任期制問題

 

*『週間新潮』12月4日号記事[特集]教授追放!『京大医学部』を揺るがす「白い巨塔」事件

*北九州市立大学評議会議事録(2003年10月8日)

任期制問題放送大学の事件(大学教員の任期制を考える引用集参照)

任期制問題大学の教員等の任期に関する法律をめぐる1997年国会審議の論点整理阿部泰隆=位田央

任期制問題神戸大学大学院法学研究科・阿部泰隆教授の論文抜粋

任期制問題京都大学再生医科学研究所における教官任期制に関する情報公開

任期制問題元最高裁判事・園部逸夫・立命館大学教授の意見書

任期制問題大学界有志声明:京都地方裁判所第3民事部裁判官への要望書03-11-21

任期制問題:京都大学事件に関する阿部教授(神戸大)の京大総長への要望書

任期制問題:大学教員任期制法への疑問と再任審査における公正な評価の不可欠性
京大は学問の自由を自ら踏みにじるな‐(2003421)

*京都大学再生医科学研究所再任拒否事件・井上一知教授の裁判所への陳述書 

 

 

http://poll.ac-net.org/2/

大学界有志から京都地裁民事三部裁判官への要望書


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陳 述 書

     京都地方裁判所御中
 
                 平成15年9月2日
 
                     井上 一知    
 
 

  私は井上一知と申します。陳述の機会を与えていただきまことにありがとうございます。私はもともと膵臓外科を専門とする外科の医者ですが、現在糖尿病に対する新しい治療開発研究に取り組んでいます。糖尿病の患者さんは潜在数も含めると1400万人に達しており、医学的・社会的に重大な問題になっています。

特に小児に発症する糖尿病は深刻で、両親にインスリン注射をしてもらう必要があります。中学生では自立して自分で、一日4回のインスリン注射をするようになりますが、問題はいくらインスリン注射を続けても、失明などの合併症の進行は防げないというところにあります。根本的な治療法は、膵臓の臓器移植か、インスリンを分泌する細胞のみを注入する膵島細胞移植しかありませんが、日本では深刻なドナー不足の問題があります。この問題を解決できるのが、私達が取り組んでいる新しい再生医療開発研究です。

この治療法は日本から世界へ発信でき、多くの患者さんを救うことができる画期的な治療法で、数々の国際特許を出願し国際的に高い評価をうけています。患者さん御本人や御家族から多くのお電話やお手紙をいただいておりますし、多くの患者さんがこの新しい治療開発を待ち望んでおられます。病気は待ってくれません。

私は教室の先生方と一丸となって新しい治療の開発研究に取り組んできましたが、いよいよ臨床応用の実現が目の当たりに近づいてまいりました。すなわち、この新しい治療法を受けるために現在待機しておられる糖尿病の患者さんを対象にして、臨床応用を実地するために、御理解・御協力を得ることができた東北大学及び自治医科大学と合同で来月中に医の倫理委員会へ申請することになりました。

私の母は医者でありましたが、私は母の患者さんを救おうとする強い熱意と骨身を惜しまない献身的な姿勢に心を打たれて医者になりました。この新しい画期的な治療により、多くの患者さんのお役に立てる時機がようやく到来したと思っております。この新しい治療を待ち望んでおられる多くの患者さんのためにも、臨床応用の実現を目前に控えた今、ここで研究を止めるわけにはいきません。裁判官の皆様方には、きっと御理解をいただけるものと信じております。

さて、私が受けました再任拒否による失職処分についてお話しいたします。これは、任期制の運用に法を逸脱する重大な誤りがあったのは明白だと思います。その前に、一年以上も前から私を再任させないという陰湿な個人的画策があったと伺っております。

外部評価委員のお一人で、わが国における膵臓器移植及び膵島細胞移植の第一人者として他の追随を許さない高名な、出月康夫東京大学名誉教授が提出された書面で、このことが、すなわち陰湿で個人的な画策があった事の詳細が明るみになったことは、皆様ご存知の通りであります。

昨年の11月に突然の呼び出しがあり、強制的にテープレコーダーで記録がなされる状況下で、全く理由も不明のままに「自ら辞任してください」と言われました。すべて私の居ないところで決まった話であり、しかも、私自身が説明する機会も全く与えられませんでした。おそらく電話などによる個人的な画策の結果再任が拒否されたと思いますが、透明でかつ公明正大な運用が行われていれば、再任拒否になるような事態は到底ありえなかったと思います。何回も再任拒否の理由を書面で示していただくように求めましたが、返答をいただけませんでした。一流の専門家により、満場一致で再任可と決定された外部評価委員会の結論をないがしろにする理由をいろいろ探してみても、結局、書面に記載して公にできるような理由が見当たらなかった、すなわち公平な立場の第三者が見て納得できるような理由が見当たらなかったのでしょう。

こういう人の道をはずれることが、なんのお咎めも無く平気で世の中をはびこってはいけないのは当然でありますが、残念なことに、現状では何のお咎めも無く、しかも憲法で保障されているはずの救済の道を、京都大学内においてはまったく見いだせませんでした。そこで、真っ当な人の道を求めるために、公正で気高い御見識と御裁断を信じて裁判の道を選択いたしました。

今回の再任拒否による失職処分は、私一個人の問題をすでに離れてしまっており、日本の任期制度を根幹から歪める重大な社会的問題になっています。医学部だけでもすでに20以上の大学が任期制を採用し、ますます増えつつあります。全国の多くの友人や先生方から激励や問い合わせがあり、この裁判の成り行きを真剣に見守りながら、心暖まる御支援をいただいております。

私はいろいろの圧力や制約を受け、極めて厳しい環境下にありますが、教室の先生方と心を一つにして、研究活動、研究指導、学会活動、講演活動、執筆活動、ボランティアー活動などに励んでおります。また、裁判のさ中に、歴史と伝統のある日本膵臓学会の会長に選出されました。そこで、来年7月には会長として、国際膵臓学会と合同で日本膵臓学会を主宰することになり、日本の膵臓病治療の発展と、膵臓病研究の進歩のためにその重責を果たすべく、現在その準備に追われているところです。

これもひとえに、患者さんのための新しい治療開発研究の継続とその臨床応用実現のためであり、また、新しい治療を待ち望んでおられる多くの患者さんに加え、教室の多くの研究員、大学院生、留学生の方々、そして、私を支援してくださる多くの病院や学会関連の先生方、多方面にわたる多くの有志の方々のためであり、さらに、わが国における任期制度が正しく運用され、大学の自治、そして学問の自由が守られるようにするためです。教官の任期制度が正しく運用されないと、多くの教官が診療・教育・研究に専念できなくなり、ひいては日本の診療・教育・研究の発展の遅れに繋がり、甚大な社会的損失をもたらすことになります。

前最高裁判所判事で京都大学御出身の園部逸夫先生は、今回のご自分の母校で勃発した井上事件を、戦前の大学の自治に関する沢柳事件、そして滝川事件と続くいわゆる京大事件に匹敵する、あるいは、それ以上に重大な事件、すなわち、大学の自治と学問の自由を踏みにじり、行政法の視点からみても到底放置し得ない重大な社会的事件と、判断されました。

園部逸夫先生を始め、行政法をご専門とする諸先生方が一同にご指摘されましたように、今回の一件は、わが国における教官任期制度の運命を決定・左右するきわめて重大かつ深刻な問題であることに、異論のある方はおられないと思います。新しい治療を待ち望んでおられる多くの患者さんのために、大学の自治が正しく運用されるために、そして学問の自由を守るために、是非、適正な御裁断をお願い申し上げる次第です。

 ありがとうございました。