大学評価学会:第7回大会(2010年3月)の報告が、当学会の特集号・年報第7号に掲載された。
(報告の時点からすると、その出版は2年半ほど遅れたことになる。2012年9月)

 大学における自治は、憲法が保障する学問の自由の制度的基盤として決してないがしろにできないものであるが、現実は全くそのような状況にはない。

 その根本問題を「改革」の深刻な問題点として紹介した学会報告からすでに2年半が経過し、退職後もすでに1年半たったが、その後、大学の自治の再建は、どのようになっているであろうか?

 この間、昨年春に起きた医学部長解任事件(新聞報道でも広く知られたが)をみるにつけ、大学における自治の解体状況は深刻ではないか、と推測される。

 「改革」以降、教員組合だけが大学の内部において、自治と自立の組織として存立しえているにすぎないのであるが、最近の教員組合ニュースをみると(労働条件「改定」に係る深刻な問題で労働委員会に提訴)、その教員組合に対しても、したがってまた教員に対しても、厳しい嵐は吹き続けているようである。教員よりもさらに一般職員がおかれた状態には厳しいものがあると思われる。

そもそも、ある組織体における自治とは何ぞや?

地方自治、地方公共団体における自治とは何ぞや?
横浜市という地方公共団体の自治を保障するものは何か?

 その制度的保障は、市長(行政機関・統治機関の長)や議員(立法機関の担い手)を市民が直接選挙で選ぶということであろう。

それでは、大学の自治は?

 大学という「自治体」において、大学の構成員による選挙によって、大学の統治、行政・立法の担い手を選べるようになっているか? 

 日本の国公立大学のほとんどでは、また一部の私学を別とすれば私立大学のほとんどでも、大学統治の主要管理職人事について、それぞれの組織の一般教員全体からの選挙制度が、制定されている。その重要性は、憲法学の規範的解説書(たとえば、芦部・憲法)にも示されているとおりである。

 かつての横浜市立大学も、大学教員による学長の選挙、大学教員による評議員の選挙が行われた。
まさに、自治の制度的保障としての選挙制度が存在した。

だが、現在は?

そのような自治の制度は存在しない。

「上から」、「外から」の管理職(理事長・学長・学部長・研究科長など)の任命制とは、大学の自治の破壊そのものではないか?

 それだけではない。

 「全員任期制」という教員身分の不安定化(契約社員化・有期雇用)の制度も、「改革」によって導入され、大学教員の身分保障を根底から揺るがすものとなっているが、それも継続されたままである。

 「全員任期制」という現実の制度こそ、誰にでもわかる大学自治破壊を象徴する制度というべきであろう。

 そして、このような任期制・有期雇用の無期限の継続は、最近の労働契約法の改正により違法とされた制度であり、いかに非合理的であるか、労働法の根本精神に反するものであるかが、はっきりしたというべきであろう。
 人によっては、定年まで任期制・有期雇用を続ける制度は、奴隷制と同じではないか、とも。


 教員組合は、その意味で、憲法の精神、労働法の精神にのっとり、一貫して「全員任期制」の撤廃を要求してきたわけであり、その粘り強い活動の重要性が改めて明確になったといえよう。

 厳しい状況におかれた教員組合は、その主張の点で、憲法・労働法の基準からすればまっとうな役割を果たしていると考えられる。