20060517第一回講義受講生の疑問・質問について

 

1.「戦争行為のなかで、ユダヤ人抹殺のための人力は、マイナスに結びつかなかったのでしょうか? 負けることが分かっていたので、その心配は不要だったのでしょうか?」・・・

 

  「ユダヤ人抹殺のための人力」が、親衛隊・警察組織の要員ということであれば、直接的には、ユダヤ人抹殺など必要と考えなければ、不要なところに人員を配置したことになり、ドイツの戦争努力にとってはマイナス、ということになります。しかし、ユダヤ人抹殺の政策課題が発生したということ、戦争勝利を第一にして、ドイツ本国と占領下の諸地域の人的物的資源を最大限活用するというハイドリヒの発想からすれば、治安維持のために不可欠の人力投入だった(そう考えられた)、ということでしょう。

 

 「ユダヤ人抹殺で人力が不足したのでは」、「ユダヤ人の労働力を活用できたのでは」という意味では、まさにその点は、ユダヤ人大量虐殺が始まる時点で(また進行中にも)問題となったところでした。

実際に軍需関連施設で使用されていたユダヤ人をめぐっては、軍需経済当局とヒムラー・ハイドリヒ・アイヒマン等の親衛隊・警察側とでは、摩擦がありました。絶対必要なごくわずかのユダヤ人は、軍需関連工場などで一定期間生き延びることができました。

 しかし他方、ダヤ人の圧倒的多数は、戦時下で劣悪な条件下で、「労働不能」と見なされる状態に陥っていた、ということも、非常に重要な点です。だからこそ、「大食漢」であり、「染病の源泉」であり、厄介者として処分されたのです。

 

2.「ユダヤ人の側から、具体的にヒットラー(ナチスドイツ)に対する敵対行為があったのでしょうか(ヒトラーが抹殺を考えるほどの)。ヒットラーの論理が一方的にふくれ上がってしまったのではないでしょうか?(もちろん、ユダヤの国際資本の動きなどがあったとしても、これらは直接、ドイツ攻撃につながるものではないのではないか)」・・・

 

 まさに、そのとおりです。「ユダヤ人」というものをどのように把握するか、理解するか(ヒトラーの論理・世界観)、ここに決定的なポイントがあります。

 

 昨日の講義でも詳しく検討しましたが、ヒトラーの基本目標は、東方に領土を拡張し、世界強国を建設することでした。イギリスのような帝国をドイツも建設すること、これが追いつき追い越そうとするドイツ帝国主義(後進帝国主義)の目標です。

第一次大戦でもドイツ第二帝政の国家と政治勢力の中心には同じような目標がありましたが、その構想は第一次大戦では挫折しました。その重要な原因が、海外植民地を求めてアフリカ、アジアに進出し、イギリスと、ひいてはアメリカと対決することになったことだとヒトラーは見ます。そこで、イギリスと対決しないで実現できる征服地を構想します。ふたたび自分(と自分の同士、ナチ党・親衛隊)が指導して、基本目的を実現しようとしました。

この基本目的の実現にとって邪魔になる要因、ヒトラー・ナチスに反対し抵抗する勢力はドイツ内外にたくさんいました。そのヒトラー・ナチスへの抵抗派・反対派・敵勢力の厳然たる存在、その中心・背後にユダヤ人がいる、というのがヒトラーやハイドリヒの思想・世界観でした。

これを詳しく証明しようとして、ヒトラー、ヒムラー、ハイドリヒの言説から重要箇所を紹介したわけです。

 

また、第二回講義でも触れますが、パルチザンとの死闘のなかで、ドイツに迫害されたユダヤ人一般民衆がパルチザン支援、パルチザンへの共感を持っていたこと、ドイツ的体的な気分であったことは、アインザッツグルッペが、報復の熱情を燃やすのに恰好の的となったことも考慮する必要があります。

 

 

3.「ユダヤ人が第一次大戦で果たした役割についても知りたい・・・」

 

  第一次大戦では、19世紀中から20世紀はじめまでに進んだユダヤ教徒の同権化、ドイツ国民としての一体化・同化を踏まえ、国民的な団結のなかでユダヤ人もドイツ国民として、ドイツ軍兵士として戦いました。

 しかし、敗戦濃厚になってくると、敗退の責任や反戦意識の高まりの原因を、ユダヤ人に求める反ユダヤ主義が強くなりました。その場合の反ユダヤ意識・宣伝は、ユダヤ人=反戦思想をばら撒くもの、ユダヤ人=社会民主主義者、ユダヤ人=マルクス主義者、ユダヤ人=革命を起こしたロシア(ソ連)の社会主義勢力、といったものでした。

 

5.「参考文献を挙げて・・・」、「ホロコーストについての本をたくさん紹介して・・・」

  二回目のレジュメに基本的な文献をあげます。また私の研究室HP文献リスト1および2も注記します。

 

  研究室HPの市民講座アドレスをもう一度書きます。

   http://eba-www.yokohama-cu.ac.jp/~kogiseminagamine/20051117ShiminKozaList.htm

  このページへのアクセスは、横浜市立大学HP経由で、商学部サーバーに入り、そこから経済学科教員のリストからも可能です。

  横浜市立大学HPhttp://www.yokohama-cu.ac.jp/

  →在学生へ:http://www.yokohama-cu.ac.jp/students/index.html

  →商学部:http://eba-www.yokohama-cu.ac.jp/

  →教員情報「経済学科」・永岑:http://eba-www.yokohama-cu.ac.jp/~kogiseminagamine/

  →市民講座・エクステンション講座HP:

http://eba-www.yokohama-cu.ac.jp/~kogiseminagamine/20051117ShiminKozaList.htm

 

 

6.「ドイツ語(原語)で、書物のタイトルを紹介して欲しかった、原書で参考になるものをぜひ聞かせて欲しい・・・」

上記、私の研究室HP文献リスト1および2をさしあたりの手がかりにしていただければと思います。

さらに、拙著『独ソ戦とホロコースト』にもかなり詳しい文献リストをあげておきました。

しかし、ドイツ現代史、ナチス期の書籍は毎年、翻訳が研究書が出ており、それについては、インターネットで検索していただくのが一番だと考えます。

 

7.「ヒトラーは、人口増ゆえ、東方を必要とするのだとの理由付けをしたが、実際は、経済状況によるアメリカへの移民や第一次大戦で青年層が戦死したことなどにより、人口増はほとんどなかったと思います。ヒトラーはなぜこのような言い訳を持ち出したのでしょうか?」

 

  移民で人口が減ったことを、ヒトラーは問題にしています。19世紀中葉から19世紀末にかけて、たくさんのドイツ人がアメリカに自由と成功を求めて移民しました。ヒトラーは、そうしたドイツ人の海外への移民などはよくないと見ています。優秀なドイツ人の減少は、ヒトラーにとって憂うべきことです。

  ドイツ本国で人口を増やし、ドイツ本国の領土を拡大し、ドイツ支配下の地域を東方に拡大する、そのなかでドイツ人が増え続ける、これがヒトラーの基本戦略です。

 この点は、ヒトラーの『続・わが闘争』(『第二の書』)でかなり詳しく論じられています。

 ヒムラーの「東方全体計画」もこれに沿ったものです。