繰り返し述べている。


ただし、くりかえすが、
ヒトラーの基本的発想は、公刊され、大量に国民の中に浸透した『わが闘争』、そして、そのときどきの演説などをみれば、十分に確認できる。

ヒトラーは、公刊の『わが闘争』において、堂々と彼のものの考え方を述べ、戦略を述べている。
 (平和主義、国際主義、国際協調主義などを嘲笑・・・結局は、武力で決着をつける必要があるのだ、と)


ヒトラー権力掌握・独裁体制構築・戦争への道を可能にした重要な要因は、
むしろ、ドイツ国内内の、また、世界のおおくのひとびとが、『わが闘争』をきちんと読まず、
きちんと検討しなかったことにある、というべきではないか。


 
失業者・生活困窮者、破産した中小企業の人々、エリート青年など、それまで中間諸政党や保守政党に投票していた人々が、ヒトラー率いるより強力な政党としてのナチ党に、経済危機打開の希望を託した。

 
しかし、ヒトラーは「経済危機打開」を軍事力増強・武力を背景とした世界強国建設とむすびつけてしか構想していなかった。それを示すのが、『わが闘争』であり、この『第二の書』である。


----ヒトラー『第二の書』--------- 


1961年、ワインバーグにより、ドイツ語の『第二の書』が出版された。
それが、2003年に英訳として出版された。

オリジナル原稿を翻訳しつつ、これらを利用した邦訳が、つぎの角川文庫版(2004年)である。

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訳者序













序文

 南チロル問題で、イタリアを攻撃し、イタリアとの関係をこじらせる諸政党(「市民的な国民政党」)への批判。

 ヒトラー・ナチ党は、「
われわれの民族全体の隆盛」、「われわれの民族の再隆盛」、「ドイツ再生の希望」、「祖国とドイツ民族」の見地から物事を見るべきだとし、

 その観点から、イタリアのムッソリーニとの同盟・連携を重視し、南チロル問題て、イタリアとの対立に陥ることはナンセンスと主張








第一章 生存闘争と平和的経済戦争

「政治の持つ最高課題が、民族の生存を維持し、継承すること」

「政治の課題とは、血と肉からなる実体を維持すること」

「うまくいかない平和政策というものは、即座に民族の滅亡、つまり血と肉から成る実体の消滅につながるし、これでは不幸な結末に終わった戦争がもたらした結果と比べて何の変わりもありはしない。」

「戦争によって直接もたらされる損失は、ある民族が程度の低い不健康な生活を送ることによってもたらされる損失自体と比べたら、割合の小さいものである。」

武力による戦争政策の正当性・必然性を主張
「平和的経済戦争」の危険性。





第二章 生存圏確保の理由とその政策

「人間が民族の将来を確実に推測できるのは、唯一この人口増加によってのみなのだ。」

「人口増加は、生存圏の増大すなわち生存圏の拡大によってのみ解決される」





民族の全生存闘争とは、増加しつつある人口に対し、その一般的食糧確保への前提条件であるそれに必要なだけの土地を確保することについてのみ成立する」

そのためには
「闘争を行う決意と、血を投入することを必要とする。」
「戦争は民族に大地を与えてきたのである。」


土地を獲得することは、
「神聖なる権利」(武力による領土拡大の正当化・神聖化)





「大地のどんな小区画といえども、ある土地がある民族専用の居住地として永久的に定められているという例は今までにないのである。何しろ何万年にもわたって自然の摂理は、人類を永遠の放浪、移動へと追い立てていたのであるからだ。」


「今日の世界的規模での領土配分は、偏ったやり方・・・・」


力のある民族は、この権利を拡大して、その領土を人口にあわせて拡大するための方法を見つけようとする・・・」





「六千人のスパルタ人たちが35万人もの奴隷を支配していた」
  ・・・・ヒトラーの模範としてのスパルタ

  =
ドイツ民族によるポーランド人などスラヴ人種諸民族の奴隷化を正当化する論理



病気を患っていたり、虚弱体質であったり、障害があったりした子供を破棄すなわち処理てしまっていたわけだが、この手法は現在われわれが抱いているどうしようもない妄想に比べると、実際のところ、何千倍もヒューマンであるといえるのだ。」
   
 (後の、1939年9月開戦以降の、精神障碍者等の
    ドイツ人の
「安楽死」抹殺の正当化論理





国外移住、否定
産児制限、否定

国内増産は、問題を解決しない・・・

国内植民では、「人口と領土の不均衡はいつまでも存在し続ける・・・」
(44ページ)

「内地植民という考え方は、特に人間が考え出したこじつけの効果を狙って出てきた誤った推論に起因する。

内地植民によって農産物の増大が、根本的に可能に成るなどと考えているのは、まったくの誤り
なのだ。」(45ページ) 
        ・・・つまり、
領土拡張(生存圏獲得)を主張

経済力は問題を解決しない・・・・
「今日の世界における販売市場には限りがある。・・・・」

アメリカ合衆国や
日本の台頭(市場拡大・世界市場をめぐる競争)も、領土拡張の必要性を裏付ける。






「最後の武器はやはりここでも武力・・・・」





武力で領土獲得
  「民族が必要とするのは武器
 「領土獲得は常に、
武力をこれに投入することによって達成される」


   「政治とは、ある民族が生存闘争を実行していく上での技術である。」








第三章 民族の価値と平和主義的民主主義



ヴェルサイユ条約によって、「軍隊と兵器が失われてしまった」
しかし、「
兵器と軍隊組織とはそもそも破壊されうるものであり、また取り替えのきくものなのだ。今のところは確かに兵器と軍隊の意義は非常に大きいものであると思われているが、長期的視野から見れば、その意義とて非常に狭く限られたものに過ぎない。」







剥奪された兵器や、壊された組織形態を新たに作り出したり、編成しなおしたりすることほど、簡単に取り返しのきくことはないのである。
取り返しがきかないのは、民族の血が腐敗してしまうこと、内的価値が滅びさってしまうことなのである。」






第四章 ドイツ外交政策の批判と具体的提案

国内政策の課題・・・・「民族統一体を鍛錬し強化すること」
外交政策の課題・・・・「健全な外交政策とは、民族の食糧確保に必要となる基本条件を入手することを、常に確固たる最終目標としてとらえるものでなければならない。






「民族の生存」
「食糧基盤の確保」




第五章 国民社会主義ドイツ労働者党の国内・外交政策

民族性を信奉する者」、
「私が考え、行動することはすべて、この民族性の一部なのである。」

 ヒトラーのいう社会主義とはなにか?
 民族主義と同義でしかないことが次ぎの言葉から分かる。

民族共同体(=社会に階級があることを否定):
「私はまた社会主義者である。私には階級も地位も関係ない。私の目に入るのは、血で結ばれ、言語を同じくし、同じ普遍的運命の手に委ねられている人間たちがつくるあの共同体の姿なのだ。私はこの民族を愛している。が、その時そのときの多数派だけは憎んでいるのだ。私は多数派の中にわが民族の崇高さの代表者も、降服の代表者もほとんど認めないからである。」



生存に必要な領土を求めて闘争している」

ナチ運動は、「
ドイツ民族が生存していくのに必要な領土を確保する必要性に鑑みて、決定を行っているのだ。

「民族の拡張」





第五章 ドイツ統一と領土不足問題


生存不可能な大地の上に住んでいる民族は原則的に言って、少なくとも健全な営みをしている限り、その大地、すなわち生存圏を拡張しようと常に努力するものである。」

「領土拡大行為は、人間が発展していく過程において、英雄的行為にまで高められた・・・・」




「生存を民族の人口増加にあわせて拡張しようという試みから、後には動機なき侵略戦争が、すなわち動機なきゆえに後々反撃を受ける可能性を秘めた侵略戦争が起こるようになった・・・」

ヒトラーは、 「生存圏を民族の人口増加にあわせて拡張しようという」動機ある侵略戦争を肯定。




第十七章 ユダヤ人との闘争


第一次世界大戦・・「強力な世界連合」との戦い・・・・「巨大な戦争プロパガンダ」




「ユダヤ人は宗教共同体ではない」
「ユダヤ人相互の宗教的な結びつきが実際はユダヤ
民族のそのときの国家構造である。」
「ユダヤ人の
宗教共同体は実際上の国家である。」

「ユダヤ民族は独自で生産する能力を欠いているので、空間的に理解されている種類の国家形成を実現できない。」

「ユダヤ人の生存闘争の最終目的は、生産的活動を行っている諸民族を奴隷とするところにある。」





ユダヤ人の世界闘争はそれゆえに常に血なまぐさいボルシェヴィズム化で終わるであろう。すなわち、内実は、民族と結びついている当該民族独自の精神的指導層の破壊である。それにより、指導者をなくした人間たちの支配者にユダヤ人自身が上ることができるのである。」

「ユダヤ人は
民族の寄生虫であり、彼らの勝利が意味しているのはその犠牲民族の死滅であり、彼ら自身の終焉であるからだ。」

「ユダヤ人は、市民的な精神支配を破壊する潜在力を新興の肉体労働者の第四階級に見出すのである。」

マルクシズムがボルシェヴィズム革命の精神的父親となる。それがテロの武器である。ユダヤ人はその武器をいまや情け容赦なく冷酷に使用している。






「ユダヤ人は世界大戦を仕掛け、(ヨーロッパ諸民族の)緊張を自分に有利に利用しつくしているのである。」

 「これらのユダヤ人の闘争目標は部分的には少なくとも余すところなく達成された。ツァーリズムとドイツの皇帝制度は打ち倒された。
ボルシェヴィズム革命の支援を得て、非人間的な迫害と殺戮によってロシアの上層階級およびロシアの国民的知識階級は殺され、余すところなく根絶された。」



ヒトラー・ナチ党以外の諸政党は、多かれ少なかれユダヤ人の武器であり、ユダヤ人のために働いている、という主張。


「いわゆる国民的愛国同盟という市民的国民諸政党はユダヤ人のそのような試みと行動を支持し隠蔽しており、他方では、マルクシズム民主主義、いわゆるキリスト教中央党は攻撃的戦闘部隊としての役割を果たしている。





ユダヤの利益によって決定されている現在のドイツ」







第八章 ドイツの再生と誤てる中立主義



「ドイツ民族の展望は絶望的である。今日の生存圏にしても、1914年の国境を回復して得られる生存圏にしても、アメリカ民族に匹敵する生活をわれわれに許すものではない。」






武力、剣の力
「生産力を向上させ、生産力を安売りしてわが民族の食糧をふたたび確保し守り抜こうとしても、それは最終的にうまくいかない。剣の力が不足しているので、この戦いの最終結果を引き受けることができないからである。最後に残されるのは、ドイツの民族自給の崩壊、民族自給というすべての希望の破滅である。」



アメリカの自動車産業の発展・・・アメリカ国内市場の広大さ・・・・「国内市場が豊かで大きいので、生産指数と生産設備の拡大が可能であり、高い給与を払っているにもかかわらず無理と思えるほどにまで製品のコストを低減させているのである。」

「アメリカには大きな国内販売力、自動車産業を支える豊かな原料と購買力があり・・・・・・」




世界の全般的モータリゼーション、・・・これは計り知れないほどの将来的な意味をもっている」
「アメリカ合衆国にとっては、今日の自動車産業はすべての産業そのものの頂点にある。
他の多くの分野でも、あの大陸は今まで以上に攻撃的形式での経済要因として現われるであろう。」




戦争と移住によってとめどなく計り知れないその最良の血を失ってしまった古いヨーロッパにアメリカが、いまや人種的に選ばれた若い民族として対立しているのである。」(171−172ページ)












--------------------------1962年の英訳からの翻訳-------------------------

(2004年6月、成甲書房)




目次


「歴史は民族の生存闘争の物語・・・」
領土征服は民族の安全保障と健全政策のため
「移民は最良の構成要素を犠牲にする」






「ドイツ植民政策の大失敗が対英戦争につながった」(自分が目指すは、東方大帝国、ソ連とその周辺国家の地域の征服)
「ドイツ拡張に適した地はロシアだ・・・」

1914年の「国境回復の欺瞞性・・・」
 「ソヴィエト・ロシアの目標はドイツの共産化」
 「ユダヤはロシア民族主義を破壊した」




イギリスを同盟国に。
「有望な同盟国としてのイタリア」


「第一次大戦におけるドイツの災厄はユダヤの仕業である」