西洋経済史総括レポート(SR-No.3)
この講義を受講する前はEUについての予備知識が何もなかったため不安でした。しかし授業回数を増すごとにEUへの興味を持つようになり自発的に関連文献や新聞記事を読んでいくことで、知識も増え問題意識も生まれました。
特に「EU憲法の否決」という話題がタイムリーだったので、後期はそれに関連するような事柄(雇用政策・東方拡大)を調べました。フランスやオランダの国民が批准反対を唱えた理由はEU憲法の是非そのものより、内政面での不満が大きかったと言われています。それは失業問題であり、とりわけ東方拡大への不安が背景にありました。2回目の報告では、EU拡大も影響して中期予算協議が難航しているという新聞記事を紹介しました。その後の展開も気になったので記事を追ってみると、EU首脳会議における25カ国に拡大後の初の中期予算案は2005年12月17日未明にようやく合意されたということです。
会議では、イギリスが特権的に受け取っている還付金を削減するか、EU予算の4割を超える農業分野の補助金を削減するか(予算全体の抑制)、が焦点となっていた。還付金削減にはもちろんイギリスの強い反発があり、予算の抑制には新規加盟した10カ国が難色を示したほか農業予算の縮小は農業補助金の恩恵を強く受けるフランスやポーランドが拒否していた。しかし粘り強い交渉の結果、イギリスの還付金を約20%削減すること、予算規模をイギリス提案よりも拡大することで合意がなされた。これはイギリスが譲歩した形となったが、2008-09年に予算全体の「徹底的かつ大幅な見直し」をして農業分野の補助金の将来的な削減も事実上決まったのだった。
合意を後押ししたのは、統合停滞への危機感だったと言われています。EU憲法の批准失敗に加えて予算上の展望も欠くことになれば「EUは麻痺せざるをえない」との懸念が示されるまでになっていたからです。会議閉幕後記者会見したブレア英首相は「(EUの)拡大を信じるなら、今ここで合意しなければならない」「合意は欧州を前進に導くものだ」と表明しました。これは非常に勇気のある決断だったと思います。
EU統合の深化と拡大のプロセスは停滞や紆余曲折があっても、ここまで来たらもう後退することはできないのでしょう。なんで経済統合だけで満足できないのか、(政治的統合までしなくても)これで充分じゃないかと思っていましたが、欧州を量的にも質的にも強くしていきたいという願いがEUを前進させているのだと思いました。そのために「深化」は必然的な事ですが、「拡大」のスピードが最近速すぎるのではないかと不安になります。
そして欧州の問題を考えることは日本とアジアの関係を考えていくためにも重要だと思いました。EUの事情を東アジア共同体にそのまま照らし合わせるのは安易かもしれないが、とにかく各国の政治家が時間をかけて充分に話し合うことと、国益ばかり考えずアジア全体のために妥協や譲歩をすることも時には必要であると思います。日本人は「アジア人」であることの認識が他国に比べて薄いのかもしれません。日本だけでなくアジア各国が、アジアの未来をどうしていきたいかを考えていない限り、東アジア共同体も実現の難しいものになります。しかしこれは焦らず、ゆっくり考えていけばよい問題だと思います。
個人的に結構大変な授業でしたが、負担が大きいぶん見返りも大きく非常に有意義な時間を過ごせたと思います。これからもEUの動向に注目していきたいです。ありがとうございました。