2023年1月20日(金)16:10~17:40 

 本日は、ヴァンゼー会議(テキスト第6章5、第三回講義)1942年1月20日、81周年の日
   (会議場・・・ベルリン郊外高級住宅地ヴァンゼー58)

注記:下記のレジュメをPdf版で前もって配布しますが、研究室Webサイトの下記アドレス
(Pdf版各ページに明示)で、

  第一回:http://eba-www.yokohama-cu.ac.jp/~kogiseminagamine/2023-01-20DaiIkkai.html

  本文にリンクを張ったすべての資料も参照できます。
  講義では、適宜、リンクを張ったページをご覧いただきながら、話を進めます。



はじめに
   
――序章の解題――

   
テキスト2022年3月30日刊:表紙 表紙Pdf 表紙説明表紙説明

 
タイトル『アウシュヴィッツへの道』に込めた思い、その意味。
 
  そもそも、なぜ、「アウシュヴィッツへの道」を問題にするのか?
  
ホロコースト(ユダヤ人大量殺戮)が、なぜ、いつから、どこで(何人,ベンツ6,345,487人))、
   どのように、行われたのかを、なぜ、問題にするのか?


最も直接的な答え:拙著解題アウシュヴィッツという「結果」「結末」を理解するため。
 (Cf.歴史研究における「理解」の一般的意味・意義)
 

 ホロコーストがいかなる要因群の積み重なり・絡み合いか、その真実を明らかにする。

  
「結果」「結末」を示す文献・・・多い

   ・・・
中谷剛『アウシュヴィッツ博物館案内』岩波書店、2012。表紙Pdf
         絶滅収容所地図(なぜ、ここに?)
  
 
 しかし、なぜ、どんな経路をたどって、こんな結末に?

   「なぜ」に関しても、ヒトラー個人に関するものから第三帝国全体に関する
   ものまで、文献が極めて多い。


  
しかし、たくさんの文献のなかで、
   
特に問題なのは、世の中に流布する
  
否定論(「ガス室はなかった」etc…後述)、
        ・・・(有名な裁判・映画「否定と肯定」
   および、
     不正確な歴史認識。


     
「不正確な歴史叙述」「不正確な記憶・言説」、たとえば
       ・・・杉原千畝をめぐる言説
(拙稿書評も参照されたい)

    
それら一つ一つの具体的な訂正・・・歴史科学の課題・仕事。
   
・・・歴史研究者は史料(発掘・読み込み)・議論・論文を通じて、過去の業績・認識に批判的に対峙し、
        より正確で、より深い認識を作り出す、これまでの認識の更新、それを使命としている。
     ・・・
エクステンション講座の意義・意味・・・その過程の当面の成果を提示。

  
全16巻の最新史料集(欧米の歴史研究の到達点)
   これを基に、歴史を問い直す、検証しなおす。
   史料集の編者の一人ヘルベルトの歴史解釈も批判的検討の対象。

   論点:大々的なヨーロッパ・ユダヤ人絶滅政策の画期をいつとみるか?

    
新しい説(後述のヘルベルト説)についても、批判的に検討する。
   
・・・教科書的で常識化した「世界戦争」の開始時期に関する批判。

  
講義の背景となる研究の経過:第三帝国の膨張・侵略の歴史の研究
    
1991年のソ連崩壊をどう理解すべきか?
    
「西側が冷戦に勝利した」と浮ついていていいのか?
     
ロシアのウクライナ侵攻・侵略で改めて露呈したのが、
     ソ連崩壊とソ連の諸民族のナショナリズム、そのぶつかり合い。

      
ヒトラーの論理(大ドイツ主義)と
        プーチンの論理(大ロシア主義)の類似性・共通性

      
(ヒトラーにおけるズデーテン問題、ポーランド回廊問題、
        プーチンにおけるクリミア、ドンバス地方)


   
そもそも、なぜ、ソ連は世界を二分する世界強国になったのか?
     ・・・独ソ戦と第二次世界大戦に勝利することによって。

    ドイツ第三帝国のソ連征服政策

      1941年6月22日、独ソ戦⇒
           1941年12月7日(日本時間8日)世界戦争
                     ⇒第三帝国敗北へ



たくさんの問題から、論点を絞ることになる直接の契機:
  
①『マルコ・ポーロ』事件
     (アウシュヴィッツ否定論、
     ガス室否定論の公然たる登場・・・1995年1月、

      文芸春秋社の若者向け月刊誌
)と

  ②最初の拙著に対する書評
     (栗原優神戸大学名誉教授、『歴史学研究』掲載、
      欧米の論争・研究に依拠して、41年7月説の立場から、
      拙著の12月説を学問的に批判)

   
(最近のヘルベルト説41年10月〜11月とその批判・・・後述)

 
 研究の歴史・進展・・・詳細多岐にわかる研究蓄積
    (史料・事実の発掘検証・因果連関の探求の積み重ね)

 
 論争を通じて、より正確でより深く視野のより広い認識へ 


第1回
ヴェルサイユ・ワイマール体制、相対的安定・国際協調、賠償問題と世界恐慌

     ――ヒトラー・ナチ体制・征服戦争との関連でホロコーストを理解する――

    テキスト:序章目次  
    第三帝国のユダヤ人迫害・大量殺戮をいかにとらえるべきか
   

はじめに
 1.歴史の見方と課題の限定
 2.犯罪行為主体・勢力の思想構造と闘いの場・状況
 3.植民地勢力圏再分割・世界強国建設の理念と行動、その帰結

 

  
第一次世界大戦の決定的重要性・・・総力戦、長期戦

    第一次世界大戦・
史上初めて(世界史における唯一性)の世界戦争・総力戦、

    その終結の仕方の重大性
    ・・・11月革命とワイマール体制(民主主義)
      ヴェルサイユ体制
      (領土・賠償金、戦争の大義・名誉・戦争責任との関係)
    

   
第一次世界大戦の帰結(ヴェルサイユ体制)の問題性
     ・・・敗者に全責任、敗者から植民地を奪う


   
ヒトラーが領土膨張に乗り出す1938年当時の
     全世界の植民地所有状況(1934-35年統計)

     (出所:ヨーロッパ列強による所有・支配・・・
       ホブスン『帝国主義論』矢内原忠雄訳、下、岩波文庫)


      第一次大戦の原因と結果をどう考えるか?
   
  
 1.ヒトラーの思想構造html

    ヒトラーは生まれてすぐに後年のヒトラーになったのか?・・・否。
    
・・・・『アウシュヴィッツへの道』表紙写真・・・ヒトラー生家
    
    
ヒトラーの思想・行動を形成した諸条件は何か?
      ・・・たくさんの研究・・・拙著巻末文献リストに最近のもの
    
・・・ホロコーストの「なぜ」を解くために最も重要な要因は、

     第一次世界大戦と枢軸諸国の敗戦・ヴェルサイユ体制悪い平和

   
 しかし、1928年までは、ナチ党(国民社会主義ドイツ労働者党、ナチス)は、
          ごく小さな政党・運動

    
戦後混乱期から相対的安定期・・・ワイマール連合=
      憲法体制維持の政党が何とか議会多数派を維持。

        
社会民主党、民主党、中央党
          ・・・
たとえば、世界最初の全金属製航空機開発者
             フーゴ―・ユンカースは、民主党。有名なマックス・ウェーバーも。

   
2.ヴェルサイユ体制・・・植民地勢力圏の再分割
     
戦勝国・・・英米仏、伊
     
  敗戦国・・・ドイツ、オーストリア、ハンガリー

    
具体例:ハンガリーに関して(講義内容は第3回のところ)
    
 参考文献:
      拙稿「第三帝国敗退最終局面とハンガリー・ユダヤ人の悲劇
      ――1944-1945大量殺戮の歴史的文脈」(Pdf) 
      特に、論文最後に掲載した地図

  
ヴェルサイユ条約に調印したのは、11月革命で誕生した政府。
    
ワイマール憲法を制定・・・憲法体制としては、当時の世界で
      最も民主主義的な憲法。

     
民主主義・議会共和制・・・多党制。

     しかし

        ワイマール体制が、抱えた難問群・多様なぶつかり合う利害・政策。
 
       1919〜23年まで・・・戦後危機、
         第一次世界大戦で破壊された経済の復興


     
1924〜28年・・・安定期(あくまでも相対的、
         基盤が弱い・・・復興資金の不足等


   
1929年10月以降、アメリカ発世界大恐慌
                ・・・
大量失業・大量倒産