更新日:2004/08/18
利潤(最近の訳では、利益[1])Profitとはなにか?
普通の表面的(通俗的)な利潤(利益)Profitの概念は、たとえば、有斐閣『経済辞典』第4版、2002年によれば、
「企業の総売上額から、その生産ないし販売に要したすべての費用を差し引いた残差。
企業は、この利潤を最大にするように行動する。賃金、利子、地代などと並んで国民所得の要素である」(1266ページ)と。
「企業の総売上額」マイナス「その生産ないし販売に要したすべての費用」=利潤
なぜ、この残差が発生するのか?
残差の源泉はなにか?
問題の根本はここにある。
また、賃金、利子、地代と利潤との相互関係はなにか?が問題となる。賃金、利子、地代の源泉はなにか?
賃金は労働に対する方週である。源泉が「労働」であることは明確である。
それでは、利子は? 地代は?
マルクスは、利子と地代の源泉も労働(剰余労働)(その対象化されたもの)であることを明らかにした。
利子と地代は、利潤を獲得した産業資本が、利子生み資本(家)や土地所有(者)に支払うものであり、土台は利潤であることを明らかにした。
利潤Profit(利益)をどう説明するか?
上記『経済辞典』の「利潤学説theories of proft」によれば、
「利潤の源泉・定義をめぐる諸学説。
マルクスの基本定理によれば、利潤の源泉は階級的な搾取の存在である。
一方で、利潤を企業家の危険負担に対する報酬として解釈する立場や、資本の限界生産力としてとらえる立場がある」と。
まず、マルクスの学説の説明として、「階級的な搾取」というだけでは根本的に不足している。誤解さえ生みかねない。
利潤の基礎には、剰余価値があること、その剰余価値の実体は剰余労働であり、その対象化されたものであること、をマルクスは解明した。
剰余労働とは、必要労働に対する概念であり、人間が自分と家族の生命・生活を維持するために「必要」な労働時間は、いつの時代いつの場所でも絶対に必要なことであり、それを「必要労働」と定義する。
しかし、人間は、猿から人間に成長発達してくる人類史の長期的過程で、「必要労働」以上の労働をなしうるようになった。すなわち、自分と自分の家族の生活を維持するための労働以上に労働することが可能になった。それは労働生産性・人間の能力の発達によって可能になった。
この労働生産性の発達の結果、したがって人類の発達の結果、剰余労働が生まれた。
問題は、その剰余労働の結果としての生産物(剰余価値)を、だれが取得するかということである。
生産のし方と剰余労働(剰余価値・剰余生産物)の取得のし方とが、歴史の発達段階で違っている。
資本主義的な生産のやり方以前の諸時代においては、たとえば、主要な生産手段である土地の所有者が、その剰余労働・剰余生産物を取得していた。
資本主義も、それ以前の階級社会も、同じく階級社会である。
しかし、資本主義社会は商品生産社会であり、商品の売買をつうじて、生産手段の所有者に剰余労働・剰余生産物・剰余価値が取得される。
「階級の搾取」は、資本主義社会以前の古い生産様式でも存在した。
しかし、古い時代には、「利潤」はなかった。
利潤は、商品生産社会の発達とともに発生する。近代的産業資本の発達がその前提である。
そして、その商品生産社会、産業資本主義の社会では、とりわけその成熟した社会では、労働力さえもが商品になっている。
労働力の購入とその使用(労働)との違い、ここに利潤(剰余価値)の源泉を見るのがマルクスである。
マルクスは、アダム・スミスからリカードまでの労働価値学説史を批判的に分析して、この剰余価値学説を打ち出した。
「企業家の危険負担に対する報酬」という説に対しては、市場競争のなかで、「危険負担」をすべての企業家がしているわけであるが、全体としてはある一定量の利潤が確実に獲得されているわけで、その確実さの根拠はなにかが、説明できない。個々の企業は損失を出す場合もあるが、全体として、また国民所得総体を見ると、毎年確実に利潤部分が存在する。その確実な利潤の源泉はなにか、ということである。
先進国と更新国における利潤率(利益率)の差は、どのように考えればいいのか?
「危険報酬」説では、利潤と利潤率の違いが合理的に説明できない。
「資本の限界生産力」というのは、資本物神の把握である。資本というものは人間が作り出したものである。
仮に資本を、放置しておいたならば、ものを生産しない。主体である人間が生産や販売に関わってはじめて、資本は者を生み出す。
その主体(労働・肉体的精神的人間の働き)と資本との関係が不問に付されている。
利潤(利益)は、その反対の損失とともに、人間の主体的活動の結果である。生産力自体が、人間の生産力である。根本の把握が間違っている。
マルクスが「費用価格と利潤」、利潤率で展開したことを知ってかしらずか、いわゆる近代経済学では、「マークアップ率[2]」なる概念がある。
アメリカにおける190年から2003年の「定常状態のマークアップ率」は、12%→23%→7-8%といった変動であるという。詳しくは、日銀ワーキングペーパーシリーズの最新の号(2004年8月17日)「フィリップス曲線、粘着価格モデルと一般物価変動 *―米国のディスインフレの経験から―」の「付表(2)定常状態のマークアップ率」(pdf版p.27)を参照されたい。ついでにいえば、長期構造不況からの脱出という問題関心から提起されてきたインフレ目標設定論に対して日銀のなかでは、「貨幣の中立性」などの研究とともに、政府主導の通貨操作型の政策に対する批判的な研究がなされているようで、このWPもその一つのようである。
通貨の安定を使命とする日銀の問題関心からすれば、当然であろう。
長期構造不況は、貨幣的操作によってではなくて、問題が構造的にとらえられ、また解決が生産構造の根底(科学研究とその生産への適用のあり方などの総体:大学の位置など)から図られるべきものである。
アメリカの場合も、中国からの大量の低廉な商品の輸入がディスインフレの要因として指摘されている。この点は、上記WPでも言及されている。
一般に「マークアップ率」、利潤率に関しては、貿易が利潤率引き上げに作用することは、すでにマルクスが指摘(利潤率低下の一般的法則に対して反対に作用する諸要因の一つとして)していたことである。その単純な形ではリカード的な比較生産費説も、低コストの商品の輸入ということを意味しており、当然にも利潤率引き上げ要因となる。
「貿易によって一方では不変資本の諸要素が安くなり、他方では可変資本が転換される必要生活手段が安くなるかぎりでは、貿易は利潤率を高くする作用をする。というのは、それは剰余価値率を高くし、不変資本の価値を低くするからである。
Soweit der auswärtige Handel teils die Elemente des konstanten Kapitals,
teils die notwendigen Lebensmittel, worin das variable Kapital sich umsetzt,
verwohlfeilert, wirkt er steigernd auf die Profitrate, indem er die Rate des
Mehrwerts hebt und den Wert des konstanten Kapitals senkt.」
利潤率=剰余価値÷(不変資本+可変資本) であるから、可変資本部分が減少し剰余価値率が高くなると同時に、不変資本部分も低廉化で小さくなるからである。
「世界的なディスインフレ」の諸要因に関しては、同名の日銀WP(加藤涼他・2003年4月22日)がかなり適切な要因分析を行っている。冷戦解体と自由貿易拡大、グローバル化の進展の中で、90年代以降、@諸「新興国の供給力拡大」、A「IT関連財製造業等における生産性向上」、B「技術革新等を背景とした世界同時的な生産性向上」などが、需給ギャップなどを引き起こしつつ、「インフレ率を大きく押し下げる、ないしインフレ率の高まりを抑える要因として働いてきた」と(「要旨」)。
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利潤分析の篇別章別構成
『資本論』第三巻
第一篇 剰余価値の利潤への転化
(1) 通常の競争条件の表面における商品価格(費用価格+利潤)、
(2) 利潤率、
(3) 利潤率と剰余価値率との関係
(4) 回転が利潤率に及ぼす影響
(5) 不変資本充用上の節約
(6) 価格変動の影響
(7) 補遺
第二篇 利潤の平均利潤への転化
(8) 第八章 生産部門の相違による資本構成の相違とそれにもとづく利潤率の相違
(9) 第九章 一般利潤率(平均利潤率)の形成と商品価値の生産価格への転化
(10) 十章 競争による一般利潤率の平均化 市場価格と市場価値 超過利潤
(11) 十一章 労賃の一般的変動が生産価格に及ぼす影響
第三篇 利潤率の傾向的低下の法則
第13章 この法則そのもの
第14章
反対に作用する諸原因
第15章
この法則の内的な諸矛盾の展開
第一節 概説
第二節 生産の拡大と価値増殖の衝突
第三節 人口の過剰を伴う資本の過剰
第四節 補遺
[1] 現行企業会計の「利益」概念は、次のようになっている。
有斐閣『経済辞典』によれば、「利益Profit:企業活動の成果のこと。現行の企業会計では、期間計算を前提として、1会計期間における経営活動の結果実現したすべての収益とそれに対応する費用との差額として算定された当期純利益をさす。この意味での利益は、当該期間における経営業績の指標であるとともに、配当や税金の形で分配しうる金額の指標でもある」と。
企業活動には営業活動と非営業活動があり、営業収益と経常収益などが分かれている。
マルクスの資本論第三巻における分析は、まず最も基礎的な営業利益(営業利潤)の分析となっている。
[2] 有斐閣・経済辞典によれば、Mark-up ratio
原価60円の品に40円を加えて売値を100円に決めるとすると,マークアップ率は40/100=40%となる。この率の決定は,業界の慣習に依存することが多いが,営業費・利益金のほかに商品の消耗,将来の値下げの可能性などが考慮される。 |
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会計学・経営学における「原価計算と価格設定」における実際(考慮ファクターの諸要因)が、現実の企業の価格設定のあり方であろう。