19世紀70年代~世紀末葉の「大不況」と列強の形成、そして世界争覇戦へ
(File:20051115GreatDepression.htm)

 

 cf.主要参考書『新版 西洋経済史』第20章

後期講義の中での位置の確認


汽船・鉄道による世界的な交通革命
     →世界諸国・地域の競争と不均等発展

1.交通革命のひとつの重要な帰結・・・・ヨーロッパの「農業不況」

     海外(新大陸)やロシアなどから安価な穀物が洪水のように流入。

     ロシア、エジプト、インドなどからの飢餓輸出
    (農民大衆の貧困と飢餓・・・生産過剰・余剰を輸出するのではない)。



2.工業生産における世界的競争と不均等発展



(1)鉄鋼

  アメリカは、1886年と1890年の間に、イギリスを追い越している。
          粗鋼生産の生産における世界トップの地位をアメリカは第二次世界大戦後まで堅持。

  アメリカ鉄道業と結びつきつつ、鉄鋼業が急激に成長したが、その二つの分野を経験した大産業家カーネギーの自伝を読むと、アメリカ産業発展のメカニズムがおもしろく理解できる。

  ドイツは、1890年と1898年の間に、イギリスを追い越している。

  ロシアは、1910年と1913年の間にフランスを追い越している。




巨大な生産力の発達・生産量の急激な増大はなにを引き起こすか?
何を意味するか?



国内市場の過剰→輸出圧力→世界各地で市場を求める衝動→いい市場は?




1880年代に鉄鋼で世界トップの生産量を誇るにいたったアメリカは、輸出高では、イギリス、ドイツにはるかに及ばない。なぜか?

イギリスは、このグラフの最初から、一貫して鉄鋼輸出高が高水準である。なぜか?

ドイツは1900年以降、急激に
輸出高を増やしているなぜか?
ドイツはまた、1907-08年ごろ、イギリスを追い抜いている。なぜか?



鉄鋼輸出の中身の違い、すなわち、
   鉄鋼製品輸出の構成の違い(どのような製品をどの程度輸出しているか)は、何を意味するか?


1
907-80年頃から急激に輸出を拡大するドイツは、棒鋼・形鋼・帯鋼の輸出量がぬきんでている。次いで、銑鉄、鋼塊・鋼片
レール輸出では、アメリカも急激に世界市場に進出している。


イギリスにおけるトマス製鋼法への移行の失敗(錬鉄生産やベッセマー鋼など、過去の発展・設備の蓄積、おびただしい単純企業の存続が新しい技術導入を阻む
  ・・・・
ドイツやベルギーのトマス鋼と競合しない分野へ平炉鋼による少量多種生産)、あるいは、輸入鋼による第二次製品加工=輸出へ。

イギリスにおけるレール輸出・・・ベッセマー鋼レールを植民地市場向けに。









(2)電機・・・・新興産業
     1880年代から、電磁気の実用化・・・・水力・火力のエネルギーの新しい利用方法
                             
エネルギー基盤の拡大と競争の拡大、
                     電気の利用の多様化・・・・化学工業(苛性ソーダ・アルミ電解)への利用、冶金(電気炉)への活用。
                     発電設備、モーター、都市交通(市電、地下鉄)、近郊電鉄の建設


     
電機工業における巨大な市場と投資機会

     アメリカ・・・先頭を切った・・・大規模な中央発電所=広域配電方式でコストダウン・需要拡大。
    GE(エディソンとトムソン=ヒューストンの合併)、ウェスティングハウスの世界的大電機企業が成長。

   
ドイツ・・・ルール工業地帯の石炭・ガスを利用したライン=ヴェストファーレン電気会社をはじめとする広域発電事業や製鉄企業などの自家発電
   AEGとジーメンス・・・2大コンツェルン
   1913年、アメリカに匹敵する13億マルク(アメリカ13.4億、イギリス6億)の生産。
   近隣ヨーロッパ諸国(オーストリア=ハンガリー、ロシア)に分工場設立。
   ドイツは、電気機器の輸出でも、世界最大となる。(アメリカの約3倍、イギリスの2.5倍)・・・・・生産力・生産量の飛躍的拡大と国内市場の狭隘さ→輸出ドライブの激しさ。

     
   イギリスは、この分野でもアメリカ、ドイツに遅れを取る。


(3)化学・・・・
新興産業としての有機化学工業

  産業革命期の代表的な化学工業・・・・漂白剤(塩素酸ソーダ)・・・イギリスがトップで1850年に第二位のフランスの3倍の規模。

  新たな化学の台頭・・・・ドイツのタール染料工業を中心とする有機化学工業


-----20051122はここから-----

  元来、コークス製造の際に得られる廃棄物のコールタール
  このコールタールから、アニリン、アリザニン、アゾ染料、インディゴなど新しい染料が化学合成された・・・合成染料
  この成功で、天然染料(茜
あかね、藍あいなど)が駆逐された。

  染料開発・化学合成で発見・発展させられた科学技術により、医薬品、香料・工業用薬品・写真材料も開発。


  産業革命以来培ってきた工科大学や企業内研究所による組織的技術開発


    
5大化学企業・・・バイエルBayer、ヘヒスト(ヘキストHoechst)、アグファAGFA、BASF、カッセラ
    技術革新・世界の最先端・・・・特別利潤・・・その再投資(自己金融)
        →巨大独占体へ

    特許網の世界的拡延・・・・世界市場掌握

    1870年で、この分野で世界総輸出の50%、
    1900年には、世界総輸出の90%。

    さらに、フランス、イギリス、アメリカにも子会社設立・現地生産。

    硫酸・硝酸など原料・半製品生産へも進出
    1911年には、ハーバー・ボッシュ法によるアンモニア合成に乗り出す。
           →総合化学企業へ。

    巨大企業間の競争激化→過当競争→カルテルなどの結成→その崩壊→再結成・・・・生産の集積・集中:独占形成→BASF,バイエル、AGFA3社は、1904年、「利益共同体Interessengemeinschaftを結成(利益の共同計算、特許の相互利用)。 





  イギリス化学工業の牙城(ソーダ)も、ベルギーのエルネスト・ソルヴェーによるアンモニア・ソーダ法(石炭ガス製造の際に得られる副産物を利用)の発明・・・・1873年ごろから量産体制・・・・旧式のルブラン法によるイギリスへの脅威。
  ソルヴェー法は、1900年までに、フランス、ドイツ、オーストリア=ハンガリーを制覇。
  ・・・イギリス・ルブラン法企業の凋落




1913年の化学生産
   全化学製品では、アメリカが、一位、ドイツが二位。
   染料では、ドイツはダントツ、85%。
   レーヨンでは、ドイツが一位、イギリス二位。





(4)機械
   ここでもイギリスをアメリカ、ドイツが追い上げる。

機械輸出で、ドイツは、1908年ー1910年の間にイギリスを追い抜く。

アメリカは?





  イギリスが優位をたもったのは、繊維機械、機関車および蒸気機関、船舶、農業機械という産業革命以来の分野。

  ドイツの優位分野・・・・重電機器や産業機械、内燃機関

  先駆者としてのアメリカ、アメリカの優位分野・・・・農業機械(刈り取り機)や重電機器やミシン、タイプライターなど事務機

  アメリカ式製造法(Ameican System of Manufactueres:互換部品方式、多数の専用工作機械を多数併列し、計測器具を活用して標準化を図る)を武器に、ヨーロッパ市場へ進出
  シンガー・ミシンの世界制覇

  自動車工業・・・・奢侈品工業・・・・多数のミシン・機械・自転車メーカーが参入。少量生産

  しかし、すでに1913年当時、アメリカは、年産48.5万台(うちフォード18万)
        フランスは4.5万台
        イギリスは、3.4万台
        ドイツは、2万台程度。

  フォードやキャディラックはヨーロッパに輸出、現地生産開始。


   ヨーロッパの機械工業は、一部の兵器産業(たとえば、ドイツのレーヴェ、ヴォルフ)を除くと、アメリカ式大量生産や標準化が進まず、第一次大戦中や戦後の合理化運動(ワイマール期)により、ようやく流れ作業を普及させるにいたる。


   




19世紀末ー20世紀に急激に成長した二つの大国アメリカとドイツ、その違いは?

広大な国内市場を持つアメリカ、大量の移民(意欲ある人々)・資本を吸収しつつ成長・・・
余談(先取り)となるが、ヒトラーは、ドイツ人をはじめとするヨーロッパの能動的な人々がアメリカに移民したことがアメリカ興隆の重要な一員とみなし、ドイツ至上主義・ドイツ民族至上主義・ドイツ民族強化の観点からドイツ人の国外移住の流れ・政策を批判・否定

狭隘な国内市場(遅れた東エルベ・農業地帯をもつ)のドイツ・・・輸出圧力