人魚姫 にんぎょひめ


 「Den lille Havfrue デンマークの作家アンデルセンの童話。1837年発行の粗末な小冊子「子供に話して聞かせるお話」第3冊におさめられて世に出た。かなえられるはずのない恋のために自分の命を犠牲にする人魚姫の、せつない純愛の物語。それまでは民話の再現が多かったアンデルセンが、「小さいイーダの花」(1835)、「親指姫」(1836)とともに「この3編こそわたしの最初の創作童話」とみとめる作品であり、この「人魚姫」の成功によって創作への関心を深めることになった。

 海のいちばん深いところに人魚の王様の城があって、王には6人の姫がいた。なかでもいちばんうつくしいのが、15歳になったばかりの末の人魚姫で、肌はバラの花びらのようにすきとおり、目は深い海のように青く澄んでいた。ある日、人魚姫はあらしで難破しておぼれかけた王子をすくい、それからというもの、その王子のことばかり思いつづけるようになる。人間になって王子といっしょにくらすことができたらどんなにいいだろうかと思った人魚姫は、海魔女のところに相談にいった。魔女は、「人魚のしっぽを人間のような足にかえることはできるが、そのかわり足はあるくたびにナイフをふむようにいたみ、その王子がほかの人と結婚したら、お前の心臓は破裂して、海の泡となってしまう。それでもいいのだね」と念をおして、人魚が人間になる魔法の薬をつくってくれた。そのお礼として魔女が要求したのは、だれよりもきれいと評判の人魚姫の声だった。

人魚姫はその魔法の薬をのんでうつくしい人間の娘になり、王子と親しくなることができた。そのうれしさに、血のでるような足の痛みもわすれるほどだった。しかし、人魚姫に命をたすけてもらったことを知らない王子は隣の国のうつくしい姫と結婚する。その婚礼の翌朝、人魚姫は海の泡となり、その泡は朝日の中で空気の精となって天にのぼっていった。

 この人魚姫の物語には、作者アンデルセン自身の失恋体験がおりこまれている。人魚姫はアンデルセンの自画像といっていい。気の弱いところもあって、彼はすきな女性に積極的に思いをつたえることができず、一生を独身ですごした。「人魚姫」は、かなえられない恋を体験したことのある多くの人間の共感をよぶ、悲恋物語の傑作である。

デンマークの首都コペンハーゲンの港には人魚姫の像があり、観光の名所となっている。船乗りたちは、この人魚姫の像にキスすると幸運がえられると信じているという。」Microsoft(R) Encarta(R) Reference Library 2003. (C) 1993-2002 Microsoft Corporation. All rights reserved.