20100602講義「ナショナリズム論」に関する感想カード記述事項とそれへのコメント等
1. 秋元君報告関連・・・秋元君自身・・・「反応が思ったより多くてよかった」。
「ネット右翼」という言葉を今回初めて聞いた、という感想が非常に多かった。したがって、刺激的な問題提起となったといえる。
(1)a.「ネット右翼」というが、その「右翼」の定義は?資本主義、保守主義と右翼は違うのか、ネオコンとの関係は?といった問題だけでも卒論が書けるレベルのテーマ。b.右翼の定義はよく吟味しなければ。 c.もう少し具体的な右翼、左翼の声、実際の書き込みなどを交えた方が聞く側ではわかりやすい。d.なぜ研究の対象が、ネット左翼ではなく、ネット右翼なのか。e.右翼と聞くと暴力団が関与する団体が多いが、反社会集団である暴力団が右翼団体と結びつくのはなぜか?・・・同種のコメントいくつかあり。
・・・右翼・左翼は、「右」、「左」という単なる位置関係(議会での座席の場所)を大まかに示すだけで、内容の定義は、その右翼と左翼に陣取っている人々のマニフェスト、綱領、主張、実現しようとする政策、目指す社会の在り方、などをきちんと位置付ける中で明確になる。左翼にも、「極左集団・過激派」と呼ばれるグループがいて、その小集団は暴力的な手段をいとわない傾向がある。何が問題なのか、民主主義の手段はなにか。研究に値する問題群。
「右翼に限らず、中国では国家に対して自分の意見を自由にネットで発信できない」
問題を具体的に考えていく必要がある。「靖国神社への首相の公式参拝に賛成か反対か」、その賛成と反対の理由は、といったことが明確にされなければならない。大まかに言って、賛成の方向性にあるのが右翼であり、反対の主張をする人々が左翼に属する、などなど。
それは必然的に、第二次世界大戦をどうみるのか、侵略戦争だったと見るのか(左翼系)、単なる進出だったとみるのか(右翼系)など、戦争の性格の評価に深くかかわってくる。あるいは、靖国神社に祭られた東条英機首相(東京裁判で戦犯としての判決を受け処刑された)を、どういうものとして評価するのかにかかわる。第二次大戦の主要な責任者と見るのかどうか、戦争犯罪と見るのかどうか、戦争犯罪として有罪判決を下した東京裁判をどうみるのか、と言ったことに関係してくる。
これらの問題は、まさに、ナショナリズムの具体的あり方と関係してくる。ナショナリズムの評価の在り方、多様なナショナリズムの在り方と密接に結びついている。
(2)a.1.3%のネット右翼に対し、その他98.7%はスパイラルに巻き込まれていくだろうか、考えてみたい。b.ネット右翼の人はどの程度社会に影響を与える可能性があるのだろうかと疑問に。現代の右翼の若者は、“草食系右翼”?c. 1.3%は若者ということですが、その中には政治家や官僚など権力をもった人間も含まれているのか。政治家にも右翼が多数存在すると聞いたことがありますが・・・ d.年齢の上の人から、若者へ。若者から年齢の上の人への逆の影響は?
・・・ぜひ考えてみてほしい。その際、比較のひとつの素材となるのが、(政治)意識変化のダイナミズム(動態)と構造(指導者と同伴者・追随者・共鳴者の段階構造)。
講義で示したナチス台頭の事例。ナチス党は最初はごく少人数で出発。ワイマール期の政治的諸問題(賠償問題、国境問題、世界経済恐慌の打撃など)を受けて、勢力を拡大し、選挙で第一党に躍り出た。そして、ついには、保守・極右連合政権としてのヒトラー政権がつくられた。そのヒトラー政権は過ぎに議会を解散し、「最後の選挙」に打って出た。決定的圧倒的多数の議席を獲得しようと、国会放火事件をでっち上げ(ないしは活用し)、3月5日の選挙を行った。その結果は、? その結果を踏まえた全権委任法の強引な制定は?その後の一党独裁体制の確立過程は?
現在、ネット右翼に広範な国民が引き込まれないとしたら、それはどのような条件があるからか?
(3)日本でナショナリズムに関係している運動は、右翼以外にはないのでしょうか?
・・・「ナショナリズム」=右翼、ではかならずしもない。いや、逆の場合もある。たとえば、民族の自立・独立、植民地からの解放、列強の帝国主義の打倒といったことは、左翼のナショナリズムであり、中国共産党、ベトナム共産党、ソ連共産党などが両大戦間期から戦後かなりながいあいだ、すなわち世界で帝国主義・植民地主義が支配的であった時代、したがって弱い国々・小さな民族などが、支配され抑圧されていた時代には、主要な担い手であった。「被抑圧民族よ団結せよ」という(国際主義の主張)のは、レーニンやコミンテルンが掲げたスローガンであり、世界の諸民族のナショナルな尊厳(国際社会における民主主義)を尊重した社会をめざしたのであり、諸民族の独立した世界であった。第二次世界大戦後今日までの間に、国連に加盟している国が192カ国(2010年現在)にもなるということ、小さな民族や国家も、政治的な独立・自立を主張できる、独立を守り尊重されることができる世界になっていること、この人類の大きな成長(民主主義の発達・成熟)を研究する必要(価値)があるのではないか?
感想の中にも、「講義では主に近代化の進んだ強国におけるナショナリズムを取り扱っているが、ナショナリズムは強国ばかりではなく、相対的に弱い国々の側からもみられるのではないだろうか。例:テロ、ゲリラ戦、独立運動・・」と。(独立実現のための手段・方法は?)
朝河の日本を思う気持ちは、どうだったか?
6月30日の特別講義(東京大学大学院の小野塚知二教授)も、労働運動におけるナショナリズムとインターナショナリズムの問題を取り上げるので、しっかり考えて、ナショナリズム論の期末報告(レポート)のテーマにするが出ることも期待したい。
(4)沈黙のらせんモデル
・・・これに共感の意見がかなりあった。他方で、「過激化の螺旋モデル」もありうること、右翼だけではなく左翼でも同じような現象はありうることなどの意見も。
(5)ネット上で感化されたネット右翼人たちと現実との関連性は見てみる必要がある、匿名性の高いネット上では、ネット右翼に限らずとも、現実では絶対に口にしないようなことを発言する人たちが多くいる、ネット上では別の「人格」になっている
・・・現実社会にも、右から左までの政治意識の多様な人々がいる。現実社会とネット上の社会との相互関係の検討が必要。
(6)外国のネット右翼などに関する意見も多い。
外国のネット右翼との比較も、いい研究テーマとなろう。
過去の「ナショナリズム論」の報告では、ネオナチ(そのHP、その音楽など)に関する優れた報告もあった。
(7)一方に、日中間の友好親善を研究している人、他方に、その裏面として「反韓・反中感情」について研究しているひと、いもずる式に、「深みにはまりこんで」いるひと
・・・・しっかり研究するに値するテーマ。
2.家族のため、私有財産のため、戦場に出る男性たち・・・そういうところからナショナリズムが生まれてくる・・・国境を持つという私有物欲(?)、突き詰めれば欲から
・・・国境の意味・重み、国家がそれを守ることの意味・重みは、時代と社会の発展によって変化してきた。家族、私有財産、国家も、人類史とともに、歴史的に発生してきたものであり、そのあり方は変化していく。第二次大戦後は、たくさんの国家が誕生した。それまで、先進国・列強の植民地や従属地域であった世界の諸地域・諸民族が国家を形成し、領土を画定し、生存の尊厳を守られるようになった。しかし、その過程では、現在にも引き続く国境をめぐる争いも。
3.アメリカ・インディアンの研究をしている。白人の入植とともに迫害がはじまり、統合のための移住へと政策がシフト・・・しかし、現在、アメリカ・ナショナリズム高揚のためにインディアンを用いることが多い。他方、インディアンの独立は容認せず、白人社会への統合を進めている。
(永野君)・・・研究成果の中間報告を、お願いしたいが・・・
3.授業の感想・・・「祖父が子供の時、太平洋戦争のとき、早く戦争に行きたいと思っていたそうです。ホロコーストもそうなのかもしれませんが、このときのドイツや日本は簡単にナショナリズム化がすすんでしまったのでしょうか?」
・・・まさに、ナショナリズム論の講義は、このことを正面から、いろいろの角度から問題にしている。研究に値する問題群であり、研究してみるべき問題群。
4.ドイツの「The WAVE」を見たという何人かの人がいた
この映画をテーマに、ナショナリズムの過激化の可能性を検討するのもいいテーマ。