2,004年度後期定期試験(2005年2月1日に実施)コメント



問1.下記の治安警察・保安部の秘密文書(ドイツ連邦文書館R58/871)の意味・意義・歴史的位置づけについて論じなさい10行−15行程度)。

                 ベルリン、1942年6月5日
 II D 3 a (9)・・・                     作成部数一通のみ

           国 家 機 密 
  I.覚書

 運転中および製造中の特殊自動車Spezialwagen技術的改善の件

  194112月以降、たとえば、3台の車で97000を加工した。事故と評価されるべきは、クルムホーフにおける周知の爆発のみである。その原因は、操作の誤りに帰せられなければならない。そうした事故を回避するため、関係部署に特別の指示が発せられた。それは守られ、安全度は相当に高まった。
  その他のこれまでに得られた経験から、以下の技術的改善が合目的的と思われる。
1.)過剰圧力を回避しながら一酸化炭素(CO)の速やかな注入を可能にするため、ボックス後方上部に内径10×cmの二つのスリットをあける。この隙間に対し外部に簡単に動く薄板の蓋を取り付ける。それによって、過剰圧力が生じた場合、自動的に調整できるようにする。
2.)自動車の輸送力は、通常、1uあたり910である。積載容積の大きいザウラー・特殊自動車の場合、このように利用することは不可能である。なぜなら、それだけ積んでも過剰積載にはならないが、走行性の点で非常に効率が悪くなるからである。そこで積載面積の縮小が必要と思われる。・・・・(中略)
3.)排気口と自動車との間の連結管は、非常にしばしば錆びついてしまう。というのは、連結管が内部から落ちてくる液体によって腐食されるからである。これを避けるために、(ガス)注入用パイプは、上から下に流れ込むように取り付けられなければならない。それによって、液体の流入がさけられる。(以下略)


解答に対するコメント
 1.この文書が、ドイツ第三帝国の政治警察(治安警察・保安部)の文書である、ということを考えない答案がかなりあった。単なる自動車の技術改善の文書と間違っている。ドイツの「ワーゲン」(すなわちフォルクスワーゲン)の技術改良の文書とみる解答も散見された。
 こうした解答をみると、いったい私が最も力を入れて説明したことはなんだったのか?とがっかりしてしまう。
 
2.「作成部数一通のみ」はオリジナル文書でも下線で強調されているし、「国家機密」というところは太字で(講義中に配布したオリジナルの文書のコピーでわかるように、オリジナルにはスタンプが押してある)強調を加えておいたが、それら意味も理解していない解答がけっこうあった。
 次のドキュメントは重要なので、「講義メモ・配布資料等のリスト」のページにも同じドキュメントを掲示しているのであるが、

          


 念のため、講義中に配布したオリジナル文書コピーをここでも示し、
これを含む2ページ以下のドキュメントにリンクを張っておこう。

 もちろん、このガス自動車の製造と改造が民間会社(ガウプシャフト社)であることも、きちんと記憶にとどめていた解答、ホロコースト(ユダヤ人のガス室による大量殺害)が、巨大な国家警察のマシーンとそれ以外の官庁や民間企業の分業関係で成り立っていたことをしっかり抑えた模範解答もあった。


3.1941年12月に、ドイツ、プロテクトラートなどのユダヤ人の「移住政策」が絶滅政策に転換していッたことを示す重要ドキュメントだということを、きっちり理解したうえで解答した模範的な答案もかなりあった。これはうれしいことであった。その諸君は、1941年12月からガス自動車作戦が始まったことを、私の説明と論文などからしっかり把握していた。


問2. 111日配布の拙稿「総力戦の論理とプロテクトラートの『ユダヤ人問題』−1941年秋-1942年春−」で最も印象的だったこと、どのような点で歴史認識を深めたかについて書きなさい。10行−15行程度) 

解答に対するコメント
 1.驚くほどよく読んで、ポイントをつかんでいた答案がかなりあった。ヒトラーの発想とハイドリヒの発想の関連性などについても、しっかりつかんでいた人がいたことはうれしい。
 臨時的一時回避的な「移送」政策が、なぜ「絶滅」政策に移行していくのか、この点での占領地域の治安問題・経済問題の重要性、ハイドリヒのプロテクトラート総督代理の活動・現場体験の意義をしっかりつかんでくれた答案がいくつもあったことは、心強かった。
  

 2.1月11日配布の拙稿を読まないで、後期に私が講義で説明したことの要点を書いているものもかなりあった。
   そうした解答は、ポイントはずれているが、設問に重なり合うところも多く、試験勉強でまとめておいたことが役立ったといえよう。
    勉強しているかぎり、しかるべき評価を与えておいた。


 3.日本語の問題であるが一言すれば、ここでは、私が自分の論文について「拙稿」と表現しているのであるが、解答に「拙稿は・・・」と書い   ているものが散見された。「拙者は・・・でござる」というような文章を想起してもらいたい。他人がそのまま、「拙者は、・・・」を使うかどうか?
 
問3. 私の研究室HPのデジカメ写真など講義資料をみましたか? 見た人はその感想・論評を23行(多いのはいくらでも)。

解答(感想など)に対するコメント

  1.かなり多くの人が、みていた。うれしいことである。就職活動などで講義に出られなかったときに、研究室HPの講義メモを見て勉強したという人も何人かいた。まさにそうしたためにこそ、研究室HPに講義メモ・講義資料を掲げる意味がある。

  2.デジカメ写真を加えたのは、かなり好評であった。ただ、なかには、お父さんが元カメラマンという人がいて、たまたま試験勉強をしているときにそばにいたので見せたら、「写真のできばえ」について、専門家のスタンスから厳しいコメントが加えられたようである。
 たとえばどんなことか、具体的な問題点をいくつか書いてくれていたら、参考になったのにと残念に思った。せっかくのカメラマンの見識を学びたかった。

  3.「経済史講義」HPの目次欄に最近たくさんの写真と説明を加えた点については、一方ではよくわかった、迫力があった、ドキュメント力がある、当時の宣伝のイメージがわかる、というポジティヴな評価の人と、他方では、ごちゃごちゃしてわかりにくかった、あるいはページのボリュームが大きくなりすぎて利用しにくかった、細かく分けて欲しいなど、というコメントがあった。

 こうしたコメントを踏まえて、さっそく、講義インデックスページなどの改善を行った。
 試験前のHPよりはかなりよくなったのではないかと思うがどうだろう

    

問4. 自由記述:その他、自由感想記述10行程度:裏面に及んでも可)