二つの世界大戦とソ連「社会主義」の実験(補足・・2008年12月10日)
私の講義のエッセンスを理解してくれた感想(革命の言葉は私が補足)
「ロシアの社会主義(革命)やドイツの社会主義(革命)が第一次大戦の結果生じたというのが興味深かった。帝国主義(戦争)が社会主義(革命)を生み出し、その結果、スターリン体制やナチスを生み出したことから、帝国主義の問題点を改めて見直す必要があると思った。」
この観点を、たくさんの事実をもとに、深めて行ってほしい。
日本は、後発帝国主義国として、清国と戦争して台湾を手に入れ、日露戦争で満州まで勢力圏下に置き、朝鮮半島を植民地化した。その膨張が、第一次大戦のとき、「日英同盟のよしみ」を口実とするシベリア出兵、ソ連との対決(ノモンハン事件)を引き起こし、さらに、南進政策で英米と対決することになった。
質問とそれへの回答
1.ヒトラーはなぜソ連を攻撃しようと思ったか?
詳しくは、昨日手元に届いた論叢論文の原稿(再校ゲラ)のプリントを見てほしい。
ヒトラーの一貫した基本戦略・・・第一次大戦の「敗北の克服」、世界強国の建設・・・領土拡大は東方(ロシアとその周辺地域)に・・・東方大帝国の建設=『わが闘争』以来の一貫した根本戦略。
1939年8月の独ソ不可侵条約は、
ヒトラー・ドイツサイドとしては、英仏のポーランド保障政策(英仏との戦争の可能性)を踏まえ、ソ連と手を組んで、短期電撃的にポーランドを亡き者にしようとする戦略。(英仏との戦争への対処。ソ連とも同時に戦うことの回避。あるいは英仏とソ連の連携の回避、すなわち東西二つの戦線での大国との戦争の回避)
スターリン・ソ連サイドとしては、1939年5月から極東で激突した日本(関東軍)との戦争(ノモンハン事件)、その展開、戦争の先行きは不透明(短期で終わるか長期戦か?)。
極東とヨーロッパとの東西二つの戦線での戦争の回避。
イギリスの抵抗・戦争の長期戦化、イギリス圧服の準備・手段の欠如・
独ソの「同盟」は、それぞれの思惑のこもった一時的な性格。
1940年の西部電撃戦勝利は、イギリスを屈服させることができなかった。
長期戦に縺(もつ)れ込む前に、短期電撃的にソ連を征服し、ヨーロッパとソ連地域を支配下に置けば、人的物的資源を確保して、イギリス(背後のアメリカ)との長期戦を勝ち抜くことができる、との思惑。
2.戦争はなぜ起こるのだろうか?
まさに、それこそ、戦争の一つ一つの原因を検討する(研究する)ことで明らかにする必要がある。
19世紀末ー20世紀初頭・・・世界の帝国主義段階、先進帝国主義諸国と後発帝国主義諸国・・・世界分割・再分割をめぐる世界的争い。
第一次世界大戦・・・・帝国主義戦争
第二次世界大戦・・・・後発帝国主義(ファシズム諸国)と先進帝国主義・ソ連社会主義・被抑圧民族の連合国による戦争
二つの世界大戦の主要原因・・・19世紀に工業力・金融力を持ち植民地と勢力圏を持った先進工業国=先進帝国主義国(古い帝国主義国)・植民地所有国に対し、後進工業国=帝国主義諸国が力をつけ植民地・勢力圏の再分割を要求。英仏 対 ドイツ・・帝国主義戦争。
しかし、戦争には、帝国主義強国から独立しようとする植民地・従属国の民族独立・民族解放の戦争もある。
3.「いくら国土を増やそうと必死でも、やってはいけないという認識は薄かったのか」、「当時の人道は?」
世界各国に反帝国主義・反植民地主義の勢力・声・民衆がいた。
日本にも。たとえば、有名な石橋湛山の小日本主義。レーニンなどのボルシェヴィキもそのひとつ。
しかし、強国の中心にあった勢力(国家の権力を握っていた勢力)が帝国主義の根本政策を推進。
4.@「原爆投下に関しては日本にも非があるというような言い回しは受け入れられない」、
A「アメリカの原爆開発を進めるきっかけを作ったのが日本だということが少しショックでした」
B「今回の講義で日本のおろかさ・小ささを知りました。・・・ドイツという大国が降伏したのに戦いを続けようとしていたり・・・これを決断したのは天皇などの上層部だが、それを信じて反戦運動も起こさなかった日本国民にも考えるべき部分がある。とはいえ、原爆は、小国日本に対してやりすぎなのでは、と考えてしまうのは、日本人だからだろうか?」
何の非もないところに原爆を投下するか(できるか)?
どのようなことをアメリカ大統領トルーマンは、投下の正当化理由としたのか?
日本がドイツと軍事同盟を結び、真珠湾攻撃をしたこと、日米開戦を踏まえて、軍事同盟国ドイツのヒトラーが対米宣戦布告をしたこと。アメリカは、ヨーロッパ(ユーラシア大陸)を支配するドイツとアジアで支配を拡大する日本という二つの強国から、挟み撃ちにされた状態。
そのドイツにおいて核分裂発見・・・核爆弾開発の可能性・危険性・・・アインシュタインなどのローズベルト大統領への進言(「ドイツが原爆を持ってしまったら大変なことになる、早く開発を」)に真実味・具体性・・・真珠湾攻撃後の1942年に原爆開発・マンハッタン計画開始。
原爆完成は、主たる脅威の対象であったドイツの無条件降伏(1945年5月)の2ヵ月後、1945年7月中旬。
なぜ、アメリカは原爆を投下したのか? その最新の研究成果が前回紹介した『原爆投下とトルーマン』。
「日本にも非がある」という場合、日本の誰に責任があるか?を問題にしなければならない。(Cf.冒頭で紹介した天皇の態度) 国家を戦争に導いた勢力、戦争をあくまで継続した勢力、こういったものをきちんと見据えていく必要がある。
5.「早すぎてついていけなかった」、「話の進むスピードが速かった」、「ちょっと難しい」、「非常にペースのはやい授業で聞き取り難かった」
申し訳ありません。今回のことがひとつのきっかけとなって、世界史における日本のかかわりを考えていくことに少し役立てば、うれしい。
6.「今、社会主義国で成功しているのはキューバだけ・・・社会主義国のメリットは?」
キューバの実態を調べてみる必要。なぜ、アメリカにさまざまの圧迫を受けながら、こんなにも長期に存続しえているのか?何がそれを可能としているのか?中国も「社会主義的市場経済」を掲げているわけで、その実態を歴史的発展の中で捉えてみる必要。
資本主義の持つ問題性を克服するものとしての社会主義・・・景気変動による大量失業者・格差社会の克服のあり方。
ソ連をはじめとする社会主義は、自由と民主主義の欠如した社会体制であり、社会全体(民主主義的に意思確認が必要)のためではなく、一部の勢力の独裁に終わってしまった。
なぜ当初の社会主義の理念・構想が挫折したのか、それを帝国主義戦争の時代との関係で説明した。社会主義の再生がありうるとすれば、自由と民主主義の成熟の結果としてであろう。
7.@「機械的なと思えるヒトラーに人間味というものはあったのか?」
A「ファシズムは反民主主義的な方法で政権を取っているという意見に私はいつも疑問を感じる。反対派の弾圧だけであそこまでのことをやってのけるだけのリーダーシップを持てるはずがない」
「人間味」とは? 「リーダーシップ」とは?ドイツ民族の生存はどうしたら確保できるのか、ドイツ民族の繁栄はどうしたら実現できるのか、とヒトラーが考えていたことは事実。その限りで(その意味で)、ヒトラーの英雄性・偉大性に感銘を受けた人々は多い。ナチ党の隆盛。
ヒトラーの答えは、世界強国建設、劣等民族の支配による世界帝国(東方大帝国)建設。自民族の強大化のために他民族を支配抑圧することを正当化。
8.講義のやり方に関する二側面からの批評
@「すごく面白かった。熱意がすごく伝わった」、「非常にわかり易く、とても面白かった」、「スターリンの粛清についての歴史的背景などを知ることができて、とても興味深いお話でした」、「先生のしゃべり方に思わず聞き入りました」、「興味深くて面白かった」、「とてもライブ感のある講義」などと、ポジティヴな感想。「力のこもった講義に圧倒されてしまいました」と感じる反面で、
A「しかし量が多すぎてついて行くのが大変」、「ちょっと勢いに押されて」、「論調が感情的過ぎて、冷静に話を聞くことができなかった」など、困惑の感想。
「改善すべきだ」とのご意見、私も思います。ついつい、熱が入ってしまったところがあります。
B「多くの内容を詰め込みすぎ」「結局何を言いたかったのかわからず非常に退屈」、「話を追うことで精一杯になり、自分で考えるゆとりがない・・・物足りなく感じる」・・・Aと同じく、改善すべき反省点。
C「すごく世界的にぐちゃぐちゃしていた時代で少しわかりづらかった」・・確かにそうですね。一つ一つ解きほぐすことが必要ですね。そのきっかけとなれば。
D「ロシア、ドイツ、イギリスのいろいろな関係に頭がこんがらがりそうだ」・・確かにそうですね。少しずつ整理してみる必要がありますね。
帝国主義 対 社会主義
帝国主義 対 民主主義
先進帝国主義諸国(英仏、オランダ、ベルギー) 対 後進帝国主義諸国(ドイツ、イタリア、日本)
先進帝国主義国・後進帝国主義 対 民主主義・自由主義の勢力
帝国主義 対 抑圧された諸民族
「後進帝国主義諸国=ファシズム陣営」として、「先進帝国主義国・ソ連社会主義・世界の非抑圧諸民族」が連合国(1942年1月1日の26カ国連合国宣言)として連帯して対決、という大まかな構図。
連合国内部に帝国主義・植民地主義の厳然たる存在。
9.「帝国主義の”恐怖“という視点が面白い」、
「社会主義に関して、・・・帝国主義と関連づけることによって、これまで見えてこなかったものが見えてくることがわかった」。
「帝国主義とソ連の体制は相反するものだけれど、それゆえに帝国主義の悪夢があるからソ連の体制が合ったというように密接に関係を持っていたのだ」。
まさに、こうした関連をこそつかんでほしいこと。講義の眼目。単なる「恐怖」ではなく、実質的な巨大な被害。
ソ連は、日本のシベリア出兵以来、日本からの脅威を受け(日本も、日独伊防共協定に見られるようにソ連からの脅威を感じていた)続けていた。
さらに、ナチス・ドイツに攻め込まれた。(Einsatzgruppe進撃路)
第二次大戦におけるソ連の被害は2000万人とも2500万人とも言われる。
前回、1941年12月の対米宣戦布告の国会演説においてヒトラーが、「380万余の捕虜」を手に入れたことを誇ったが、その背後にたくさんの戦死者、民間人の死者があったわけである。
10.「ソ連の社会主義体制が・・・続いた理由が何なのかが今回のテーマだと思う」(そのとおり、二つの世界大戦とソ連「社会主義」体制の生成・発展・拡大強化・没落の関連を中心的に問題にした・・・永岑コメント)が、「それを世界の帝国主義体制の悪夢だと言い切ることはできるのだろうか。・・・トップの天才的な指導者がいなけければ・・・」
そのとおり。帝国主義の側に強烈なカリスマを持った人物がおり、ソ連社会主義の側に「正直」で「非常に頭の切れる」スターリン(アメリカ大統領トルーマンがポツダム会談でスターリンに最初にあった印象を述べたもの)がいた。
11.「今回の範囲は高校時代にまったくやっていない部分で、話を聞いているだけではあまり理解ができなかったのですが、社会主義国がどのようなものかは、少し理解できました。また、東部戦線での被害を聞き、その当時、熾烈さが想像できました。」
12. 「一番驚いたのは、ソ連からのスパイが日本にいたことです」
同様の感想、ゾルゲに関する関心も多かった。
前回挙げた参考文献を参照されたい。
日本の中国侵略・対ソ侵略問題と国際スパイ事件
NHK国際取材班・『国際スパイゾルゲ』・・・ゾルゲ電報をソ連崩壊後現物で確認。
リヒアルト・ゾルゲ著勝部元・北村喜義・石堂清倫訳『二つの危機と政治−1930年代の日本と20年代のドイツ』御茶ノ水書房、1994年。
尾崎秀美『ゾルゲ事件
上申書 』(岩波現代文庫) 尾崎 秀実 (文庫 - 2003/2)
尾崎秀実『愛情は降る星のごとく』(新編
愛情はふる星のごとく (岩波現代文庫) 尾崎 秀実 今井 清一 (文庫 - 2003/4)
尾崎秀実時評集
日中戦争期の東アジア (東洋文庫) 尾崎秀実 米谷 匡史
(単行本 - 2004/3/11)