20050524経済史講義メモ

 

1.近代産業資本主義の歴史的(人類史的)特質は何か?

 

              Ar(労働者)(v)             m=剰余価値[1]

近代産業資本 G(貨幣[2])W(商品[3])   ・・・・P(生産過程[4])(cvm)・・・W’G’

              Pm(生産手段)(=c[5])       vm付加価値

    新しい製品(生産物)を作ると同時に、それによって儲ける(すなわち、投資額以上のプラス・アルファ=利潤を獲得することが資本の使命

 

産業資本と違って、商業資本は、「買い」(第一段階GW))と「売り」(第二段階W-G’)で、「儲け」を獲得する。すなわち、物を生産する過程で、価値を増やすのではなく、流通過程で価値を増やす。それはどうして可能か?

 

商業資本GWG’  (商品=貨幣関係とともに古い[6]時代から世界各地で存在・・流通、買いG−W[7]売りW’−G’[8]で商業利潤を獲得)

 

利子生み資本GG’  (商品=貨幣関係とともに古い時代から世界各地で存在・・貸借・・時間的差のある貸しと借り、「貸し」の価格としての利子を獲得・・・古い時代の支配的な貸付資本は、高利貸し)

 

 

2.近代資本主義社会・・・・産業資本が生産活動、経済活動の基礎となり、支配的な形態となる。純粋な資本主義社会は存在せず、多様な中間形態・古い形態の多かれ少なかれ残存状態。

商業資本は、産業資本の生産したものを販売行為において(すなわち、G’W’の売り)活躍する。あるいは、産業資本のために原料などの調達において(すなわちGWの買いの活動)、商業活動(購買活動)を担う。

 貨幣資本は、産業資本が資金を調達する際に、広く集めた資金を用立てる(一定の利子を取って)。

 近代産業資本が支配的な社会でも、高利貸しは存在する。個人に対する消費者金融は、高利。

 

 

3.付加価値の具体的数値は?

 

付加価値[9](v[10]m[11])は、H14の場合、つぎの表のようである。

「付加価値は257兆8,691億円で、前年度(256兆8,917億円)を9,774億円上回った(増加率0.4%)。

 

 付加価値の構成比をみると、営業純益1.2ポイント、動産・不動産賃借料は0.4ポイント、租税公課は0.1ポイントそれぞれ前年度を上回ったが、人件費は1.4ポイント、支払利息・割引料は0.3ポイントそれぞれ前年度を下回った。また、付加価値率は19.4%で、前年度比0.2ポイントの上昇となり、労働生産性は712万円と前年度(695万円)を17万円上回った。」

 

第5表 付加価値の構成

(単位:億円、%)

 

年 度

区 分

10

11

12

13

14

 

構成比

 

構成比

 

構成比

 

構成比

 

構成比

付加価値

2,704,127

100.0

2,675,469

100.0

2,766,294

100.0

2,568,917

100.0

2,578,691

100.0

 人件費

2,033,555

75.2

2,019,617

75.5

2,025,373

73.2

1,928,607

75.1

1,899,189

73.7

 支払利息・割引料

182,101

6.7

144,427

5.4

135,564

4.9

116,524

4.5

109,119

4.2

 動産・不動産賃借料

273,979

10.2

249,560

9.3

256,993

9.3

247,182

9.6

258,664

10.0

 租税公課

143,363

5.3

113,593

4.3

107,279

3.9

97,515

3.8

100,415

3.9

 営業純益

71,129

2.6

148,272

5.5

241,085

8.7

179,089

7.0

211,304

8.2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

付加価値率

19.6

19.4

19.3

19.2

19.4

労働生産性(万円)

712

694

702

695

712

 

(注)1

付加価値人件費支払利息・割引料+動産・不動産賃借料+租税公課+営業純益

営業純益=営業利益−支払利息・割引料

.付加価値率=

 付加価値 

×100

売上高

労働生産性

 付加価値 

従業員数

 

財務省の法人企業付加価値統計の項目(具体的数値は上掲の第5表参照)は下記のように整理できる。

 

  企業に働く労働者(従業員)全体の総労働時間・総仕事時間で、付加価値を生産

必 要 労 働

剰 余 労 働

人 件 費

支払い利息・割引料

租 税・公課

営業純益

動産・不動産賃借料

働くものとその家族の生活の維持、衣食住の費用、しかるべき教育・文化・余暇の費用、働くものがその社会秩序等を維持するために支払う所得税など国税と地域の共同的公共的生活の維持のために支払う地方税、そのほか各種年金保険料なども重要な支払い項目=具体的な勤労者(国民)の支出動向数値は、総務省統計局の家計調査を参照

企業・会社・法人が先ず取得する。そこから企業・会社・法人が利子、賃借料・地代、国家的公共的諸制度の維持・国家の維持のため税金(法人税・住民税など)を支払い、残りが営業純益となる。 

この営業利益から、@株主への配当、A役員特別賞与、およびB資本準備金など資本蓄積・経営拡大資金。

 

 

 

4.近代資本主義社会の本質的特徴・・・労働力の商品化

 

 働く人が、労働力しか売るものを持たなくなる。

生存のためには、労働力を売らなければならない人が、近代産業資本主義の発達とともに、増える(就業者中の比率においても絶対数でも)。・・・・戦後日本(近代化過程・人口の都市集中過程)その基本的な法則が、鉄のごとく貫徹。

 

圧倒的多数の現代人は、自分の仕事をする能力を時間決めで(時間給、日給、月給など、週40時間などの法定労働時間と一定限度の残業時間)、企業(ないし資本家)に売って、その対価として、給料を受け取っている。 

 

サラリーマンが売る労働力と獲得する給料との相互関係

  等価交換原則

  同一労働・同一賃金

     ・・・現実には?  

同じ仕事(同じ労働)をしているのに、男女差別などの諸差別(給料、処遇等)はないか?


 

日本の最近40年間の労働力調査結果

(出所www.stat.go.jp/data/roudou/3.htm)

             1956  1966  1976 1986  1996    40年間

単位: 万人,

 

昭和31

 41年 

 51年 

 61年 

平成8年

増減数
平成8−昭和31

増減倍率
平成8−昭和31

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

15歳以上人口

6,050

7,432

8,540

9,587

10,571

4,521

1.75

 労働力人口

4,268

4,891

5,378

6,020

6,711

2,443

1.57

  就業者

4,171

4,827

5,271

5,853

6,486

2,315

1.56

  完全失業者

98

65

108

167

225

127

2.30

 非労働力人口

1,776

2,537

3,139

3,513

3,852

2,076

2.17



 

 

 

 

 

 

 

 

 

雇用者
自営業主・家族従業者

1,913
2,258

2,994
1,831

3,712
1,551

4,379
1,458

5,322
1,147

3,409
-1,111

2.78
0.51

農林業
製造業
サービス業

1,437
805
507

1,006
1,178
682

601
1,345
876

450
1,444
1,205

330
1,445
1,598

-1,107
640
1,091

0.23
1.80
3.15

完全失業率
労働力人口比率

2.3
70.5

1.3
65.8

2.0
63.0

2.8
62.8

3.4
63.5

1.1
-7.0

1.48
0.90

(注)1.昭和31年、41年には沖縄県の数値が含まれていない。

2.完全失業率は、  労働力人口に占める完全失業者の割合=(完全失業者÷労働力人口)×100

  3.労働力人口比率は、15歳以上人口に占める労働力人口の割合=(労働力人口÷15歳以上人口)×100 

 

 

200611月更新)

労働力調査 長期時系列データ

労働力構成(総数の変化、10歳後との年齢層別

2表

労働力状態,男女別15歳以上人口 − 全国

 

3表

(8)年齢階級(10歳階級)別完全失業者数及び完全失業率

 

 

 

16−6 産業3部門別就業者数

 

(『日本の統計』より)

 

最近の日本の「格差社会化」・・・90年代不況→グローバル化・構造改革・リストラ→格差社会化の進展

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

封建制から近代資本主義体制への移行は、

一方で、資本となる貨幣財産の蓄積(集中)の過程、

他方で、土地その他の生産手段(生活手段)を失って賃金労働者として働くより他に生活の道のないような人々が創出される過程。

封建時代の社会層の圧倒的部分であった農民層、すなわちかつて土地を持ち、村の中で共同体的に、自給自足的な生活を営んでいた農民層を土地から切り離す過程。

 

5.「原始」蓄積(「本源的」蓄積)

  産業資本としての貨幣財産の蓄積(あるいは貨幣財産が産業資本として投じられる条件)が、歴史的にまったく新しく創出されたのはどのようにしてか?

 単なる貨幣財産の蓄積は、古い時代から商人・高利貸しの手元で行われた。だが、近代産業資本は生まれなかった。なぜか?

 

 前提として、封建社会の経済構造の解体

  一方で、土地に縛り付けられていて人々の農奴または隷農民からの解放、同職組合(ギルド、ツンフト)の支配、すなわち、その徒弟・職人規則や邪魔になる労働規定からの解放

 他方で、解放された人々は、彼らからすべての生産手段が奪い取られ、古い封建的な諸制度によって与えられていた彼らの生存の保証がことごとく奪い取られてしまってから、はじめて自分自身の売り手になる。

 

 資本主義的生産が始まるのは、16世紀から

   農奴制の廃止がとっくに済んでいるような地域

   中世の頂点をなす独立都市の存立もずっと以前から色あせてきているような地域

   都市のギルド制に対抗する農村工業の展開、

   農村における局地的市場圏(商品貨幣経済の農村への浸透)の成立している地域、

   そこに新しい刺激としての、新しい広大な可能性としての、市場展開としての新大陸発見など地理上の発見

 

 さまざまの暴力的収奪現象の平行・・・有名なのがエンクロージャー:大牧羊業のための農民からの共同地収奪

 

 都市の魅力、都市の吸引力、工業の魅力、工業の吸引力による勤労者の移動とは違う。

 

 

 

          

 

 

 



[1] v部分は労働者の賃金として支払うものと同じ価値。

 c部分は原料や機械(その減価償却部分)で、他の資本・企業に支払うものと同じ価値。

 m部分だけが、この生産過程での純然たる増加部分。そこで、剰余価値という。

 

 生産に投じた原料・機械などの物的資本と労働者・従業員という人的資本部分

  →生産過程を終えた生産物(製品)は、一方では新しい製品であり、他方では、最初に投じた資本の価値よりも大きな価値が含まれる。

 働く人々(従業員)は、給料を受け取る。自分たちが受け取った給料は、仕事(労働)によって提供した者と同じ価値として。

 

生産過程で生み出された剰余分、すなわち、m=剰余価値は、資本を貸した銀等などに利息(借入金に対するもの)として、経済活動の環境を整備する公的団体(国家・地方自治体など)への租税(政府に対するもの)として、生産活動に当たって借りた土地の諸隆者に対する地代として、さらにその上、資本を投下した資本家に対する配当(株式資本にたいするもの)や役員特別賞与として分配され、さらに内部留保(将来の投資のための蓄積)などに分かれる。

 

[2] 現代産業資本の主要な企業(法人企業)の貸借対照表を見るとわかるが、法人資本(法人企業)は、株式資本(株主)と借入金(長期短期に金融機関から借り入れる資金=負債や一般から公募する社債=負債など)を元手に、それを投資して資産を購入し、生産活動を行っている。

 

[3] 産業資本は、労働者(=v)を雇い(すなわち労働力商品を購入し)、生産手段(=c、工場機械設備のような固定資本と原料・補助財・電流・燃料などのような流動資本)を購入して、物やサービスの生産を行う

 

[4] 産業企業の全体・・・生産過程における産業の指揮者・経営者と労働者・勤労者の全体としての生産活動(新しい商品の生産・製造)、価値創造活動・価値増加活動。

 

[5] c=それ自体の価値は、生産過程の始まる前と終了時点で変化がなく、コンスタント。

 原料・補助材料など流動資本と機械・工場設備など固定資本部分(その償却費が生産物の価値を構成することになる)。

[6] 「古い」比喩として、「ノアの洪水よりも前からある」という意味で、「前期的」資本という。

[7] *労働者を雇う人事部の能力が問われる・・いい人材を適正な価格(労賃・給料)で見つけることは会社にとって重要。

 *原料・補助材料・機械設備など、いい品質のものを適正な価格で仕入れる能力は企業にとって重要。 

[8] 「売り」、すなわち、マーケッティングが優れているかどうかは、企業にとって重要。

 販売店戦略、販売における割賦制、クレディットの活用(金融機関との提携)など。

 

[9] 付加価値=人件費支払利息・割引料+動産・不動産賃借料+租税公課+営業純益

[10] v=人件費

[11] m=支払利息・割引料+動産・不動産賃借料+租税公課+営業純益