2006年12月11日―12日、イラン、テヘラン
イラン大統領による「ホロコースト検証国際会議」
参加者のほとんどは否定論者、KKKのデュークなどが参加。
イラン大統領は、「いつの日がイスラエルが消し去られる」と発言。会議の意図は、反イスラエル・キャンペーン
ユダヤ教のラビの中にも、反シオニズムあり・・・この会議に参加。
ドイツ、イギリスなど欧米の政治指導者による批判。
(NYTimesの過去の関連記事)
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イラン大統領の「否定論」・・・ホロコースト「神話」発言
2006年8月:ヒズボラのイスラエル兵士拉致事件とそれへの反撃を掲げるイスラエル軍のレバノン侵攻
アラブ諸国における反イスラエル機運
反米(反ブッシュ、国連演説ではブッシュを名指しはしなかったが暗に「悪魔」と)でアラブに連帯(イラン大統領に共鳴)するヴェネズエラのチャヴェス大統領の発言(これに対するサイモン・ヴィーゼンタール・センターの批判)
イスラエル国家、シオニズムとその支持者によるホロコーストの利用(私利・私益のため)の側面については、厳しい批判が、ユダヤ系の人びとのなかからも出されている(批判者の見地からすれば、ホロコーストの歴史の「乱用」、「誤用」)。
その一例:ノーマン・G・フィンケルスタイン『ホロコースト産業―同胞の苦しみを「売り物」にするユダヤ人エリートたち―』・・・この本のなかでは、エリート・体制派・金持ち派のユダヤ人たちとそうではない人々との態度(イスラエルやホロコーストや旧ソ連などに関する態度)の違いを鋭く、面白く解明しています。
(基礎的事実としてのホロコーストの生き残りの人数の問題・・・フィンケルシュタインは6万人が生き残り、すぐに2万人が死んだので、個人に対する戦後補償の対象となるユダヤ人の数は4万人程度、ということになる。これに対して、ユダヤ系の団体では、70万人という主張)
歴史の評価の仕方、歴史の何に、どこに目をつけるか、といったことは、社会のさまざまの地位や階層によって違ってくるのです。それらの全体に目配りしつつ、本当のこと、真実は何かを捜す必要があります。
歴史学の基本見地は、他の諸学問・諸科学と同じく、「真実は何か」、「真理は何か」です。
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イラン大統領のホロコースト否定論に関して:
反米・反イスラエル・反EUなどの政治的関心・政治的利害・現実的利害関心が背景にあることが分かる。
(2006年2月、パリで現状に不満を持つギャングも、反ユダヤ主義を口実に、「裕福な」ユダヤ人の誘拐・身代金要求・殺害事件を起こしている。中東問題、中東地域の反イスラエル感情が利用され、はけ口を求めている)
そこにみられるイラン大統領の見地:
イランの「敵の敵は味方」、
イランの敵=(アメリカ、イスラエル、EUなど)の敵(ネオナチ、ホロコースト否定論者など)は味方。
イラン大統領は、ホロコーストの歴史的諸事実についてみずから検証作業を行っているわけではない。
繰り返しますが、歴史学の仕事は、「事実」の検証、真実の発見です。
(ホロコーストの原因・責任をヒトラーとドイツだけに押し付けるのは、歴史科学の立場ではない。ホロコーストを世界大戦・総力戦の現場、世界大戦と総力戦に関係した世界の諸勢力との関連において見るのが、現在の世界の到達点・歴史認識の到達点というべきだろう。
すなわち、19世紀末から20世紀前半において先進国(英、米、仏など)が帝国主義・植民地主義を実践していたこと、これに対し後進の工業国(ドイツ・日本・イタリア)も、追いつき追い越せ政策(帝国主義・植民地主義)を推進し、ぶつかり合ったこと、それら列強の争いの中で、いずれの列強が勝利しても抑圧される立場にあった諸国・地域・諸民族の解放と独立の戦いがあったこと、これらを総体としてみていく必要性があろう。
その意味で、ヒトラーとナチス・ドイツだけを断罪する米英流の見方=連合国史観は、支配的原理としての帝国主義・植民地主義を克服した20世紀後半の世界の見地から、適切に批判されなければならない。
イラン大統領のスタンス=ホロコースト否定論は、そうした歴史科学的スタンスを逸脱している点で問題だということである。
20世紀前半までの「帝国主義・植民地主義」の支配と重なるのが、現在では、「核保有国」・「核保有大国」とそれ以外の国という問題であろう。世界的な軍縮、世界的な核廃絶・核軍縮が、ひとつの重要課題。イラン核問題はまさにそのことを示している。)
歴史的事実の検証抜きに、ホロコーストを「神話」だとか、「誇張・歪曲された話」などと大上段にいうのは、まさに、否定論。(わが国にも、「南京大虐殺」をめるぐ証言とその反対の否定論・無害化論があることは周知のことだろう。)
「誇張」、「歪曲」があるとすれば、それはどのような点か、これを具体的に史実(史料・証拠)に照らして検証する作業は、科学的作業である。
ナチス・ドイツにおいてユダヤ人が大量に虐殺された。
その総数は、少なくとも5百数十万人から600万人だ、というのは歴史研究が解明し、検証している事実である。
(幅があるのは、ヨーロッパ全域にわたる統計であり、しかも戦時下の出来事であったことから、統計その他の史料・証拠に不確実な部分が、狭い小さな問題に比べ、また平時よりも、どうしても多くなくことにもよる。その精密化のために、改めて研究を進めるというのも、歴史科学においては必要となる)。
そのような大量の被害者の数が、「信じられない」、「嘘ではないか」、「もっと数は少ないのではないか」などとと疑うのは、十分ありえる。
「すべては疑いうる」。
そして、事実について、これまでの研究史について確認作業・検証作業に入る、ということはありえる。また必要なことである。
「これこれの主張・説は、これこれの点で、これこれの史料に照らして誤りである」といった具体的な検証作業は、何も否定論ではない。
しかしそうではなくて、検証抜きでホロコーストは「嘘だ」、「神話だ」、「なかった」、「化けの皮」、「インチキ」などといい始めると、それは否定論の言説、宣伝(政治的な宣伝)ということになる。
上で紹介したイラン大統領の言説には、たしかにその側面がある。
下記において、田中氏が引用するホロコースト関連サイト(Zundel,
Faurissonなど)は、当然ながら、否定論(修正主義を主張しリヴィジョニストを自称しているが)のサイトである。
また、田中氏自身、下記の紹介の仕方からすれば、イラン大統領及びそれが代表するイスラム教徒の見地に共感しているようである。しかし、ホロコーストの事実性について、田中氏みずから確認したり検証しているわけではない。その点、注意が必要である。
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田中宇の国際ニュース解説 2006年2月14日 http://tanakanews.com/
より抜粋
▼イスラム世界の反米感情を扇動する
アハマディネジャドは、大統領になるまで海外に行ったことがなかった。そのため、彼の外交政策について欧米の新聞には「世界のことを全く知らず、他国に対して乱暴な発言を繰り返し、自滅に向かっている」と分析されているが、それは間違いである。
イスラエルや欧米を繰り返し非難するアハマディネジャドの発言は、パレスチナ問題や、アメリカのテロ戦争、イラク占領など、イスラム教徒がひどい目に遭っている現状を見て世界のイスラム教徒が内に秘めている、欧米とイスラエルに対する怒りを扇動して表に出させる効果を持っている。繰り返される発言が無意識に基づいているとは考えにくく、本人もしくは側近の中に、イスラム世界を扇動し、欧米やイスラエルに対する決起を促す国際戦略が存在していると考えるのが自然である。
アハマディネジャドは、
「ホロコーストは、シオニストが国際社会で権力を持つために使っている神話である」、
「イスラエルが、ナチスに弾圧されたユダヤ人のために作られた国家だというなら、それが中東にあるのはおかしい。ナチスは欧州人が起こした問題なのだから、ドイツやオーストリアが自国の州の2つか3つを割譲し、そこにイスラエルを移すべきだ。欧州に土地がないというのなら、欧米全体の責任ということで、カナダ北部やアラスカなど、土地が豊富な場所にイスラエルを移転させればよい」などと発言している。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/4510922.stm
http://www.poe-news.com/stories.php?poeurlid=54959
これらの発言は欧米から非難・酷評されているが、世界のイスラム教徒の多くからは、喝采を持って受け入れられている。イスラム世界では、ホロコーストを「誇張・歪曲された話」と考えることが広く受け入れられており、1948年の赤十字報告書などを根拠に「ホロコースト自体がなかった」、「ナチス・ドイツは、それほど悪い国ではなかった(戦前の日本と同様、悪い面だけでなく良い面もある国だった)」「アウシュビッツ収容所は巨大な工場で、そこでナチスは、商業の民であるユダヤ人に製造業を教えようとした。全滅させようとはしていない」といった主張も広く出されている。
http://www.thetruthseeker.co.uk/article.asp?ID=2735
▼ホロコーストの「化けの皮」をはがすイラン
以前の記事( http://tanakanews.com/f1220holocaust.htm
)に書いたように、オーストリアやドイツなどの欧州諸国では、ホロコーストを疑問視するだけで犯罪になる立法がなされているので、私は、これらのイスラム教徒の主張に対し、自分がどう考えているかは表明しない。だが、世界の多くのイスラム教徒が、ホロコースト関連の話に対して「インチキさ」を感じ、欧州諸国の立法を「言論弾圧だ」と感じていること自体は、動かせぬ事実である。
中東の政治家たちの多くも、私的な会話ではホロコーストのインチキさについて雄弁に語るが、欧米の反応を恐れ、公式には決して語らない。アハマディネジャドは、他の政治家が怖くて公式に言えないことを声高に語ることで、イスラム世界での人気を勝ち取ろうとしているように見える。
イラン政府は昨年11月、欧州の著名なホロコースト・リビジョニストと話し合いの場を持っている。リビジョニストはイラン側に「ホロコーストの事実性の偽造こそが、シオニストのパワーの源なのだから、イスラエルと戦っているイスラム教徒は、従来のようにホロコーストを欧米内部の問題だと無視せず、ホロコーストの化けの皮をはがす努力をした方が良い」とアドバイスしている。
アハマディネジャドは「ホロコーストは神話だ」と発言する前にリビジョニストの意見を聞き、周到に理論武装した可能性が高い。彼は、欧米の新聞が書いているような狂信的な愚人ではない。
http://www.zundelsite.org/zundel_persecuted/nov11-05-faurisson.html
最近、イスラム世界では、デンマークなどの新聞が掲載した預言者ムハンマドの風刺画に対する怒りが爆発しているが、激しい事態が続くと、欧米が馬鹿にしていたはずのアハマディネジャドの主張の方が説得力があり、ムハンマドを中傷するのは言論の自由なのにホロコーストへの疑問視は違法だとする欧州諸国の方がおかしい、という話になっていきかねない。少なくとも、世界の13億人のイスラム教徒の頭の中では、すでにそういう話になっている。
同時に「イスラエルは400発の核弾頭を持っているのに、イランにはウラン濃縮も許さないのは不公平だ」「イランに圧力をかけるのは、イスラエルに核兵器を破棄させてからにすべきだ」という話にもなっている。
http://www.haaretzdaily.com/hasen/pages/ShArt.jhtml?itemNo=678674