10月21日発表(T.S.)
EUとサッカー
テーマ選択動機
欧州サッカー界においてもEU統合の波が押し寄せている。単にサッカーと思われるかもしれないが、欧州の人々にとってサッカーは国技という言葉では言い表せないものがある。サッカーのスタイル自体アイデンテティーの象徴である。しかし、昔は欧州サッカー界において選手は日本のような「たかが選手」としてとらえられてきた。そうクラブの所有物として。しかし、1995年の欧州裁判所で下された判決がその後のサッカー界の未来を変えた。これは、EUの労働者問題に非常に深くつながっている。これが、動機である。
ボスマン判決
ジャン=マルク・ボスマン(サッカー選手としては無名)はベルギーリーグ2部のRFCリエージュの選手であったが、1990年同クラブとの2年契約が満了し、その後オファーのあったフランス2部リーグのダンケルクに移籍しようとした。ところがRFCリエージュがこの移籍に難色を示しボスマンの所有権を主張して移籍を阻止しようとした。これに対してボスマンの主張は1957年3月25日に締結されたEU(ヨーロッパ連合)の基本法であるローマ条約に抵触するというものであった。なかでもローマ条約の第48条、85条および86条では、EU内での「労働者の移動の自由を認め、労働条件における国籍による差別の禁止」が全面的に認められているというものである。
これに対してベルギーのクラブ、ベルギーサッカー協会、ヨーロッパサッカー連盟(UEFA)は一致団結して「移籍ルールの目的は、クラブ間の財政と競争力のバランスを保ち、若い選手を支援することだ」と反論した。また「プロサッカー選手は、ローマ条約で規定されている一般の労働者とは異なり、特殊の才能を誇る芸術家と同様に扱われるべきだ」と主張した。
争点
@クラブとの契約が完全に終了した選手の所有権をクラブは主張できない事(つまり契約が終了した時点で移籍が自由化される)の確認。
AEU内であれば ※注1 EU国籍所有者の就労は制限されないとしたEUの労働規約をプロサッカー選手にも適用するべきである 。
とする内容の訴えを欧州裁判所に起した。
この訴訟は様々なプレッシャーを受けながらも、結局ボスマン側の勝訴に終わり上2点の要求は完全に認められた。
ボスマン判決以降、クラブにとっては移籍金でビジネスを行う事は実質的に難しくなった。現在では5年や6年という長期間の契約を結んで、残った契約を買い取ってもらうと言うやり方で移籍金を得ている。逆に選手側では移籍のハードルを低くするために長期の契約を結ばないものもいる。単年契約等
一部のビッグクラブはEU内の選手保有が制限されなくなった事を受けて、EU内の有名選手をかき集める。という事も可能になった。ただしこういう事が可能なのはほんの一部のクラブに限られている。レアル・マドリード等
また2005年4月には、EUでの労働条件についてEU協約を結んでいる、EU外諸国(ロシアなどの東ヨーロッパ諸国、またイギリス、フランスの旧植民地であったアフリカ諸国の多くがこの協約を結んでいる)についてもボスマン判決が適用される旨の判決が欧州裁判所で下された。
判決後の10年の問題点
選手の権利を追求したせいで自国の選手が育ちにくくなった事で、UEFA(欧州サッカー連盟)の中にクラブの保有選手に制限をかける動きが出ている(2006〜2007シーズンから)。つまり、チームメンバーの人数制限を設け、その中にクラブ育成選手もしくは同国内の他クラブ育成選手を一定数以上保有しなくてはならない、このような規定ができた。
現在の有名なクラブでは下部組織が充実しているバルセロナやローマには有利だが、
下部組織のないミランやアーセナルやチェルシーには厳しい規定となるだろう。
今後の研究
EU国籍の条件なども組み込んでいこうと思う。
※ 注1 マーストリヒト条約により規定された。
連邦構成国の国籍を有するものが、欧州市民となる資格を持つ。
欧州市民であることは、構成国の国民であることによって担保される。
→ 国籍と市民権欧州国民など存在しない。欧州に所属するということもない。 ※Olivier Beaud(公法学者)
参考ホームページ
http://plaza.rakuten.co.jp/saijiki31/diary/200501110000
日刊スポーツホームページ http://www.nikkansports.com/ns/soccer/top-sc.html
参考文献
スポーツ法律相談 青林書院